エイミーと旦那さま ② ~伯爵とメイドの攻防~

トウリン

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それぞれの語り場◇サイドA

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 午後の、ちょっと一息つく時間。
 手の空いたハウスメイドたち――わたしとアラーナさん、シェリルさん、キャリーさん、ドロシーさんは、旦那さまが差し入れてくださったお菓子をお茶請けに、休憩時間を楽しんでいました。
 旦那さまのご領地のカントリーハウスに戻ってきたのは、二年ぶりです。
 長く留守にしていましたが、やっぱり都よりもこちらのお屋敷の方が落ち着きますね。
 茶器のセットもこちらの方が手に馴染んでいて、やり易いです。
 お茶の用意をするのは、最年少のわたしの役割です。正式なメイドとして働かせていただくようになった十四歳の時から、ずっと。
 こういう大きなお屋敷では、メイドでも働き始める年齢は十八を超えていることがほとんどなので、わたしよりも若い人はなかなか入ってきません。
 だから、五年間、毎日わたしがさせていただいています。
 旦那さまのお茶の支度もわたしのお仕事なのですが、旦那さまはいつも――ちゃんと淹れることができていなかった最初の頃も――「おいしい」としかおっしゃってくださいません。その点、ハウスメイドの皆さんは、ちゃんとダメなところはダメだと教えてくださるので、わたしのお茶淹れの腕が上達したのは、皆さんのおかげなのです。

 ポットにお湯を入れて慎重に蒸らす時間を測っていると、頬杖を突いてわたしを眺めていたドロシーさんが不意に呟きました。
「……新しく来る人があたしより年上だと、このお茶淹れ、あたしの仕事になるのよね」

 思わず、時計から目を離してしまいました。
「新しい人、来られるんですか?」
 旦那さまとは毎日お顔を合わせていますが、そんなお話は一度もうかがったことがありません。
 わたしにとっては寝耳に水、だったのですが、他の方たちはみんないぶかしげな顔をしてわたしを見つめています。

「えぇっと、まあ、ほら、一人いなくなるわけだから、もちろん、一人入ってくると思うわ?」
 そんなふうにおっしゃったのは、一番年長のキャリーさんです。
「いなく……? どなたか辞められるんですか?」
 これも、聞いていません。というより、誰もそんな素振りも見せておられないと思うのですが。
 わたしが眉根を寄せると、みなさん、今度は困惑したような眼差しになっていらっしゃいます。と、そこでわたしはハタと気づきました。

「もしかして、キャリーさん、赤ちゃんでも……?」
 キャリーさんはハウスメイドの中で唯一旦那さんがいらっしゃる方です。もう結婚して五年になるのに、旦那さんが船乗りで一年のうちに何回かしか逢えず、なかなか赤ちゃんができないとよくため息をついているのです。
 そんな彼女に、もしかして――
 そう思ったのですが、キャリーさんは慌てたようにかぶりを振りました。
「違うわよ。だいたい、前回あの人と逢ったの、もう半年以上も前よ? できてたらとっくにお腹膨らんでるってば」
 ……そう言われれば、そうです。
 ですが、それなら、いったい誰が?

 内心で首をかしげるわたしの前で、皆さん、額を寄せ合ってます。
「旦那様、ついにしでかしたって話は……」
「あたしも風の噂で小耳に挟んだんですけど」
「じゃぁこれって、全然脈なしってこと? でもきっと、旦那様的にはもう戻れないところまで来ちゃってるわよね」
「……ちょっと旦那様がお気の毒になってきたわ」
「あたしは二年前からそう思ってましたよ」
「まあ、あの頃は仕方ないといえば仕方なかったんですけどねぇ」

 ――ひそひそ、ぼそぼそ、と、皆さんだけでお話が通じ合っていらっしゃるようですね。

「あの……?」
 釈然としないわたしに、なだめるような微笑みを浮かべたキャリーさんがティーポットを指さしました。
「ほら、エイミー。それ蒸らし過ぎじゃないの?」
「あ、すみません」
 なんとなく話を逸らされたような気がしないこともありませんが、確かに、三十秒ほど過ぎてしまいました。ちょっと渋いかもしれませんが、お菓子が甘いから良いでしょうか?
 慌ててカップへお茶を注ぐわたしをよそに、皆さんは内緒話をするようにまたお互いテーブルの上に身を乗り出してます。

「このエイミーの様子からすると、まだ大丈夫だと思うんですけど……」
「て言うか、旦那様、よく耐えてるわよね。二人っきりになった時とか、さぁ」
「でも、ホントに時間の問題よね? この子、旦那様の寝室にも入るわけでしょ? ちょっと寝起きでぼーっとしてる時とか、危ないわよねぇ」
「まあそこは旦那様だから、多分、なんとか、ほら」
「……」
 どことなく自信なさげな様子でそう締め括ったキャリーさんに、残った三人は無言で視線を交わしています。お互い、「どう思う?」と問いかけるような視線を。

 さっぱり会話に入れてもらえないわたしは、仕方がないので黙ってお茶を配ります。
 ……皆さんばかりが旦那さまの問題を解かっていらっしゃるような感じが、何となくモヤモヤするのですが。
 わたしだって、最近の旦那さまがどこかおかしいということは、判っています。でも、なぜ、何が原因でおかしいのか、それが判りません。
 それなのに、ドロシーさんたちは何か知っているようで……そう思うと、お腹の辺りがジリジリするというか。

「ねえ、エイミー」
 黙々と配膳を終えて自分の席に着いたわたしを、待っていたようにドロシーさんが見つめてきます。というより、睨んでいます?
「なんでしょう?」
 真向いに座っているドロシーさんは、わたしが彼女の前に置いたお茶を少し横によけて、テーブルの上にズイと身を乗り出してきました。
「いい? 愛してたら死にそうなくらいキスしないでいられないし、力いっぱい抱き締めずにはいられないし……もっと先のことだって、したくなるの。特に男は、それを我慢するには並々ならない努力がいるものなのよ。そこん所は解かってあげてる?」

 これまでの会話のどこから跳んできたお話なのか……聞き流していた皆さんの言葉を思い返してもどうつながってここに至ったのかさっぱりなのですが、ちょっと、「解かりません」とは言えない雰囲気です。
 わたしは、とりあえず、頷きました。が、『とりあえず』だということは、すぐにばれてしまったようです。

 ドロシーさんは、突然カッと目を見開きました。
 少し……怖いです。

「ああ、もう、解かってない! 解かってないわ、この子! なんでこんなふうに育っちゃったのよ。もう十九なのよ? あんた九歳で成長止まっちゃったんじゃないの? もう『女の子』じゃなくて、『女』なんだから!」
「まあまあ、ある意味、これも旦那様の自業自得というか、だし」
 きれいにまとめた金髪をかき乱さんばかりのドロシーさんの肩を、なだめるようにシェリルさんが叩いています。けれど、ドロシーさんには効果がなかったようで。
「そんなこと言ってたら欲求不満で暴走してこじれて気づいた時には全てがパアってことになっちゃうんですからね! ああもう我慢できない単刀直入に訊くわ」
 息継ぎなしにそう言い切ったドロシーさんは、次いで、わたしにビシッと指を突き付けてきました。

「エイミー、あんた、旦那様のこと、どう思ってんの?」

 それは、もちろん、大事なご主人様ですから。
「尊敬しています」

 沈黙。

「……ねえ、エイミー。もしもあたしが旦那様と抱き合ってキスしてたら、どう思う?」
「――……え……?」
 反射的に旦那さまの腕の中にいるドロシーさんが頭に思い浮かんで、その瞬間、ツキン、とひどくみぞおちの辺りが痛みました。
 なんだか、吐きそうな感じもします。
 知らないうちに視線が落ちて、テーブルの上のカップを見つめていたわたしに、少し柔らかくなったドロシーさんの声が届きました。

「じゃあ、さ、エイミー、ちょっと手を貸して?」
 言いながら、ドロシーさんはテーブル越しに手を差し出してきました。
 意図が判らないまま、わたしはその上に自分の手を重ねます。

 と、ドロシーさんはギュッとそれを握り締めてきました。
「あたしがこうしたら、あんたどう感じる?」

『どう』?
 ドロシーさんの手は、温かくて、柔らかくて――
「気持ちいいです」
「じゃあ、キャリーさんとかシェリルさんとかだったら?」
「……たぶん、同じです」
「なら、カルロとか」
 カルロさんがこういうことをしてくるのは、たいていお仕事中なので。
「早く放して欲しいな、と」
「ゲイリーさん」
「別に、何も」
 カルロさんならともかく、ゲイリーさんがそんなことをするなんて普通ありませんから、何をしたいのだろう、と首をかしげはしますが。

 ――ドロシーさんは、何が言いたくてこんなことを訊いてこられるのでしょう?
 そう思った時でした。

「旦那様だったら、どう?」
「……え?」
「旦那様に触れられると、あんたはどう感じるの? 皆と同じ?」

 ――同じ?

 わたしは、つながれている手を見つめました。
 いいえ、違います。
 全然、違います。
 旦那さまだと、触れられたところが何となくムズムズする感じがして、本当はわたしのような使用人は主ともっと距離を取らなければいけないと思うのですが、少し、うれしいのです。
 時々、旦那さまはわたしの身体に腕を回されますが、カルロさんがふざけてなさる時とは全然違って、不思議な――わたしの胸のどこかに何かが注がれるような、感じがします。
 たぶんそれは、わたしが、ほんの少しでも、旦那さまをお慰めできているような気がするから、なのです。
 ほんの少しでも、旦那さまのお力になれているような気が、するから。
 その時に感じるのは、身の回りのことをお世話している時とはまた別の、もっとほんわりするようなうれしさ、なのです。

 そんなふうに自分の中を振り返っていると、突然、わたしの鼻先に細い指が突き付けられました。空いている方の手の、ドロシーさんの指、です。
「いい? あんたのそれは、『好き』なの。それも『特別』な!」
 断定口調の、ドロシーさんの宣言。
 思わず瞬きをして、その指先をマジマジと見つめてしまいました。

 特別な、好き?
 特別とは――何が、『特別』なのでしょう?

「……旦那さまのことは、『特別に』お慕いしています」
 だって、旦那さまですもの。
 嫌いなわけがありません。もちろん、『好き』で、『特別』です。
 旦那さまが許してくださる限り、お傍でお仕えしていくつもりです。
 ですが、そんなふうに答えたわたしに、ドロシーさんはパッと離した手をテーブルに叩き付けるようにして立ち上がりました。
 ――大きな音でしたから、きっと、掌が痛いに違いありません。
 椅子も、勢い余って倒れてしまいました。
 けれどドロシーさんはどちらも全く気にしている様子がなくて、ほとんどテーブルによじ登るようにしてわたしに詰め寄ってきます。

「そうじゃなくて! それは、『恋愛的な意味』で『好き』なの! ついでに言うと、旦那様もね!」
「あ、ちょっと、ドロシーってば、そこは黙っておいた方が」
「そうよ、そういうのは当人同士に――」
 慌てた感じで割って入ったアラーナさんとシェリルさんを、ドロシーさんは一瞥で黙らせました。
「そんなこと言ってて、任せておいたらひと月以上進展なし、でしょ? 旦那様が戻られて一気に盛り上がるのかと思ったら、もう、全然だし」

 そこで、大きなため息。

「確かに、偉い人っていうのは身分差がどうとかあるんでしょうけど、旦那様ってこの国にめちゃくちゃ貢献されたんでしょ? もう、ご自分の幸せ追及したっていいと思うのよね」
 ブツブツとそう呟いたドロシーさんは、少し力が抜けた様子でまたわたしに目を向けてきました。
「とにかくさ、少しくらい、あんたも成長しなさいよ、中身的に。いつまでも『旦那様の可愛いエイミー』のままじゃ、気の毒よ」

 ――『旦那さまの可愛いエイミー』?
 確かに、旦那さまはわたしを『可愛がって』くださっているとは、思います。どちらかというと、『猫可愛がり』的な意味で。
 旦那さまをお支えしたい、もっと頼っていただきたいと思っているわたしとしては、少しばかり不本意ですが。

 その微かな不満がどう伝わったのか、ドロシーさんはふと微笑みました。
「ある意味、旦那様も悪いんだけどねぇ。あんなに経験積んでおきながら、全然役に立ってないんだもの」
 そう言って、まっすぐ伸ばした人差し指で、ツイ、としわの寄ったわたしの眉間を小突きました。
「まあ、とにかく、もう少し頑張んなさいよ?」

 ――それからは何となくお茶の時間も終わりになって、皆さんバラバラとお仕事に戻っていかれました。

 わたしも旦那さまのお部屋に行って、シーツを交換したり、棚の上を拭いたり、身体が動くに任せていつものお仕事をこなしていきます。
 そうしながら、ドロシーさんのおっしゃったことを考えてみました。

 わたしは旦那さまのことを『好き』なのでしょうか?
 『男の人』として?
 確かに、言われれば、旦那さまは他の人とは違います。
 わたしにとって、『特別』です。
 ですが、『特別に』好きなことと、『男性として』好きなことは、どう違うのでしょう。それとも、『特別に』好きなのは、『男性として』好きだということなのでしょうか?

 『特別に』好きなだけでは、いけないのでしょうか。
 そんなふうに考えていると、ついつい手がおろそかになってしまいます。
 と、ふいに寝室の扉が開いて、思わず手にしていたハタキを床に落としてしまいました。
 とっさに拾おうとしてしゃがみ込みかけたのですが、名前を呼ばれて途中で止まってしまいます。

「エイミー」
 低くて、柔らかい声。
 いつもと同じ声なのに、わたしは、いつもと同じように応じることができませんでした。

「エイミー?」
 もう一度、旦那さまはわたしの名前を口にされましたが、今度は、少しいぶかしげな響きを含んでいます。
 わたしは旦那さまには聞かれないように小さく深呼吸をしてから、振り返りました。けれど、何となく気まずいような感じがして、旦那さまと目を合わせることができません。

 旦那さまもわたしのおかしな態度に気づかれたのでしょう、歩み寄ってきて、ふと、その足を止められました。
「……どうかしたのかい?」
 旦那さまが手を伸ばされたら、届いてしまう距離。
「別に、何も」
 わたしは後ずさりしたい気持ちを何とか抑えて、床の一点を見つめて答えました。
 と、その視界にある旦那さまの靴が、一歩、近づきました。
 その一歩は大きくて、もう、つま先がわたしのスカートの裾に触れてしまいそうです。
 ほんの少しでも動いたら身体が勝手にこの部屋から駆け出していきそうで、指先を動かすこともできません。

 旦那さまといて、こんなに緊張するなんて。
 何かいつも通りのことを言わなければ、と思うのに、さっきまで色々と考え過ぎてしまっていたせいか、まったく頭が回りません。

「――お掃除は終わりましたので、失礼します」
 本当は、まだハタキをかけ終わってはいませんが、何とかそれだけ言って、視線を落としたまま頭を下げて旦那さまの横を通り抜けようとしました。

 が。

 通り抜ける前にわたしの腕は旦那さまに捕まって、わたしの足はその場に縫い留められてしまいました。動かそうとしても、動かないのです。
 旦那さまは固まったわたしの正面に立ち、もう一方の手をわたしの顎に添えてきました。
 触れているくらいの力だというのに、自然と顔が上がってしまいます。
 そうなったら視線を逸らしていることはできなくて、真っ直ぐにわたしを見下ろしている綺麗な青い目と出合ってしまいました。
 気まずいです。
 とても、気まずいです。
 こんなふうにされることは今までにもあったのに、こんなに気まずさを覚えたことは今まで一度もありません。

 わたしの無言の困り感が伝わったのか、旦那さまがふと眉をひそめました。
「やっぱり、何かあったんじゃないのか?」
 そう問いかけてきた旦那さまの手は、もうわたしの顎先に触れるだけではなくなっていて、いつの間にか左の頬を包み込むように置かれています。
 それだって、しょっちゅうされている仕草なのに。
「いいえ、本当に、何も」
 必要以上の力を込めてかぶりを振ると、意図せず、旦那さまのその手を振り払う形になりました。宙に浮いた大きな手が、わたしのこめかみの辺りでギュッと握り拳になります。
「……そうは見えないよ」
 うつむいたわたしの頭に落とすようにボソッと呟かれたその声は、少しイライラしているように感じられて。

 旦那さまからそんな声を聞いたことがなかったわたしは、思わず顔を上げました。けれど、旦那さまがどんな表情をされているのか確かめるより先に、サッと伸びてきた手がわたしを捉えていて、視界に入るのは旦那さまの胸元のボタンだけになってしまいました。
 わたしの背中に回されている腕は、いつものようにふわりと優しくて、きつくはありません。
 けれど、身体を離そうとしても全然動けなくて。

「君は、全然、何も、気づいていないんだな。何も、知りたくないんだ」
 とても苦しそうな、旦那さまの声。
 言葉の中身よりもその声に含まれるもので頭の中がいっぱいになって、どういう意味なのかを考えることには思い至りませんでした。

「何か、おつらいことが?」
 とっさにそうお訊ねすると、旦那さまのお身体が一瞬こわばって、そして耳元で大きなため息が聞かれました。
「なんでも、ないよ」
 そう返されて、最初の遣り取りを、立場を入れ替えて繰り返していたことに気づきました。

 ――旦那さまに同じ言葉を返した時に、わたしはモヤモヤした思いを抱えていました。
 だったら、今の旦那さまも同じように何かあるのでは?
 そう思ったのですけれど、先ほど旦那さまの手に包まれた頬とは反対側のこめかみに柔らかな感触が押し当てられて、わたしの言葉は喉の奥へと封じられてしまいました。

 これは、キス。
 こめかみへの、キス。
 旦那さまはわたしによくキスをされるけれども、それは、いつも、額だったり、こめかみだったり、頬だったり、時には指先だったりします。
 ――唇、ではなく。

『愛してたら死にそうなくらいキスしないでいられないし、力いっぱい抱き締めずにはいられないし……もっと先のことだって、したくなる』

 不意に、お茶の席でのドロシーさんの言葉が脳裏によぎりました。
 旦那さまは、確かに、わたしに求婚されました。
 確かに、わたしに好意を注いでくださいます。
 それは、とても伝わってくるのです。
 けれど、ドロシーさんがおっしゃるようなことは、されません。
 触れる手はいつもそっと優しくて、キスも穏やかで。

 それは、つまり、やっぱり旦那さまの『好き』もそういう『好き』ではないということなのでは?

 考えれば考えるほど、旦那さまがわたしに求めていらっしゃるものが何なのか、判らなくなってしまいます。

 ――判らないから、どこにも行けなくて。

 わたしは、ため息がこぼれるのを抑えることができませんでした。
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