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第四章:飛竜の猛将
圧倒①
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次々と翼竜から降り立ったヤンダルムの者たちの前で、エディ、スクート、サビエが剣を抜き、得物が弓であるトールとバニークは彼らよりも数歩下がったところで矢をつがえた。
どうやら翼竜を戦力として投入するつもりはないようで、主を降ろすと竜たちは次々に空へと舞い戻っていく。
「さて、どうします?」
ヤンダルム勢にひたりと視線を据えたまま、サビエが振り返りもせずにエディたちに軽い声を投げかける。眇めた目で相手を一望したスクートはやや硬い声で応じた。
「手強いのはヤン王ですね。彼の右隣の男も、なかなかやりそうだな……」
「ヤン王はオレがやる。スクートはあの右の男ともう一人、どうだ?」
「やれる」
「じゃあ、エディ様はあとの二人を――」
小声で話し合っていたスクートたちに、太い声が割って入った。
「おいおい、何をコソコソやっている。私の相手は当然『エデストル王子』がしてくださるのだろう?」
そこに含まれるのは嘲笑の響き。
「それとも、その『印』は飾りか? 聖剣を受け継ぐ者が配下の背中に隠れるのか?」
「何?」
あからさまな挑発を、エディが聞き流せる筈がない。気色ばんだ彼を、ヤンが更にあざ笑う。
「貴殿が嫌だと言うなら、そちらのトルベスタの王子でも良いぞ? ただ、斧と弓では得物が違い過ぎるだろうがな」
「もちろん、俺が相手になるとも!」
「ちょ、エディ様、そりゃ無謀ですって」
きっぱりと言い切ったエディをサビエが慌てて鎮めようとしたが、彼は聞く耳を持たなかった。
「うるさい!」
「うわ、こりゃ完全に頭に血が昇ってるよ……どうする、スクート?」
背後でこそこそと兄に耳打ちするが、スクートは溜め息混じりに肩を竦めるだけだ。
「我々がさっさとけりをつけてエディ様の助勢に回るしかないだろう。エディ様に『印』があるのはヤン王も見ているんだ。まさか命を奪うことまではするまい」
「そうだな……まあ、あっちの雑魚三人はそう手こずらなそうだしな」
段取りをつける双子の遣り取りには気付いていないエディは、彼らに構うことなく一歩を踏み出した。全身に闘志がみなぎり指の先まで熱い。
(俺はやれる)
旅の最中も鍛錬は欠かしていない。わずかな間を惜しんでスクートやサビエを相手に腕を磨いてきたのだ。
エディは自分の力が足りないことで何かを失う羽目になるのにはもううんざりだった。
(負けたくない――負けない)
『印』を持っているということ以前に、エディはレジールの息子でありエデストルの王になる者なのだ。いつまでもスクートやサビエに守られているわけにはいかない。エディが彼らを守るのが、本来の姿だ。
「行くぞ!」
両手で剣を握り締め、エディは大地を蹴った。
悠然と構えているヤン目がけて距離を詰め、剣を振り上げる。
刹那、硬質なものがぶつかり合う耳障りな音がその場にいる者の鼓膜を震わせる。それがきっかけとなったかのように、残る男たちも動き出した。
スクートとサビエは左右に別れてヤンの両隣りにいる男たちに対峙する。そしてトールとバニークは隙をついては矢を放ち、ヤンダルムの者たちを牽制する。
決して勝てない戦いではない。
エディは自身にそう言い聞かせた。
空気を切り裂く鋭い音と共に繰り出されるエディの剣を、ヤンは重厚な斧を片手で操り造作なく打ち払う。
彼らの右側ではサビエが、左側ではスクートが、互いの相手に剣を振るうのがエディの視界の隅に入った。
双子は、一人で二人の敵を相手にしている。
エディはヤン一人だ。
だが――
(強い)
エディは胸の中で呻く。
当たり前だが、ヤンは強かった。
「それで精一杯か?」
揶揄するヤンに、エディは歯軋りをする。
「まだまだだ!」
己を鼓舞し、水平に剣を薙ぐ。が、ヤンはいとも簡単にそれを跳ね返し、エディに向けて斧を振り下ろす。
まともに喰らえば身体を真っ二つに割られてしまうのが確実なその重い刃を紙一重でかわしながら、エディは数歩背後に跳んだ。
距離を取って一つ息をついた彼に向けて、ヤンが一歩踏み出す。
「身は軽いな。確かに、動きは速く筋はいい。しかし、それだけでは私は倒せぬな」
「うるさい!」
冷静なヤンの指摘に、エディは怒声で応える。
だが、聖斧の使い手の台詞は正しい。どんなに急所を狙っても簡単にはね飛ばされてしまう。かすることすらしない。圧倒的に腕力が足りないのだ。
(どうしたらいいんだ――ベリート)
傍にいない師に、エディは問うた。
――敵と自分の違いは、弱みにもなり、強みにもなる。
ふと脳裏によみがえった声に、エディはハッと息を呑んだ。
自分とヤンの違い。
(それは、何だ?)
ヤンはエディよりもかなり上背がある。スクートやサビエよりも更に頭半分ほど大きい。
身体が大きければ、攻撃力も高くなる。それは当然だ。
だが――
エディは真っ直ぐにヤンの目を睨み付けつつ、再び剣を振り上げた。肩口を狙って斬り付けた白刃は、いとも簡単に弾かれる。が、それは予測していたことだった。
すかさず翻した腕でエディはそれまでよりも低い位置――ヤンの膝のすぐ上を狙う。
確かな手応え。
(やった!)
一瞬、エディは喜色を浮かべたが、すぐにそれは打ち消された。
「浅いぞ」
言うなり、ヤンは腿の肉を切り裂かれながらもエディに詰め寄った。振り下ろされた斧をとっさに剣で受け止めてしまい、その勢いをまともに喰らった彼の手は柄を放してしまう。
甲高い音を立て、クルクルと回転しながら放物線を描いたエディの剣が、彼らから五歩ほど離れた地面に突き刺さる。
「クソッ!」
呻いたエディにヤンがにやりと嗤った。
「降参か?」
斧を提げたヤンが、ずいと一歩詰め寄る。
が、次の瞬間彼は上体を捻るようにして右手に向き直り、斧を振るった。
叩き落とされたのは一本の矢。
いや、更に続けざまに二本、三本と射かけられる。
どうやら翼竜を戦力として投入するつもりはないようで、主を降ろすと竜たちは次々に空へと舞い戻っていく。
「さて、どうします?」
ヤンダルム勢にひたりと視線を据えたまま、サビエが振り返りもせずにエディたちに軽い声を投げかける。眇めた目で相手を一望したスクートはやや硬い声で応じた。
「手強いのはヤン王ですね。彼の右隣の男も、なかなかやりそうだな……」
「ヤン王はオレがやる。スクートはあの右の男ともう一人、どうだ?」
「やれる」
「じゃあ、エディ様はあとの二人を――」
小声で話し合っていたスクートたちに、太い声が割って入った。
「おいおい、何をコソコソやっている。私の相手は当然『エデストル王子』がしてくださるのだろう?」
そこに含まれるのは嘲笑の響き。
「それとも、その『印』は飾りか? 聖剣を受け継ぐ者が配下の背中に隠れるのか?」
「何?」
あからさまな挑発を、エディが聞き流せる筈がない。気色ばんだ彼を、ヤンが更にあざ笑う。
「貴殿が嫌だと言うなら、そちらのトルベスタの王子でも良いぞ? ただ、斧と弓では得物が違い過ぎるだろうがな」
「もちろん、俺が相手になるとも!」
「ちょ、エディ様、そりゃ無謀ですって」
きっぱりと言い切ったエディをサビエが慌てて鎮めようとしたが、彼は聞く耳を持たなかった。
「うるさい!」
「うわ、こりゃ完全に頭に血が昇ってるよ……どうする、スクート?」
背後でこそこそと兄に耳打ちするが、スクートは溜め息混じりに肩を竦めるだけだ。
「我々がさっさとけりをつけてエディ様の助勢に回るしかないだろう。エディ様に『印』があるのはヤン王も見ているんだ。まさか命を奪うことまではするまい」
「そうだな……まあ、あっちの雑魚三人はそう手こずらなそうだしな」
段取りをつける双子の遣り取りには気付いていないエディは、彼らに構うことなく一歩を踏み出した。全身に闘志がみなぎり指の先まで熱い。
(俺はやれる)
旅の最中も鍛錬は欠かしていない。わずかな間を惜しんでスクートやサビエを相手に腕を磨いてきたのだ。
エディは自分の力が足りないことで何かを失う羽目になるのにはもううんざりだった。
(負けたくない――負けない)
『印』を持っているということ以前に、エディはレジールの息子でありエデストルの王になる者なのだ。いつまでもスクートやサビエに守られているわけにはいかない。エディが彼らを守るのが、本来の姿だ。
「行くぞ!」
両手で剣を握り締め、エディは大地を蹴った。
悠然と構えているヤン目がけて距離を詰め、剣を振り上げる。
刹那、硬質なものがぶつかり合う耳障りな音がその場にいる者の鼓膜を震わせる。それがきっかけとなったかのように、残る男たちも動き出した。
スクートとサビエは左右に別れてヤンの両隣りにいる男たちに対峙する。そしてトールとバニークは隙をついては矢を放ち、ヤンダルムの者たちを牽制する。
決して勝てない戦いではない。
エディは自身にそう言い聞かせた。
空気を切り裂く鋭い音と共に繰り出されるエディの剣を、ヤンは重厚な斧を片手で操り造作なく打ち払う。
彼らの右側ではサビエが、左側ではスクートが、互いの相手に剣を振るうのがエディの視界の隅に入った。
双子は、一人で二人の敵を相手にしている。
エディはヤン一人だ。
だが――
(強い)
エディは胸の中で呻く。
当たり前だが、ヤンは強かった。
「それで精一杯か?」
揶揄するヤンに、エディは歯軋りをする。
「まだまだだ!」
己を鼓舞し、水平に剣を薙ぐ。が、ヤンはいとも簡単にそれを跳ね返し、エディに向けて斧を振り下ろす。
まともに喰らえば身体を真っ二つに割られてしまうのが確実なその重い刃を紙一重でかわしながら、エディは数歩背後に跳んだ。
距離を取って一つ息をついた彼に向けて、ヤンが一歩踏み出す。
「身は軽いな。確かに、動きは速く筋はいい。しかし、それだけでは私は倒せぬな」
「うるさい!」
冷静なヤンの指摘に、エディは怒声で応える。
だが、聖斧の使い手の台詞は正しい。どんなに急所を狙っても簡単にはね飛ばされてしまう。かすることすらしない。圧倒的に腕力が足りないのだ。
(どうしたらいいんだ――ベリート)
傍にいない師に、エディは問うた。
――敵と自分の違いは、弱みにもなり、強みにもなる。
ふと脳裏によみがえった声に、エディはハッと息を呑んだ。
自分とヤンの違い。
(それは、何だ?)
ヤンはエディよりもかなり上背がある。スクートやサビエよりも更に頭半分ほど大きい。
身体が大きければ、攻撃力も高くなる。それは当然だ。
だが――
エディは真っ直ぐにヤンの目を睨み付けつつ、再び剣を振り上げた。肩口を狙って斬り付けた白刃は、いとも簡単に弾かれる。が、それは予測していたことだった。
すかさず翻した腕でエディはそれまでよりも低い位置――ヤンの膝のすぐ上を狙う。
確かな手応え。
(やった!)
一瞬、エディは喜色を浮かべたが、すぐにそれは打ち消された。
「浅いぞ」
言うなり、ヤンは腿の肉を切り裂かれながらもエディに詰め寄った。振り下ろされた斧をとっさに剣で受け止めてしまい、その勢いをまともに喰らった彼の手は柄を放してしまう。
甲高い音を立て、クルクルと回転しながら放物線を描いたエディの剣が、彼らから五歩ほど離れた地面に突き刺さる。
「クソッ!」
呻いたエディにヤンがにやりと嗤った。
「降参か?」
斧を提げたヤンが、ずいと一歩詰め寄る。
が、次の瞬間彼は上体を捻るようにして右手に向き直り、斧を振るった。
叩き落とされたのは一本の矢。
いや、更に続けざまに二本、三本と射かけられる。
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