らいおんはうさぎにおぼれる

トウリン

文字の大きさ
22 / 43
第二部:らいおんはうさぎにこがれる

変わりゆく想い:部長命令

しおりを挟む
「一年組で物品の点検やってさ、ダメになっちゃってるのとか買い直してきてくれない?」
 後期試験が終わった十二月の半ば、久しぶりに勢ぞろいしたサークルメンバーに向けて、部長の飯沢がそんなことを言い出した。
「買い直し、ですか?」
 首を傾げた花に飯沢が頷く。
「そう。毎年、一月二日は初日の出を拝みに行くのよ。寝袋とかテントとか、ほら、秋にやった流星群観測のとき、穴が開いてたりしたじゃない? あの時は良かったけど、流石に一月は寒いから。私、この間原稿料入ったしさ。卒業祝いに出したげる」
「卒業祝いって、普通はこっちが出すもんじゃないですか?」
 得意げな飯沢にそんなツッコミを入れたのは二年の川崎だ。
「いいのよ、こう、初任給で親になんかしてあげる感じっていうか。それに、卒業後もここに顔出すつもりだし。私、基本的に出不精なんだよね。大学四年間でもまともにどこかに行ったの、合宿くらいだよ。下手するとヒキコモリ街道まっしぐらになっちゃう」
 だから今後もよろしく、と彼女は笑った。
 かねてから文筆業を目指していた飯沢は、卒業を前にしてめでたく小説家としてデビューした。ネットでの評判を見る限り、まずまずの売れ行きのようだ。もしかしたら、すでに下手な会社勤めよりも稼いでいるくらいかもしれない。
「とにかくさ、お金は出すから行って来てよ」
 飯沢は花たちに目を向けて満面の笑みで言ったのだ。

 ――そんな遣り取りがあったのが十日ほど前のこと。

 飯沢の望み通り、何とか都合を擦り合わせることができた司たちは、駅前のホームセンターに赴いていた。
「じゃあ、わたしと由美ちゃんは一階の小物売り場、花ちゃんと獅子王君は六階のレジャー用品売り場ね」
 エントランスで指示を出すなり、乾は金古の腕に腕を絡めて歩き出す。
「ちょっと待ってよ、絵梨! 何でそうなるのよ?」
 連れていかれてなるものかと足を踏ん張った金古に向けて、乾が唇を尖らせた。
「ええ? だって、わたしたちはキャンプ用品のことなんて全然知らないでしょ? 花ちゃんはそういうの詳しいし」
「……そうなのか?」
 意外な情報に司が花を見下ろすと、彼女はにこりと笑う。
「うん。お父さんが好きだから。大学に入るまでは毎年夏に家族でキャンプに行ってたんだよ」
「へぇ」
 花にはインドア系のイメージを抱いていたから、テントを張ったり火を起こしたりする彼女の姿は今一つ想像できない。
 まじまじと花を見下ろす司の耳に、拗ねたような金古の声が入ってくる。

「だったら、私と花でもいいじゃない」
「寝袋とかテントとか重いんだから、荷物持ちには獅子王君がいいでしょ。だから、花ちゃんと獅子王君が組むのが正解」
 金古の訴えをばっさり切り捨て、乾は彼女の腕を取った。
「じゃあ、花ちゃん、獅子王君、そっちは任せるね。行こう、由美ちゃん」
「あ、ちょっと、絵梨――」
 金古の足掻きを乾はものともしない。
「買えたらまたここでね。三十分待っても相手が来ないようなら、電話しようか」
 朗らかにそう言って、彼女はバイバイと手を振り問答無用で歩き出す。

 普段乾はにこにこと笑って花と金古の遣り取りを聞いているような、三人の中では一歩下がった感があるが、実はヒエラルキーの中で彼女が最強なのではないだろうかと司は思った。
 そんな二人を見送って、花は司を見上げてくる。
「えっと、じゃあ、行こっか?」
「ああ」
 応えて司はすぐそこにあるエレベーターに向かおうとしたが、そこに声がかかった。
「あ、エスカレーターでもいいかな」
「別に構わないが」
 軽く見渡しても視界にそれは入ってこない。
 このホームセンターには司もしばしば来ているが、階を移動するのに使うのはいつもエレベーターか階段だ。
(エスカレーターは……)
「こっちだよ」
 案内板を探そうとした司に先んじて、花は慣れた足取りで歩き出した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」 入社した会社の社長に 息子と結婚するように言われて 「ま、なぶくん……」 指示された家で出迎えてくれたのは ずっとずっと好きだった初恋相手だった。 ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ ちょっぴり照れ屋な新人保険師 鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno- × 俺様なイケメン副社長 遊佐 学 -Manabu Yusa- ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 「これからよろくね、ちとせ」 ずっと人生を諦めてたちとせにとって これは好きな人と幸せになれる 大大大チャンス到来! 「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」 この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。 「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」 自分の立場しか考えてなくて いつだってそこに愛はないんだと 覚悟して臨んだ結婚生活 「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」 「あいつと仲良くするのはやめろ」 「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」 好きじゃないって言うくせに いつだって、強引で、惑わせてくる。 「かわいい、ちとせ」 溺れる日はすぐそこかもしれない ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 俺様なイケメン副社長と そんな彼がずっとすきなウブな女の子 愛が本物になる日は……

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ

Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。 理由は決まって『従妹ライラ様との用事』 誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。 「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」 二人の想いは、重なり合えるのだろうか …… ※他のサイトにも公開しています。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

処理中です...