癒しの乙女の永久なる祈り

トウリン

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第一章:破られた日常

日常②

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 ――口伝が、ある。

 ここ、ルニア大陸には、かつて五人の英雄がいた。
 それは今から七代前のこと。
 大陸の北の沖に浮かぶ孤島に、ある時突如として、疫病を振り撒く邪神が現れたのだ。
 その邪神がどのような姿をしていたのか、それがもたらす災厄がどのような病だったのかは、知られていない。今の世には、ただ、『恐ろしくおぞましい力』とだけ、言い伝えられている。
 人々は、邪神の力の前に為す術もなく侵されるだけだった。何年もかからぬうちにヒトに限らずありとあらゆる生き物の数は半減し、そのまま死に絶えるしかないように思われたのだ。
 だが、そんな絶望の中、一柱の神が救いの手を差し伸べた。
 神は人の中から五人の英雄を選び出し、それぞれ剣、弓、斧、槍、そして魔導書の五つの神器を操る為の『印』を彼らに刻んだのだ。
 その『印』に護られ、英雄たちは邪神に挑んだ。
 彼らはその力を駆使し、辛苦を乗り越え、孤島に邪神を封じ込めたと伝えられている。以降、邪神の猛威ははたりと鳴りを潜め、ルニア大陸の生きとし生けるものは九死に一生を得たのだ。

 聖剣の使い手エデストル。
 聖弓の使い手トルベスタ。
 聖斧の使い手ヤンダルム。
 聖槍の使い手シュリータ。
 そして聖書の使い手マギク。

 五人の英雄たちは故郷へ戻り、神器を祀り、やがて彼らの元に集った人々はその名を称え、彼らの名を冠した国を興した。
 そうして、その末裔は神器を護り続けたのだ――その身に『印』を引き継ぎながら。
『印』が刻まれるのは、一世代に一人のみ。どんな技なのかはそれを為した神のみぞ知るところだが、『印』の保有者に子が生まれると親の『印』は消え、子にそれが現れる。
『印』を持つ者はそれと共にかつての英雄の名をも受け継ぎ、神器の使い手としての役割を負うことになるのだ。

 だが、それは、長いこと形ばかりのことになっていた。
『印』を持つ者は絶えず現れ続けたが、邪神の怨嗟の声が響き渡ることはついぞなかった。神器は偶像となり、何世代もの間、平和は、確かに保たれていたのだ。

 それが揺らぎ始めたのは、十年ほど前のことだろうか。
 最初の兆しは、マギク国の海岸に流れ着いた異形の死体だった。それは、ヒトが初めて目にする姿だった。

 何かに、似ているような気はする。
 だが、それは歪んでいて、おぞましくて、醜かった。
 魔物だとしか、言いようがなかった。

 孤島にはいつしかそういった異形の魔物が棲み付くようになり、ついにそこから溢れたモノたちは数年前よりルニア大陸へと勢力を拡大し始めたのだ。
 矢面に立ったのは、最も孤島に近い聖書を受け継ぐマギク国。
 魔物の攻撃を受けてマギクはエデストルに協力を要請し、当然、エデストルはそれを受けた。

 エデストルの現国王レジールは『印』は失ったものの優れた剣の使い手で、精鋭を率いてマギク国へと赴いている。最愛の王妃とまだ十五歳の王子、そして二つ年下のその妹姫を国に残して。
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