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第三章:ずっと、大好き
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「また、眠っているのか……」
ギーベルグラントは、思わず呟いた。
春先の所為なのか、ここのところ、マリーシアはよく眠る。
夜眠れていない訳でもないのに、よく眠る。
その日も、昼食後から姿を見せなくなったマリーシアをギーベルグラントが探していると、彼女は中庭におり、ワイバーンの脚の間で丸くなっていた。その近くで、牡鹿もうつらうつらしている。
近づいてくるギーベルグラントに気付いてワイバーンが身じろぎしそうになったのを、手で制した。彼の動きを、ワイバーンと牡鹿の目がピタリと追う。
両者に見張られながら、ギーベルグラントはマリーシアの傍に膝をついた。
ワイバーンと牡鹿の体が風除けになり、彼女は暖かな春の日差しだけを浴びてぬくぬくと気持ち良さそうにしている。
昏々と眠るマリーシアの髪を、ギーベルグラントは指先でそっと撫でてみた。年頃になるときれいに結い上げるのが主流のようだが、腰を越すほどになったマリーシアの蜂蜜色の髪は今でもおろしっ放しで、ギーベルグラントが贈った髪飾りをつける程度だ。
起こさないように気を付けたつもりだったが、直にマリーシアがもぞもぞと動き始めてしまった。
「……あれ、ギイ?」
ゆっくりと空色の瞳が現われ、ギーベルグラントを見上げてホニャリと笑う。まだ半分寝惚けているようだった。
「すみません、起こしてしまいましたか?」
マリーシアは両手を突いて状態を起こすと、小さなあくびをしながら首を振った。
「ううん、もう起きないとだったから」
ギーベルグラントは寝癖のついた髪を手櫛で整え、外れかけた髪飾りを付け直してやる。
一見したところ、今こうしているマリーシアに具合の悪そうなところは見受けられない。だが、あまりによく眠られると、ギーベルグラントも流石に不安になってくる。
「ここのところ眠そうですが、身体の調子でも悪いのですか?」
「え、そんなことないよ?全然、元気元気」
ニッコリと微笑まれると、それ以上は何も言えなくなる。小さなしこりを残したまま、ギーベルグラントはマリーシアの両手を引いて立ち上がらせた。
「それならいいですが、具合が悪いようでしたら、早めに言ってくださいよ?」
並んで歩きながら、ギーベルグラントはそれだけ付け加える。
「大丈夫、大丈夫」
スカートをフワフワ揺らしながらスキップをするように歩くマリーシアは、確かに元気そうだ。
――やはり、自分の気にし過ぎだろうか。
マリーシアのことになると過度に心配してしまうことは、ギーベルグラント自身がよく解っている。きっと、季節の変わり目の所為に違いない。そう自分に言い聞かせ、首を振る。
しかし、心の底に巣食った不安を、ギーベルグラントは完全に消し去ることができなかった。
ギーベルグラントは、思わず呟いた。
春先の所為なのか、ここのところ、マリーシアはよく眠る。
夜眠れていない訳でもないのに、よく眠る。
その日も、昼食後から姿を見せなくなったマリーシアをギーベルグラントが探していると、彼女は中庭におり、ワイバーンの脚の間で丸くなっていた。その近くで、牡鹿もうつらうつらしている。
近づいてくるギーベルグラントに気付いてワイバーンが身じろぎしそうになったのを、手で制した。彼の動きを、ワイバーンと牡鹿の目がピタリと追う。
両者に見張られながら、ギーベルグラントはマリーシアの傍に膝をついた。
ワイバーンと牡鹿の体が風除けになり、彼女は暖かな春の日差しだけを浴びてぬくぬくと気持ち良さそうにしている。
昏々と眠るマリーシアの髪を、ギーベルグラントは指先でそっと撫でてみた。年頃になるときれいに結い上げるのが主流のようだが、腰を越すほどになったマリーシアの蜂蜜色の髪は今でもおろしっ放しで、ギーベルグラントが贈った髪飾りをつける程度だ。
起こさないように気を付けたつもりだったが、直にマリーシアがもぞもぞと動き始めてしまった。
「……あれ、ギイ?」
ゆっくりと空色の瞳が現われ、ギーベルグラントを見上げてホニャリと笑う。まだ半分寝惚けているようだった。
「すみません、起こしてしまいましたか?」
マリーシアは両手を突いて状態を起こすと、小さなあくびをしながら首を振った。
「ううん、もう起きないとだったから」
ギーベルグラントは寝癖のついた髪を手櫛で整え、外れかけた髪飾りを付け直してやる。
一見したところ、今こうしているマリーシアに具合の悪そうなところは見受けられない。だが、あまりによく眠られると、ギーベルグラントも流石に不安になってくる。
「ここのところ眠そうですが、身体の調子でも悪いのですか?」
「え、そんなことないよ?全然、元気元気」
ニッコリと微笑まれると、それ以上は何も言えなくなる。小さなしこりを残したまま、ギーベルグラントはマリーシアの両手を引いて立ち上がらせた。
「それならいいですが、具合が悪いようでしたら、早めに言ってくださいよ?」
並んで歩きながら、ギーベルグラントはそれだけ付け加える。
「大丈夫、大丈夫」
スカートをフワフワ揺らしながらスキップをするように歩くマリーシアは、確かに元気そうだ。
――やはり、自分の気にし過ぎだろうか。
マリーシアのことになると過度に心配してしまうことは、ギーベルグラント自身がよく解っている。きっと、季節の変わり目の所為に違いない。そう自分に言い聞かせ、首を振る。
しかし、心の底に巣食った不安を、ギーベルグラントは完全に消し去ることができなかった。
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