道路の七不思議

トウリン

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停留所

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 ほら、停留所の近くって、駐停車禁止になってるだろ? バスが走ってる時間帯は。
 この間、彼女から、終電には乗れたけど、バスは終わっちゃってるだろうから駅前まで迎えに来ていてって言われて、行ったんだ。車で。
 駅前なんだけど、小さい無人駅だからさ、道路も狭くって、まあ、この時間だからいいかって思って、バスの停留所のところに停まったんだよ。電車はまだ着いてないみたいで、音楽聴きながらしばらく待ってたんだよな。

 そしたら、カチッて、車のドアが開いた音がしたような気がしたんだ。来たのかな、と思って横を見たら、彼女が窓の外で手を振ってたんだよ。まあ、考えてみたら結構でかい音量にしてるんだから、ドアの音なんて聞こえたはずがねぇよな。気のせいか。

 ドアロックを解除してやると、彼女は「ごめんねぇ」って言いながら両手で拝みながら乗り込んできてさ。惚れた欲目じゃないんだけど、こんな可愛い子と付き合える喜びってヤツを、しみじみと噛み締めちまったな。いやホント、マジで可愛いし優しいし、多分、いやきっと、一生一緒にいるよ。
 ……実を言うと、指輪とか用意しちゃっててさ。
 いつ渡そうか、タイミングを計ってるところな。

「ありがと、すっごい助かる」
 ニコニコ笑っている彼女を見てると、幸せだぁって思うよ。心の底から。

「シートベルト締めた?」
「うん」
「じゃ、行くか」
 ――って、走り出そうとしたら、半ドアのアラームが点いててさぁ。見たら運転席でも助手席でもなくて、後部座席だったんだよな、これが。行きはちゃんと閉まってたんだけどさ。まあ、そういうこともあるわさ、と思って、閉め直して走り出したんだけど。

 それからしばらくしてさぁ、振られちまったんだよなぁ……

 理由を訊いても教えてくれねぇんでやんの。
 ただ、「あなたは悪くないのよ」って言うだけでさ。

 じゃあ、何が悪いってんだよ。
 未練たらたらで食い下がったけど、着拒はするし家に行っても門前払いでさ。

 それからずっと、フリーなんだけど。独り身って寂しいよなぁ、ホント。部屋で孤独にDVDとか観てると、身につまされるよ。

 でも、妙なことにさ、車に乗ってる時だけは、誰かが傍にいる気がするんだよな。
 彼女の気配が残ってんのかなぁ。そっと、誰かが触れてくるような感じさえ、するんだ。

 何か、ずっと車から降りたくないような気分になってくる。俺って、結構ロマンチストだったんだな。大学の講義も行く気になれないし、飯もコンビニで買ってシートで食べてるんだ。ベッドで横になったのは、もう随分前のことのようだよ。

 ほら、また。

 ひんやりとした何かが頬に触れて、スッと撫で下ろす。とても、親しげに。
 全身にゆるりと巻き付いてきたものが、抱き締めてくれるように力を込めてくる。
 ふと、いつかテレビの中で見た、大蛇に囚われた山羊の姿が脳裏に浮かんだ。

 耳元で感じる息遣い。
 甘く、囁く声。

 ああ、俺も愛しているよ。ずっと、一緒にいよう。
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