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第二部:らいおんはうさぎにこがれる
変わりゆく想い:部長命令
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「一年組で物品の点検やってさ、ダメになっちゃってるのとか買い直してきてくれない?」
後期試験が終わった十二月の半ば、久しぶりに勢ぞろいしたサークルメンバーに向けて、部長の飯沢がそんなことを言い出した。
「買い直し、ですか?」
首を傾げた花に飯沢が頷く。
「そう。毎年、一月二日は初日の出を拝みに行くのよ。寝袋とかテントとか、ほら、秋にやった流星群観測のとき、穴が開いてたりしたじゃない? あの時は良かったけど、流石に一月は寒いから。私、この間原稿料入ったしさ。卒業祝いに出したげる」
「卒業祝いって、普通はこっちが出すもんじゃないですか?」
得意げな飯沢にそんなツッコミを入れたのは二年の川崎だ。
「いいのよ、こう、初任給で親になんかしてあげる感じっていうか。それに、卒業後もここに顔出すつもりだし。私、基本的に出不精なんだよね。大学四年間でもまともにどこかに行ったの、合宿くらいだよ。下手するとヒキコモリ街道まっしぐらになっちゃう」
だから今後もよろしく、と彼女は笑った。
かねてから文筆業を目指していた飯沢は、卒業を前にしてめでたく小説家としてデビューした。ネットでの評判を見る限り、まずまずの売れ行きのようだ。もしかしたら、すでに下手な会社勤めよりも稼いでいるくらいかもしれない。
「とにかくさ、お金は出すから行って来てよ」
飯沢は花たちに目を向けて満面の笑みで言ったのだ。
――そんな遣り取りがあったのが十日ほど前のこと。
飯沢の望み通り、何とか都合を擦り合わせることができた司たちは、駅前のホームセンターに赴いていた。
「じゃあ、わたしと由美ちゃんは一階の小物売り場、花ちゃんと獅子王君は六階のレジャー用品売り場ね」
エントランスで指示を出すなり、乾は金古の腕に腕を絡めて歩き出す。
「ちょっと待ってよ、絵梨! 何でそうなるのよ?」
連れていかれてなるものかと足を踏ん張った金古に向けて、乾が唇を尖らせた。
「ええ? だって、わたしたちはキャンプ用品のことなんて全然知らないでしょ? 花ちゃんはそういうの詳しいし」
「……そうなのか?」
意外な情報に司が花を見下ろすと、彼女はにこりと笑う。
「うん。お父さんが好きだから。大学に入るまでは毎年夏に家族でキャンプに行ってたんだよ」
「へぇ」
花にはインドア系のイメージを抱いていたから、テントを張ったり火を起こしたりする彼女の姿は今一つ想像できない。
まじまじと花を見下ろす司の耳に、拗ねたような金古の声が入ってくる。
「だったら、私と花でもいいじゃない」
「寝袋とかテントとか重いんだから、荷物持ちには獅子王君がいいでしょ。だから、花ちゃんと獅子王君が組むのが正解」
金古の訴えをばっさり切り捨て、乾は彼女の腕を取った。
「じゃあ、花ちゃん、獅子王君、そっちは任せるね。行こう、由美ちゃん」
「あ、ちょっと、絵梨――」
金古の足掻きを乾はものともしない。
「買えたらまたここでね。三十分待っても相手が来ないようなら、電話しようか」
朗らかにそう言って、彼女はバイバイと手を振り問答無用で歩き出す。
普段乾はにこにこと笑って花と金古の遣り取りを聞いているような、三人の中では一歩下がった感があるが、実はヒエラルキーの中で彼女が最強なのではないだろうかと司は思った。
そんな二人を見送って、花は司を見上げてくる。
「えっと、じゃあ、行こっか?」
「ああ」
応えて司はすぐそこにあるエレベーターに向かおうとしたが、そこに声がかかった。
「あ、エスカレーターでもいいかな」
「別に構わないが」
軽く見渡しても視界にそれは入ってこない。
このホームセンターには司もしばしば来ているが、階を移動するのに使うのはいつもエレベーターか階段だ。
(エスカレーターは……)
「こっちだよ」
案内板を探そうとした司に先んじて、花は慣れた足取りで歩き出した。
後期試験が終わった十二月の半ば、久しぶりに勢ぞろいしたサークルメンバーに向けて、部長の飯沢がそんなことを言い出した。
「買い直し、ですか?」
首を傾げた花に飯沢が頷く。
「そう。毎年、一月二日は初日の出を拝みに行くのよ。寝袋とかテントとか、ほら、秋にやった流星群観測のとき、穴が開いてたりしたじゃない? あの時は良かったけど、流石に一月は寒いから。私、この間原稿料入ったしさ。卒業祝いに出したげる」
「卒業祝いって、普通はこっちが出すもんじゃないですか?」
得意げな飯沢にそんなツッコミを入れたのは二年の川崎だ。
「いいのよ、こう、初任給で親になんかしてあげる感じっていうか。それに、卒業後もここに顔出すつもりだし。私、基本的に出不精なんだよね。大学四年間でもまともにどこかに行ったの、合宿くらいだよ。下手するとヒキコモリ街道まっしぐらになっちゃう」
だから今後もよろしく、と彼女は笑った。
かねてから文筆業を目指していた飯沢は、卒業を前にしてめでたく小説家としてデビューした。ネットでの評判を見る限り、まずまずの売れ行きのようだ。もしかしたら、すでに下手な会社勤めよりも稼いでいるくらいかもしれない。
「とにかくさ、お金は出すから行って来てよ」
飯沢は花たちに目を向けて満面の笑みで言ったのだ。
――そんな遣り取りがあったのが十日ほど前のこと。
飯沢の望み通り、何とか都合を擦り合わせることができた司たちは、駅前のホームセンターに赴いていた。
「じゃあ、わたしと由美ちゃんは一階の小物売り場、花ちゃんと獅子王君は六階のレジャー用品売り場ね」
エントランスで指示を出すなり、乾は金古の腕に腕を絡めて歩き出す。
「ちょっと待ってよ、絵梨! 何でそうなるのよ?」
連れていかれてなるものかと足を踏ん張った金古に向けて、乾が唇を尖らせた。
「ええ? だって、わたしたちはキャンプ用品のことなんて全然知らないでしょ? 花ちゃんはそういうの詳しいし」
「……そうなのか?」
意外な情報に司が花を見下ろすと、彼女はにこりと笑う。
「うん。お父さんが好きだから。大学に入るまでは毎年夏に家族でキャンプに行ってたんだよ」
「へぇ」
花にはインドア系のイメージを抱いていたから、テントを張ったり火を起こしたりする彼女の姿は今一つ想像できない。
まじまじと花を見下ろす司の耳に、拗ねたような金古の声が入ってくる。
「だったら、私と花でもいいじゃない」
「寝袋とかテントとか重いんだから、荷物持ちには獅子王君がいいでしょ。だから、花ちゃんと獅子王君が組むのが正解」
金古の訴えをばっさり切り捨て、乾は彼女の腕を取った。
「じゃあ、花ちゃん、獅子王君、そっちは任せるね。行こう、由美ちゃん」
「あ、ちょっと、絵梨――」
金古の足掻きを乾はものともしない。
「買えたらまたここでね。三十分待っても相手が来ないようなら、電話しようか」
朗らかにそう言って、彼女はバイバイと手を振り問答無用で歩き出す。
普段乾はにこにこと笑って花と金古の遣り取りを聞いているような、三人の中では一歩下がった感があるが、実はヒエラルキーの中で彼女が最強なのではないだろうかと司は思った。
そんな二人を見送って、花は司を見上げてくる。
「えっと、じゃあ、行こっか?」
「ああ」
応えて司はすぐそこにあるエレベーターに向かおうとしたが、そこに声がかかった。
「あ、エスカレーターでもいいかな」
「別に構わないが」
軽く見渡しても視界にそれは入ってこない。
このホームセンターには司もしばしば来ているが、階を移動するのに使うのはいつもエレベーターか階段だ。
(エスカレーターは……)
「こっちだよ」
案内板を探そうとした司に先んじて、花は慣れた足取りで歩き出した。
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