追放された技術士《エンジニア》は破壊の天才です~仲間の武器は『直して』超強化! 敵の武器は『壊す』けどいいよね?~

いちまる

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新本部長と帝都技術士協会

カムナの計画

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 廃倉庫での激闘は、ほんの数分で終わった。
 当然だ。傍から見ても分かるくらい、カムナとラッツ達では戦力差がありすぎる。探索に関わる者であれば、どちらが勝つかなど、子供だとしても理解できる。

「――で、もう終わり? あたし、まだまだれるけど?」

 すなわち、カムナが圧勝するのだと。

「ぐ、おご……がぁ……!?」
「だ、だずげで……痛い、いだいよぉ……!」

 無傷で首を鳴らすカムナの周囲には、無残にも彼女の手によって破壊された技術士エンジニアやならず者が倒れていた。
 ボーマンのように顔中血まみれ、痣だらけなどはまだ優しい方で、中には床に顔を突っ伏したまま動かなかったり、手足がおかしな方向に曲がったりしている男もいる。いずれにせよ、誰もカムナにこれ以上反撃を試みようとは思わないようだ。
 そしてそれは、殴られすぎて、顔が倍ほどに腫れ上がったラッツも同様だった。

「バカな、あり得ない……こっちは二十人もいるのに、なんで……ぎひぃ!?」

 あまりの瞬殺ぶりに震えるラッツの右手を、カムナが勢いよく踏みつけた。

「二十人ぽっちでカムナオイノカミ様を相手取ろうなんて、発想が甘すぎるのよ。ましてや誘拐するつもりだったって、この頭の中に、ほんとに脳みそが詰まってんの?」
「あ、がが、ががぁ!?」

 少女の華奢な足だが、力は魔獣メタリオ以上だ。柔らかな肌も中身は鋼の塊であり、そんな脚部で踏みつけられれば、ラッツの腕から骨が軋む音もするだろう。
 今度こそ命の危機を感じた彼は、じたばたと狂ったように叫び散らかした。

「ず、ず、ずびばぜん! 調子乗ってまじだ! い、命だげは……!」
「命なんてとりゃしないわよ。そこの連中みたいに、両足へし折って自警団のところに突き出すだけだから安心しなさい」
「ひいいぃぃ……!」

 しかし、ラッツの命乞いが、カムナにとってどれほどの価値があるだろうか。
 鼻を鳴らして一蹴する彼女の冷たい目を見て、ラッツは涙と鼻水を流して震えた。
 これほど無様な姿を見たカムナには、彼らをいたぶってやる気はなかった。自分を誘拐しようなどと企む愚かさと、もしもその作戦が成功したとしても、その先は絶対に成功しないと理解しない愚かさに、ただただ呆れるばかりだった。
 何故かというなら、主のクリスが、武器アームズの拉致を許すはずがないからだ――。

「それにしても、あたしを攫うなんてね。クリスが知ったら、なんて言うか――」

 そこまで言って、ふとカムナは思った。

(……ちょっと待って、あたしがもしも誘拐されたら、クリスはすっごく心配するわよね。それで必死になってあたしを探して、見つけてくれるわよね!?)

 自分がいなくなれば、クリスはきっと街中を探し回るだろう。街の外に出てしまったと知れば、白い馬を駆って、帝都だろうが地上の果てだろうが追いかけてくるだろう。
 その事実は疑いようもないが(カムナの主観が大半を占めているというのに、彼女が気付くはずもないが)、クリスは自分がいなくなって初めて、一層寄り添ってくれる相手の愛おしさを分かってくれるのではないか。

(もしかすると、いなくなって初めて、あたしの大事さに気付いてくれるとか……!)

 ラッツの腕を踏みにじりながら、カムナはあり得るかもしれない夢物語に浸った。


 ※ここから妄想


 敵を打ち倒したクリスが、カムナを抱きかかえている。その目は精悍で、それでいて優しさに満ちている――つまり、カムナを見つめる瞳には、彼女への愛が溢れているのだ。

『カムナ、君が連れ去られて、やっと大事さが分かったよ……もう俺は、君なしじゃ生きていけないんだ! 君が誰よりも大事なんだ!』
『クリス……!』
『好きだ、カムナ! 二人で一緒に、幸せな未来を歩んでいこう!』

 クリスの言葉に、カムナは彼の首に手を回し、胸に顔をうずめて応えた。
 まさしく相思相愛の関係を、後ろから現れたギルドの人々が祝福する。

『はっはっは! 愛の絆に乾杯だなっ!』
『おめでとう、カムナちゃぁん! ギルド総出で、早速挙式の準備をするわよぉ~っ!』
『むきー! 悔しいですけど、カムナとクリス様の間には入れませんわー! わたくしの負けでしてよーっ!』

 フレイヤは上等な酒を振りまき、ローズマリーはギルド本部を式場へと早変わりさせる。リゼットなどという障害など今や些末、彼女にできることは二人の愛を認め、大人しく引き下がることだけだ。
 これが二人のラブロード。永遠に続く未来への道。
 作戦通りに物事が進めば、こんな未来が待っているのは確定的なのだ――。


 ※ここまで妄想


「……えへ、でへへ、でゅふふふ……!」

 凛々しさなどかけらもない蕩けた顔で、妄想に耽るカムナはにやにやと笑っていた。
 さっきまで自分達を淡々と叩きのめしていた武器の突然の豹変を目の当たりにして、その場にいた誰もが戦慄の表情を隠しきれなかった。

「……ど、どうしたんですか、いったい……!?」

 痛みに呻きながらも、どうにか絞り出したラッツの問いで、やっとカムナの顔はもとに戻った。そうして彼女は、彼の腕から足をどかして、何かを決めたように言った。

「――気が変わったわ、誘拐されてあげる」

 なんと彼女は、自分から誘拐されると宣言した。
 ラッツの顔にわずかな希望が灯ったが、それはたちまち絶望に塗り替えられた。

「その代わり、今からあんた達はあたしの言う通りに動きなさい。クリスがあたしを見つけて助けてくれるお手伝いをさせてやるんだから、感謝しなさいよね」

 カムナの言い分は、要するに「捕まるまで自分の作戦のおぜん立てをしろ」という意味だったからだ。ついて来てくれるどころか、自分達を逃がす気すらないというのだ。
 自警団に捕縛されるならまだいい。問題は、賄賂も脅迫も通じないギルドや探索者に、犯罪者として突き出された時だ。ローズマリーの性分からして、どう考えても自分達をただでは帰さないだろう。
 そう確信したラッツは、痛みも忘れて、必死の形相で叫んだ。

「な、何を言ってるんですか!? それってつまり、我々がやられ……」

 しかし、もう彼の意志など関係ない。カムナの決定が、この場での最高判決である。

「おぶぎゅっ!?」

 その証拠に、カムナは直ぐ近くに転がっていたならず者の後頭部を思い切り掴んで、地面に叩きつけた。床が砕ける音が耳に入り、吹き出す血がラッツの顔を染めた。
 口をぱくぱくさせた彼が見上げると、そこには地の底よりも冷たい双眸があった。
 じょぼぼぼ、と失禁したラッツに、カムナは静かに告げた。

「別に、強制はしないわよ。手伝わないなら、こうするだけだから」
「や、や、やります! やらせてくださいぃッ!」

 ラッツは理解した。自分が、自分達が選択する余地など、最初からないのだと。
 ――こうして、ラッツの惨めな懇願とともに、彼らの立場は地に落ちた。貴族お抱えの技術士集団から、カムナのために働く奴隷以下の存在になり下がったのだ。
 そしてここから、カムナの一大計画が幕を開けるのであった。
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