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第九章:剣士の帰還
投降①
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ひらり、と、空の欠片が落ちてきたかのように、青い何かが舞い下りてくる。
それは頭の高さに持ち上げたシュウの指先にとまると、ピィと短く澄んだ鳴き声をあげた。
その場には彼女以外にもフロアール、ルジャニカ、そしてカルがいた。
皆の視線が注がれても、小さな青い小鳥はク、クと首をかしげて澄ましている。
「トール王子からですね?」
カルの問いかけに、シュウは速翼鳥《パサール》の脚に付けられている小さな筒をいじりながら頷く。
「ああ。報せを飛ばせてきたということは、どうやら無事、片が着いたようだな」
筒の中から出てきたのは、小さく巻かれた人差し指二本分ほどの長さの紙片だ。シュウはそこに書き込まれた、簡潔で要領を得た報告に目を通した。
「トール様は何て? ルゥナはどうなったと?」
今にもその手紙を奪い取りそうな勢いで、フロアールが詰め寄る。
シュウはそんな彼女にニッコリと笑って、答えた。
「取り戻したとさ。まあ、何だかまだ問題は残っていそうだけど、取り敢えず、彼女の弟も落ち着いたみたいだ。共に行動することになったらしい」
「良かった!」
フロアールの顔が安堵と喜びに輝く。
「それで、お兄様方はいつごろお戻りになるのでしょうか」
両手を組み、期待に満ち満ちた眼差しをシュウに向けているフロアールを、しかし、彼女は少し首をかしげて気の毒そうに見下ろした。
「彼らはここには戻らないんだ」
「え?」
眉根を寄せたフロアールの頬に、シュウがそっと手のひらを添える。
「エディ王子達は、そのままエデストルに向かうらしい。聖剣を取りにな。魔物を操っていたルゥナの弟君と和解したから、その点に関しては危険はないよ」
宥めるように言ったシュウを、フロアールがジトリと睨む。
「……そのおっしゃい方だと、他の危険があるように聞こえましてよ?」
一瞬、シュウが沈黙した。
口を閉じた彼女に、カルがため息をつく。
「姉上……もう少し、腹芸ができるようになってください。で、不安要素は何なのです?」
カルの促しでシュウの視線がチラリとフロアールの方に走ったのは、彼女のことを慮ってのことだろう。フロアールはキュッと唇を引き結んで、言う。
「わたくしは構いませんから、お話しください」
「ピシカが離反した」
一瞬、フロアールがポカンとした。
「え?」
「どうやら、彼女が望む方向に話が進まなかったらしいな。詳しいことは書いていないが、キレて姿をくらました、とある」
「トール王子がそんな言い方をなさいますか?」
呆れたようにカルが言うのへ、シュウは肩をすくめた。
「意訳だよ。まあ、とにかく、今後はピシカがルゥナを狙ってくる可能性があるらしい」
「何故、そんなことになったのか……」
「さあな。いずれにせよ、魔物はもう襲ってこない筈だというから、ここはもう大丈夫だろう? 私もすぐにエデストルに向かうよ。邪神を封じるには神器の力が必要なのだろうし」
「エデストルの港は――ポルトは、機能しているでしょうか」
眉をひそめた弟に、シュウはさっくりと答える。
「どうだろうな。まあ、行けば判る」
「姉上……」
大雑把過ぎる姉に、カルがため息をついた。と、そこにフロアールが割って入る。
「では、わたくしもお連れ下さい」
途端、シュウはムッと渋い顔になった。
「それは駄目だ」
「何故ですの? エデストルはわたくしの国ですわ」
「どんな事態になっているのか把握しきれていないし、行程はかなりの急ぎ足になるしな」
「そんなの、構いませんわ」
「私は構う。とにかく、貴女を連れては行かない。貴女はここでのんびりと待っていたらいいんだ」
きっぱりと言ったシュウは、考えを変えそうになかった。
ギュッと唇を噛んだフロアールが、女王と睨み合う。
どちらも一歩も引かぬ、という気迫がみなぎっていたが、不意にシュウが目を逸らした。いや、目を逸らしたわけではない。近付いてくる人の気配に、そちらへ向いただけだ。
やがて姿を現した兵士にカルが声をかける。
「どうした?」
「それが……マギクの兵が、門の前に集まっているのです」
「マギクの兵が?」
「は。こちらをシュウ王に、と」
兵士が差し出したのは一通の書簡だ。
シュウはそれを開き目を通してから、カルに手渡した。
「投降、ですか」
「まあ、今回の侵攻の大元にいたのがルゥナの弟君なら、彼が撤退したらそうなるだろうさ。だが、結局マギク王は姿を見せていないよな」
呟くようにそう言って、シュウは腕を組んで考え込んだ。その横で、カルが言う。
「……ひとまず、彼らと会ってみましょう。マギクがどうなっているのか、何をするつもりだったのかは判るでしょうから」
それは頭の高さに持ち上げたシュウの指先にとまると、ピィと短く澄んだ鳴き声をあげた。
その場には彼女以外にもフロアール、ルジャニカ、そしてカルがいた。
皆の視線が注がれても、小さな青い小鳥はク、クと首をかしげて澄ましている。
「トール王子からですね?」
カルの問いかけに、シュウは速翼鳥《パサール》の脚に付けられている小さな筒をいじりながら頷く。
「ああ。報せを飛ばせてきたということは、どうやら無事、片が着いたようだな」
筒の中から出てきたのは、小さく巻かれた人差し指二本分ほどの長さの紙片だ。シュウはそこに書き込まれた、簡潔で要領を得た報告に目を通した。
「トール様は何て? ルゥナはどうなったと?」
今にもその手紙を奪い取りそうな勢いで、フロアールが詰め寄る。
シュウはそんな彼女にニッコリと笑って、答えた。
「取り戻したとさ。まあ、何だかまだ問題は残っていそうだけど、取り敢えず、彼女の弟も落ち着いたみたいだ。共に行動することになったらしい」
「良かった!」
フロアールの顔が安堵と喜びに輝く。
「それで、お兄様方はいつごろお戻りになるのでしょうか」
両手を組み、期待に満ち満ちた眼差しをシュウに向けているフロアールを、しかし、彼女は少し首をかしげて気の毒そうに見下ろした。
「彼らはここには戻らないんだ」
「え?」
眉根を寄せたフロアールの頬に、シュウがそっと手のひらを添える。
「エディ王子達は、そのままエデストルに向かうらしい。聖剣を取りにな。魔物を操っていたルゥナの弟君と和解したから、その点に関しては危険はないよ」
宥めるように言ったシュウを、フロアールがジトリと睨む。
「……そのおっしゃい方だと、他の危険があるように聞こえましてよ?」
一瞬、シュウが沈黙した。
口を閉じた彼女に、カルがため息をつく。
「姉上……もう少し、腹芸ができるようになってください。で、不安要素は何なのです?」
カルの促しでシュウの視線がチラリとフロアールの方に走ったのは、彼女のことを慮ってのことだろう。フロアールはキュッと唇を引き結んで、言う。
「わたくしは構いませんから、お話しください」
「ピシカが離反した」
一瞬、フロアールがポカンとした。
「え?」
「どうやら、彼女が望む方向に話が進まなかったらしいな。詳しいことは書いていないが、キレて姿をくらました、とある」
「トール王子がそんな言い方をなさいますか?」
呆れたようにカルが言うのへ、シュウは肩をすくめた。
「意訳だよ。まあ、とにかく、今後はピシカがルゥナを狙ってくる可能性があるらしい」
「何故、そんなことになったのか……」
「さあな。いずれにせよ、魔物はもう襲ってこない筈だというから、ここはもう大丈夫だろう? 私もすぐにエデストルに向かうよ。邪神を封じるには神器の力が必要なのだろうし」
「エデストルの港は――ポルトは、機能しているでしょうか」
眉をひそめた弟に、シュウはさっくりと答える。
「どうだろうな。まあ、行けば判る」
「姉上……」
大雑把過ぎる姉に、カルがため息をついた。と、そこにフロアールが割って入る。
「では、わたくしもお連れ下さい」
途端、シュウはムッと渋い顔になった。
「それは駄目だ」
「何故ですの? エデストルはわたくしの国ですわ」
「どんな事態になっているのか把握しきれていないし、行程はかなりの急ぎ足になるしな」
「そんなの、構いませんわ」
「私は構う。とにかく、貴女を連れては行かない。貴女はここでのんびりと待っていたらいいんだ」
きっぱりと言ったシュウは、考えを変えそうになかった。
ギュッと唇を噛んだフロアールが、女王と睨み合う。
どちらも一歩も引かぬ、という気迫がみなぎっていたが、不意にシュウが目を逸らした。いや、目を逸らしたわけではない。近付いてくる人の気配に、そちらへ向いただけだ。
やがて姿を現した兵士にカルが声をかける。
「どうした?」
「それが……マギクの兵が、門の前に集まっているのです」
「マギクの兵が?」
「は。こちらをシュウ王に、と」
兵士が差し出したのは一通の書簡だ。
シュウはそれを開き目を通してから、カルに手渡した。
「投降、ですか」
「まあ、今回の侵攻の大元にいたのがルゥナの弟君なら、彼が撤退したらそうなるだろうさ。だが、結局マギク王は姿を見せていないよな」
呟くようにそう言って、シュウは腕を組んで考え込んだ。その横で、カルが言う。
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