癒しの乙女の永久なる祈り

トウリン

文字の大きさ
94 / 113
第九章:剣士の帰還

投降①

しおりを挟む
 ひらり、と、空の欠片が落ちてきたかのように、青い何かが舞い下りてくる。
 それは頭の高さに持ち上げたシュウの指先にとまると、ピィと短く澄んだ鳴き声をあげた。
 その場には彼女以外にもフロアール、ルジャニカ、そしてカルがいた。
 皆の視線が注がれても、小さな青い小鳥はク、クと首をかしげて澄ましている。

「トール王子からですね?」
 カルの問いかけに、シュウは速翼鳥《パサール》の脚に付けられている小さな筒をいじりながら頷く。
「ああ。報せを飛ばせてきたということは、どうやら無事、片が着いたようだな」
 筒の中から出てきたのは、小さく巻かれた人差し指二本分ほどの長さの紙片だ。シュウはそこに書き込まれた、簡潔で要領を得た報告に目を通した。
「トール様は何て? ルゥナはどうなったと?」
 今にもその手紙を奪い取りそうな勢いで、フロアールが詰め寄る。
 シュウはそんな彼女にニッコリと笑って、答えた。
「取り戻したとさ。まあ、何だかまだ問題は残っていそうだけど、取り敢えず、彼女の弟も落ち着いたみたいだ。共に行動することになったらしい」
「良かった!」
 フロアールの顔が安堵と喜びに輝く。

「それで、お兄様方はいつごろお戻りになるのでしょうか」
 両手を組み、期待に満ち満ちた眼差しをシュウに向けているフロアールを、しかし、彼女は少し首をかしげて気の毒そうに見下ろした。
「彼らはここには戻らないんだ」
「え?」
 眉根を寄せたフロアールの頬に、シュウがそっと手のひらを添える。
「エディ王子達は、そのままエデストルに向かうらしい。聖剣を取りにな。魔物を操っていたルゥナの弟君と和解したから、その点に関しては危険はないよ」
 宥めるように言ったシュウを、フロアールがジトリと睨む。
「……そのおっしゃい方だと、他の危険があるように聞こえましてよ?」
 一瞬、シュウが沈黙した。
 口を閉じた彼女に、カルがため息をつく。

「姉上……もう少し、腹芸ができるようになってください。で、不安要素は何なのです?」
 カルの促しでシュウの視線がチラリとフロアールの方に走ったのは、彼女のことを慮ってのことだろう。フロアールはキュッと唇を引き結んで、言う。
「わたくしは構いませんから、お話しください」
「ピシカが離反した」
 一瞬、フロアールがポカンとした。
「え?」
「どうやら、彼女が望む方向に話が進まなかったらしいな。詳しいことは書いていないが、キレて姿をくらました、とある」
「トール王子がそんな言い方をなさいますか?」
 呆れたようにカルが言うのへ、シュウは肩をすくめた。
「意訳だよ。まあ、とにかく、今後はピシカがルゥナを狙ってくる可能性があるらしい」
「何故、そんなことになったのか……」
「さあな。いずれにせよ、魔物はもう襲ってこない筈だというから、ここはもう大丈夫だろう? 私もすぐにエデストルに向かうよ。邪神を封じるには神器の力が必要なのだろうし」
「エデストルの港は――ポルトは、機能しているでしょうか」
 眉をひそめた弟に、シュウはさっくりと答える。
「どうだろうな。まあ、行けば判る」
「姉上……」
 大雑把過ぎる姉に、カルがため息をついた。と、そこにフロアールが割って入る。

「では、わたくしもお連れ下さい」
 途端、シュウはムッと渋い顔になった。
「それは駄目だ」
「何故ですの? エデストルはわたくしの国ですわ」
「どんな事態になっているのか把握しきれていないし、行程はかなりの急ぎ足になるしな」
「そんなの、構いませんわ」
「私は構う。とにかく、貴女を連れては行かない。貴女はここでのんびりと待っていたらいいんだ」
 きっぱりと言ったシュウは、考えを変えそうになかった。
 ギュッと唇を噛んだフロアールが、女王と睨み合う。
 どちらも一歩も引かぬ、という気迫がみなぎっていたが、不意にシュウが目を逸らした。いや、目を逸らしたわけではない。近付いてくる人の気配に、そちらへ向いただけだ。
 やがて姿を現した兵士にカルが声をかける。
「どうした?」
「それが……マギクの兵が、門の前に集まっているのです」
「マギクの兵が?」
「は。こちらをシュウ王に、と」
 兵士が差し出したのは一通の書簡だ。
 シュウはそれを開き目を通してから、カルに手渡した。

「投降、ですか」
「まあ、今回の侵攻の大元にいたのがルゥナの弟君なら、彼が撤退したらそうなるだろうさ。だが、結局マギク王は姿を見せていないよな」
 呟くようにそう言って、シュウは腕を組んで考え込んだ。その横で、カルが言う。
「……ひとまず、彼らと会ってみましょう。マギクがどうなっているのか、何をするつもりだったのかは判るでしょうから」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...