追放された技術士《エンジニア》は破壊の天才です~仲間の武器は『直して』超強化! 敵の武器は『壊す』けどいいよね?~

いちまる

文字の大きさ
87 / 133
貴族一家と還る墓

『帰名墓場』

しおりを挟む
「……で、探索者活動をしばらく休止したいって、そういうわけねぇ」
「はい……もう、私情でこれ以上、迷惑はかけられませんわ」

 エクスペディション・ギルドのカウンターで、リゼットはローズマリーに言った。
 自分の探索者としての登録を、一時的に外してほしいと。
 ローズマリーはさほど驚かなかった。彼女が原因でフレイヤが怪我をしたというのも知っていたし(幸い、軽い怪我で済んだ)、数日ほど彼女が呆けた調子なのも見ていた。ローズマリーからしてみれば、こうなるだろうと予期できる範囲の事態だったらしい。

「あなた達も、それでいいのね?」

 振り返ったローズマリーの問いかけに、クリス達が頷いた。
 リゼットが幽霊なのに食べたり飲んだりする上、疲れるだけでなく涙すら流すと言うのは周知の事実だったが、精神的な衰弱というのは誰も想定していなかった。
 武器アームズの破壊以外で、リゼットの消滅に関わってしまうのではないかと思えば、クリスだけでなく、仲間達も彼女の身を案じるのは当然である。

「ここに来るまでに、何度も相談しました。俺は、リゼットがこれ以上無茶をして、彼女も……仲間も取り返しのつかない事態になる前に、休ませてあげたいです」
「家族を喪うつらさはよく分かる、簡単に癒える傷ではないということもなっ!」

 クリスとフレイヤの隣で、カムナもうんうん、と頷き返した。

「あたしとマガツは、血の繋がりとかよくわかんないけど、クリスがいなくなったらって思うと耐えられないわ。それと同じだっていうなら、しっかり休むべきよ」

 普段は犬猿の仲であるカムナにまで心配されたリゼットは、暗い面持ちで、ぺこりと頭を下げた。

「皆様……本当に、申し訳ありませんわ」
「気にしないで、リゼット。元気になったら、また探索に行こう!」
「……そうですわね……」

 これまた普段なら、クリスに優しい言葉をかけられただけでも舞い上がるはずだ。
 しかし、今のリゼットは、もう何も考えられないようだった。自分はいったいどうなったのか、元に戻れるのか、それだけで頭がいっぱいになっているのは明らかだ。

「クリス、この子、元通りになれるの?」

 裾を引っ張って言ったマガツの頭を、クリスがくしゃりと撫でた。

「なれるさ、きっと。マガツも俺達と一緒に会いに行ってあげれば、きっとね」
「うん。マガツ、クリスと一緒に行くね」

 猫のように喉を鳴らすマガツを、リゼットは少しだけ羨ましそうに見つめている。
 もっとも、張り合う気力など、今の彼女にはないだろうが。

「ありがとうございますわ。では、わたくしは先に――」

 ふわりと浮いたリゼットが、幽体化してギルドを立ち去ろうとした時だった。

「――『帰名墓場』ってダンジョンを、知ってる?」

 思い出したように――わざとらしく、ローズマリーが言った。
 彼女の言葉を聞いて、リゼットは幽体化を止めた。

「……どうしたんです、急に?」

 首を傾げる一同の前で、ローズマリーはこれまたわざとらしく、それでいてリゼットに言い聞かせるような口調で話を続けた。

「これといって特徴がない、ちょっぴり不気味なだけのダンジョンだったのよ。けど、ここ一か月か二か月ほど、妙な噂が流れて困ってるのよねぇ。なんでも、強い願いを持っている探索者だけが行ける、最奥のさらに奥の階層があるらしいわぁ」
「強い願いを持つ者だけ? そんなの、初めて聞きました」
「私もよぉ。で、その階層なんだけど……」

 少しだけ間を置いて、彼女が含みのある様子で告げた。

「『死んだ人間に会える』らしいわぁ」

 死んだ人間と再会できる、ダンジョンがあるのだと。

「――っ!」

 リゼットの目が、信じられないほど見開いた。両親が死んだと聞いた時よりも大きなその目は、悲しみや苦しみではなく、喜びと興奮から来ているものだった。
 ただ、彼女以外はどう見ても、ローズマリーの話に懐疑的だった。何を言っているのかさっぱりだ、と言いたげなカムナとマガツはともかく、特に家族と死別しているフレイヤ、家族を追うクリスはなおさらだ。
 より深く言うなら、クリスに至っては、ローズマリーを怪訝な顔で見つめている。

「死んだ人間に、だと? おとぎ話にしか聞こえないなっ!」
「ところが、そうでもないみたい。南部ギルドには実際、報告が上がってるわぁ」

 そんな二人の態度も織り込み済みだと、ローズマリーの顔は言っていた。

「こっちでも何度か調査班サーベイを送ったけど、何も見つからなかったのよぉ。噂でいうところの、会いたい人がいなかったのも、そこまで強く願ったメンバーがいなかったのも、見つけられなかった理由かもしれないわねぇ」

 何の話をしたいのかは、大方誰もが理解していた。
 それを理解した上で、クリスは初めて、ローズマリーに嫌悪感を抱いていた。

「……それで、どうして今、その話を?」
「クリスちゃん、ギルドへの借金返済の一部を免除してあげる代わりに、『帰名墓場』の噂の真相を突き止めてくれないかしら? 他の探索者の安全を確保する為にも、ね」

 やはり彼女は、クリス達にダンジョンの調査依頼を出した。しかも、家族を喪ったリゼットに対して、家族と会えるかもしれない、怪しい階層を調べろというのだ。クリスでなくとも、いい気分はしない。
 クリスは、試すような様子のローズマリーに向かって、はっきりと言った。

「……悪い冗談ですね、ローズマリー本部長。俺達は今――」

 ところが、彼の毅然とした態度は、横から打ち崩されてしまった。
 彼の声を遮ったのは、カムナでもマガツでも、フレイヤでもない。

「――行かせてくださいましっ! その調査、わたくしが受けますわ!」

 ほかならぬ、リゼットだ。
 先ほどまでの虚ろな目は、今や熱意と勇気で燃え上がっていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティで「外れスキル」と蔑まれ、雑用係としてこき使われていた錬金術師のアルト。ある日、リーダーの身勝手な失敗の責任を全て押し付けられ、無一文でパーティから追放されてしまう。 絶望の中、流れ着いた辺境の町で、彼は偶然にも伝説の素材【神の涙】を発見。これまで役立たずと言われたスキル【アイテム錬成】が、実は神の素材を扱える唯一無二のチート能力だと知る。 辺境で小さな工房を開いたアルトの元には、彼の作る規格外のアイテムを求めて、なぜか聖女や竜王(美少女の姿)まで訪れるようになり、賑やかで幸せな日々が始まる。 一方、アルトを失った元パーティは没落の一途を辿り、今更になって彼に復帰を懇願してくるが――。「もう、遅いんです」 これは、不遇だった青年が本当の居場所を見つける、ほのぼの工房ライフ&ときどき追放ざまぁファンタジー!

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。