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プロローグ
はじまり
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シイナがアサヒと出会ったのは、高校の時だった。
最初の関係は、高校の、文芸部の先輩と後輩。
シイナたちが通っていたのは女子高で、アサヒはカッコイイ感じの美人だったから、他の生徒から人気があった。
入学式の後の部活動勧誘合戦の中で、アサヒが声をかけてくれたのが、始まり。
小柄なシイナよりも頭半分くらいは高くて、色の薄い癖ッ毛のシイナと違って真っ直ぐでサラサラの黒髪で。シイナは下手をすると小学生にも間違えられがちだったけれども、アサヒはキリッとした切れ長の目にスッと通った鼻筋で、まるでモデルのようだった。
そんなふうだったから、最初にアサヒに呼び止められたとき、シイナはポカンと彼女に見惚れてしまった。
拒否する隙を与えられずにアサヒが部長を務める文芸部の部室に連れて行かれて、あがってしまって何も言えないシイナはいつの間にか入部していた。
アサヒから「好きだよ」って言ってもらえたのは、夏休みの合宿の夜。
初めてのキスが女の子と、なんて少し戸惑ったけれども、優しく触れるだけのそれはふわふわとして心地良かった。
アサヒは三年生、シイナは一年生で、毎日一緒にいられたのは一年間だけ。
その一年はとても幸せだった。
卒業後、アサヒは県外の大学に進んで、それからはたまにしか逢えなくて。
その二年間はとても寂しかったけれど、どうにかこうにか頑張って、この四月、シイナも彼女と同じ大学に入学できた。
シイナも独り暮らしをすることになった時、アサヒが声をかけてくれた。
彼女が住んでいるところは部屋が一つ余っているから、一緒に住んだらいい、と。
シイナの両親も彼女に独り暮らしをさせるのが不安そうだったから、アサヒの提案にもろ手を挙げて賛成してくれた。
そんなふうにとんとん拍子にアサヒとの同居が決まったのだけれども、引っ越す前に、アサヒの双子の弟だというツキヤに引き合わされた。
シイナたちと同じ大学に通う彼は、彼女たちの隣の部屋に住んでいるのだという。
ツキヤは、外交的なアサヒと正反対な感じで、初めて顔を合わせた時もほとんどシイナと言葉を交わすことがなかった。
容姿はアサヒとよく似ていて、やっぱりモデルみたい。
女性にしては背が高いアサヒよりもさらに高くて、シイナの頭のてっぺんは彼の肩に届くかどうか、というところだった。
ツキヤはアサヒとそっくりな切れ長の目でシイナのことをジッと見つめた後、物静かな声で、「はじめまして」と言って、「よろしく」と言って、「さようなら」でおしまい。別れた後、アサヒは、「あいつは愛想がないから」と笑っていた。
もしかしたら、姉から『恋人』として紹介されたのが女の子で、戸惑っていたのかもしれない。
あるいは、もしかしたら、彼に嫌われてしまったのかもしれない。
シイナはちょっと心配になったけれど、アサヒには、そんなことはないよとあっさり受け流された。
実際、それから時々、彼女とアサヒと三人でご飯を食べたり遊びに行ったりするうちに、シイナは素っ気ないツキヤが見せてくれる優しさに気付いていく。
口数は少ないけれども、何かあればすぐに気付いてくれる。
笑顔は滅多に見せてくれないけれど、何かの拍子にチラッと浮かべる笑みは、とても温かい。
ごくたまにシイナに触れる手は、控えめで、優しい。
なんとなく彼との間には距離を感じていたけれど、いつの間にか、そんなものかな、とシイナもその距離感に馴染み始めていた。
だから、こんなことが起きるなんて、夢にも思っていなかった。
――ツキヤがシイナにこんなことをするなんて、信じられなかった。
最初の関係は、高校の、文芸部の先輩と後輩。
シイナたちが通っていたのは女子高で、アサヒはカッコイイ感じの美人だったから、他の生徒から人気があった。
入学式の後の部活動勧誘合戦の中で、アサヒが声をかけてくれたのが、始まり。
小柄なシイナよりも頭半分くらいは高くて、色の薄い癖ッ毛のシイナと違って真っ直ぐでサラサラの黒髪で。シイナは下手をすると小学生にも間違えられがちだったけれども、アサヒはキリッとした切れ長の目にスッと通った鼻筋で、まるでモデルのようだった。
そんなふうだったから、最初にアサヒに呼び止められたとき、シイナはポカンと彼女に見惚れてしまった。
拒否する隙を与えられずにアサヒが部長を務める文芸部の部室に連れて行かれて、あがってしまって何も言えないシイナはいつの間にか入部していた。
アサヒから「好きだよ」って言ってもらえたのは、夏休みの合宿の夜。
初めてのキスが女の子と、なんて少し戸惑ったけれども、優しく触れるだけのそれはふわふわとして心地良かった。
アサヒは三年生、シイナは一年生で、毎日一緒にいられたのは一年間だけ。
その一年はとても幸せだった。
卒業後、アサヒは県外の大学に進んで、それからはたまにしか逢えなくて。
その二年間はとても寂しかったけれど、どうにかこうにか頑張って、この四月、シイナも彼女と同じ大学に入学できた。
シイナも独り暮らしをすることになった時、アサヒが声をかけてくれた。
彼女が住んでいるところは部屋が一つ余っているから、一緒に住んだらいい、と。
シイナの両親も彼女に独り暮らしをさせるのが不安そうだったから、アサヒの提案にもろ手を挙げて賛成してくれた。
そんなふうにとんとん拍子にアサヒとの同居が決まったのだけれども、引っ越す前に、アサヒの双子の弟だというツキヤに引き合わされた。
シイナたちと同じ大学に通う彼は、彼女たちの隣の部屋に住んでいるのだという。
ツキヤは、外交的なアサヒと正反対な感じで、初めて顔を合わせた時もほとんどシイナと言葉を交わすことがなかった。
容姿はアサヒとよく似ていて、やっぱりモデルみたい。
女性にしては背が高いアサヒよりもさらに高くて、シイナの頭のてっぺんは彼の肩に届くかどうか、というところだった。
ツキヤはアサヒとそっくりな切れ長の目でシイナのことをジッと見つめた後、物静かな声で、「はじめまして」と言って、「よろしく」と言って、「さようなら」でおしまい。別れた後、アサヒは、「あいつは愛想がないから」と笑っていた。
もしかしたら、姉から『恋人』として紹介されたのが女の子で、戸惑っていたのかもしれない。
あるいは、もしかしたら、彼に嫌われてしまったのかもしれない。
シイナはちょっと心配になったけれど、アサヒには、そんなことはないよとあっさり受け流された。
実際、それから時々、彼女とアサヒと三人でご飯を食べたり遊びに行ったりするうちに、シイナは素っ気ないツキヤが見せてくれる優しさに気付いていく。
口数は少ないけれども、何かあればすぐに気付いてくれる。
笑顔は滅多に見せてくれないけれど、何かの拍子にチラッと浮かべる笑みは、とても温かい。
ごくたまにシイナに触れる手は、控えめで、優しい。
なんとなく彼との間には距離を感じていたけれど、いつの間にか、そんなものかな、とシイナもその距離感に馴染み始めていた。
だから、こんなことが起きるなんて、夢にも思っていなかった。
――ツキヤがシイナにこんなことをするなんて、信じられなかった。
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