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第二章:おみやげを探しに
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「いいですか、マリーシア。しばらくは外出禁止です。黙って遠くに行くなんて、言語道断なんですからね!?」
邸に着いた頃には、ギーベルグラントはすっかり普段どおりの彼に戻っていた。
マリーシアは小さくなって、ギーベルグラントの雷を受け止める。
「まったく、外は危ないんです。その上、あのワイバーンに乗るなんて、無謀すぎます!」
「でも、ちゃんと紐で縛ったのよ?」
小さな声での反論に、ギーベルグラントの眼が光った。その『紐』を彼女の目の前に突き出し、ぶらぶらと振る。
「こんな紐、簡単に切れてしまいますよ。今回、何事もなく帰ってこられたのは、とても運が良かったんです。そこのところを、充分に承知しておいてください」
まるで亀のように首を竦めているマリーシアに、ギーベルグラントの視線がビシビシと突き刺さった。
しばしの沈黙。
やがてお説教が十二分に染み渡ったと判断し、ギーベルグラントは一息つく。
「まあ、今回は、これでおしまいにします。でも、もしも今度同じことをしたら、もう許しません。一生外出禁止にしますからね」
マリーシアがコクコクと頷くのを確認してから、ようやく表情を緩めた。
「じゃあ、せっかく採ってきたことですし、ペルチを食べましょうか」
「わたしが剥いてあげる!」
マリーシアの顔がパッと輝く。その笑顔に、ギーベルグラントは、自分の中の最後の怒りの一片が霧消したことを自覚した。甘いことは承知しているが、彼女に対して負の感情を持続させておくことは難しい。
いそいそと冷やしておいたペルチの実を持ってきたマリーシアは、その小さな手で皮を剥き始めた。
ペルチの実の皮を剥くのは簡単だ。ナイフを使わずとも、素手でペロリと剥がせる。
「はい!」
ツルンとしたペルチの実を、マリーシアが得意げに差し出す。
「ありがとうございます。いただきます」
期待に満ち満ちた眼差しで見守られながら、ギーベルグラントは実を口に運ぶ。瑞々しい果実は充分に熟れていて、舌の上で蕩けるようだ。
「とても美味しいです」
「よかった!」
マリーシアの満面の笑みに、ギーベルグラントは「まあ、いいか」と内心で呟いてしまう。この「お出かけ」がなければ、まだこの笑顔を見られずにいただろう。
所詮、ギーベルグラントはマリーシアに敵わない。
「ごちそうさまでした」
ギーベルグラントがそう言うと、皿の上に残った種に、マリーシアが手を伸ばした。それを布巾に包んで、彼女は大事そうに握りこむ。
「わたしね、この種をお庭に植えたいの」
「これを? もう、庭には、随分色々と植えていますが……」
「いいの」
そう言って、マリーシアは「ふふ」と笑う。そのいたずらっぽい笑顔にギーベルグラントは怪訝な顔をするが、マリーシアは構わず彼に抱きついた。
そして、耳元で囁く。
「ずっと、大好きだよ、ギイ。……ずっと」
邸に着いた頃には、ギーベルグラントはすっかり普段どおりの彼に戻っていた。
マリーシアは小さくなって、ギーベルグラントの雷を受け止める。
「まったく、外は危ないんです。その上、あのワイバーンに乗るなんて、無謀すぎます!」
「でも、ちゃんと紐で縛ったのよ?」
小さな声での反論に、ギーベルグラントの眼が光った。その『紐』を彼女の目の前に突き出し、ぶらぶらと振る。
「こんな紐、簡単に切れてしまいますよ。今回、何事もなく帰ってこられたのは、とても運が良かったんです。そこのところを、充分に承知しておいてください」
まるで亀のように首を竦めているマリーシアに、ギーベルグラントの視線がビシビシと突き刺さった。
しばしの沈黙。
やがてお説教が十二分に染み渡ったと判断し、ギーベルグラントは一息つく。
「まあ、今回は、これでおしまいにします。でも、もしも今度同じことをしたら、もう許しません。一生外出禁止にしますからね」
マリーシアがコクコクと頷くのを確認してから、ようやく表情を緩めた。
「じゃあ、せっかく採ってきたことですし、ペルチを食べましょうか」
「わたしが剥いてあげる!」
マリーシアの顔がパッと輝く。その笑顔に、ギーベルグラントは、自分の中の最後の怒りの一片が霧消したことを自覚した。甘いことは承知しているが、彼女に対して負の感情を持続させておくことは難しい。
いそいそと冷やしておいたペルチの実を持ってきたマリーシアは、その小さな手で皮を剥き始めた。
ペルチの実の皮を剥くのは簡単だ。ナイフを使わずとも、素手でペロリと剥がせる。
「はい!」
ツルンとしたペルチの実を、マリーシアが得意げに差し出す。
「ありがとうございます。いただきます」
期待に満ち満ちた眼差しで見守られながら、ギーベルグラントは実を口に運ぶ。瑞々しい果実は充分に熟れていて、舌の上で蕩けるようだ。
「とても美味しいです」
「よかった!」
マリーシアの満面の笑みに、ギーベルグラントは「まあ、いいか」と内心で呟いてしまう。この「お出かけ」がなければ、まだこの笑顔を見られずにいただろう。
所詮、ギーベルグラントはマリーシアに敵わない。
「ごちそうさまでした」
ギーベルグラントがそう言うと、皿の上に残った種に、マリーシアが手を伸ばした。それを布巾に包んで、彼女は大事そうに握りこむ。
「わたしね、この種をお庭に植えたいの」
「これを? もう、庭には、随分色々と植えていますが……」
「いいの」
そう言って、マリーシアは「ふふ」と笑う。そのいたずらっぽい笑顔にギーベルグラントは怪訝な顔をするが、マリーシアは構わず彼に抱きついた。
そして、耳元で囁く。
「ずっと、大好きだよ、ギイ。……ずっと」
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