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第九章:剣士の帰還
双子
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パチパチという炎が爆ぜる音に、時折虫の音が雑じる。
エディがトールたちと何かしゃべっている低い声も途切れ途切れに聞こえてくる。
それらに耳を傾けつつ、ソワレの腕に守られて地面に横たわりながら、ルゥナはついさっきまで聞かされていたエディやトールたちの言葉を思い返していた。
(わたしは、どうしたらいいんだろう……どうするべきなんだろう)
ルゥナは、みんなの為になることをしたいと思う。だから、ピシカの提案を受け入れた。けれど、エディもトールも――ソワレも、ルゥナのしようとしていることを喜んでいない。むしろ、嫌がっている。
(……なぜ?)
それは、そうすることで、ルゥナが不幸になると思っているからだ。
(じゃあ、『わたしの幸せ』って……?)
誰かの役に立てた時、ルゥナは胸の中のどこかに何か温かいものを注ぎ込まれたような心持ちになれる。
(それって、『幸せ』を感じているってことじゃないの……?)
ルゥナは身を縮めてギュッと自分自身を抱き締めた。今まで自分の中で確かなものだと思っていたことが揺らいでしまって、そうしないと、この身体も崩れてしまいそうな気がして。
(どうしたら、いいんだろう……)
何度自問しても、ルゥナには判らない。
だから、目を閉じる。
そうすると思いが向くのは、まだ彼女がソワレと二人きりだった頃のことだ。
ルゥナが初めてその力で人を癒したのは、彼女が六つか七つか、そのくらいの年の頃だったと思う。
それまで、ルゥナとソワレは『存在しない』存在だった。
小さな子どもが野で生きていくことはできないから、ルゥナとソワレは旅をする人の集まりにくっついて回っていたけれど、彼らが二人に目を留めることはなかった。
残飯を漁って食いつなぎ、夜は野営の外れで獣の声に怯えながら眠る。
そんな日々が変わったのは、狩りに出て死にそうな怪我を負った人を、ルゥナが瞬く間に治した時だった。
青い顔で唸っていたその人が目を開けて、怪訝そうな眼差しで群がる人々を見渡した時から、ルゥナは『存在している』存在になった。
それ以来ルゥナのもとには怪我人や病人が押し寄せて、食べる暇も寝る暇もないくらいだった。
「放っておけばいいじゃないか」
ソワレはそう言っていたけれど、ルゥナはうれしかった。
彼らの目当てはルゥナではなく彼女の力だったかもしれないけれど、それでも、認められ、受け入れられ、必要とされたから。
(わたしは、『幸せ』だった、……よね?)
だから、ピシカが助けて欲しいと言ってきた時も、一も二もなく頷いた。
ルゥナのその力で、世界を守れる。
そう言われて、断れるわけがない。
ルゥナにできることがあるのであればするべきだと思っていたし、全ての人が、それを望んでいると思ったのだ。
それなのに。
思わずルゥナは小さくため息をこぼした。と、彼女を包んでいたソワレが身じろぎする。
「ルゥナ?」
「あ、ごめんね。起こしちゃった?」
「寝てなかった」
首を反らすと、暗がりで大きくなった紅い瞳孔が彼女を見下ろしていた。
「寒い?」
「ううん、平気」
ルゥナはそっとかぶりを振って、ソワレの胸に頬を触れ合わせる。
昔も、こうやって寄り添って互いに温もりを与えあった。ピタリと彼にくっついて得られるのは温かさだけではなくて、安らぎも大きかった。
今のソワレの体温は低い。彼の胸に頬を寄せてもひんやりとしている。ルゥナを温めてくれているのは、彼の体温ではなくて、魔法だ。けれど、こうやって傍にいるとスゥッと不安が薄れていくことは昔と同じだった。
「わたしは、ピシカの言うとおりにすることがみんなにとって良いことなんだって、思ってたの。みんなが幸せになれる方法だって」
ソワレからの返事を期待したわけではなかった。
ただ、ルゥナはそう思っていたのだということを、口にしただけ。
しばらくは静かなままで、もう何も返ってこないだろうと思った頃だった。
「……その『みんな』の中には、僕も入ってるんだよね」
「うん、ソワレのことは一番に」
ルゥナはコクリと頷く。
また、沈黙。
ややして、ソワレが再び口を開いた。
「……それって、ただ単に僕が生きる世界を守るということだけじゃないよね」
「え?」
眉根を寄せたルゥナに、ソワレは小さく苦笑した。
「ルゥナは、君がその身体を捧げれば、それまで僕らのことを爪弾きにしていた奴らが僕らのことを受け入れると思ったんだろう?」
ソワレの手が、そっとルゥナの髪を撫で下ろす。
そう、なのだろうか。
彼女は自問した。
ピシカから世界が壊れてしまうという話を聞いた時、そんなことにはなって欲しくない、みんなが変わらず生きていけるようにしたいと思ったのは、確かだった。
けれど。
その裏には、そんな打算的な考えもあったのだろうか。
と、ソワレがふと呟いた。
「……違うな、『僕ら』じゃなくて、『僕』のことを、だ」
ルゥナの髪を撫でていた手がピタリと止まる。
「ピシカの言うとおりにしたら、君はいっそうこの世界から外れた存在になってしまうのだから」
それは、ルゥナに聞かせるための呟きではなかった。
「君は、僕を、『皆』に受け入れさせたかったんじゃないの?」
「ソワレ……」
そう言われると、そうかもしれない。
ルゥナはみんなに受け入れられて嬉しかったから、ソワレにも同じように感じて欲しかった。
そういう気持ちは、確かに常にあった。
人を癒すルゥナの力は重宝がられたけれど、人を操るソワレの力は恐れられていた。
人はルゥナには群がったけれど、ソワレは遠巻きにして近付こうとしなかった。
人が近づこうとしないからソワレが壁を築くのか、ソワレが壁を築くから人が近づこうとしないのか。
どちらが先なのかはわからないけれど、彼に注がれる皆の視線が冷たいものであることに、いつもルゥナは心が痛んだ。
「『僕の為』なんだ」
ソワレの声の中にある自責の念が、ルゥナの胸を刺す。自分よりも遥かに大きくなってしまった彼が、突然縮まってしまったように感じられる。
ルゥナは包まれていた毛布からモソモソと手を出して、彼の頬に触れた。やっぱりひんやりしていて、昔のようには柔らかくない。
ソワレは首を少し傾けてルゥナの手のひらに頬を押し当てると、苦い色を帯びた目を固く閉じた。
「僕はそんなことを望んじゃいなかった。他人なんか関係ない。君がいればいい。君さえいれば、誰もいない山奥に住んでもよかったんだ」
食いしばった奥歯の間から絞り出すようなその言葉に、ルゥナは過去へと引き戻される。再び開かれた紅い瞳孔は苛立ちに燃えているようで、色は違うけれど、彼女は同じ光を何度も目にしてきた。
そう、ソワレはそうだった。
彼は他者を疎んじて、いつでも二人きりの世界で満足しているようで――そうであることを望んでいるようだった。
「だけど、人はやっぱり人の中で生きていかないと」
「ルゥナだって人じゃないか」
頑ななソワレに、ルゥナは歯噛みする。
「そうじゃなくて」
「他の奴らなんて、ルゥナを利用するばかりだろ。何でそんな奴らと一緒に生きていこうなんて思える?」
苛立ちともどかしさを含んだ、ソワレの声。
「そういう人だけじゃないからだよ」
考えることなく、スッと、ルゥナは答えていた。ごく自然に。
それは、ソワレをごまかす為ではなく、ルゥナ自身が心の底からそう感じての言葉だった。ソワレに眠らされる前もそう思っていたけれど、目覚めてエディたちと共に過ごすようになって、更に確信した。
「あのね、力とか関係なくて、わたしやソワレ自身を好きになってくれる人って、いるんだよ――エディたちみたいに」
そう口に出してみると、いっそう実感する。
すとんとお腹の底に落ちたように、その言葉が彼女自身の中に入り込んだ。
ソワレは、眉間にしわを寄せながらもむっつりと黙り込んでいる。
その沈黙は、彼女の台詞を否定しているからではなくて、不本意ながらも受け入れているからのものだということが、何となくルゥナには解かった。そのことに背中を押されて、彼女は続ける。
「エディたちは、わたしのことを受け入れてくれたの。治癒の力とか、邪神のこととか、関係なく。『わたし』のことを――好きになってくれたの。わたしも、みんなのことが好き。一緒にいたいと思う。この力を使って助けてあげたいとか、そういうのじゃなくて、ただ、一緒にいたくて一緒にいさせて欲しいと思うの」
ルゥナがそんなふうに思った相手は、今までソワレだけだった。
顔も覚えていない母親のお腹の中で一緒に育って、一緒に生まれて、ずっと一緒にいた存在。
生まれ持っての絆で、無条件に愛せる相手。
エディたちはそうではなかった。
本来、ルゥナとは何の関係もない、何のつながりもない人たちだ。
そんな彼らが、ルゥナのことを特別に想ってくれている。ルゥナも、彼らのことを特別に想っている。
それは、何もないところから生まれた絆で。
ソワレとの間にあるものは特別でかけがえのないものだけれど、ルゥナがどんな人間でも、何をしようと、当然在るもの――何をどうやっても切れないものだ。それは母親の胎内にいた時から続く揺るぎないもので、それ故、ある意味、ルゥナがルゥナでなくても、存在し得るものだった。
一方で、エディたちとの間に新たに生まれたその絆は遥かにもろく、いつ切れてもおかしくないものだ。それはルゥナがルゥナだから生まれ、保つためにはこれからも守り育てなければならない絆だった。
どちらも同じくらい大事で優劣なんてつけられない。
だけど。
――ルゥナを引き止める力は、エディたちの言葉の方が強かった。
「ソワレのことは、すごく大好き。大好きで大事なの」
「解かってる」
短い応《いら》え。
その一言がルゥナの今の告白に対してのものだけではないことが、何となく伝わった。
続いた彼の諦めたような、苦笑混じりの言葉がそれを裏打ちする。
「僕は何でもいいんだ。君を引き止めてくれるなら、何でも。僕が望んでいるのは、君が笑っている未来だけなんだから。それさえ叶えば、後はどうでもいいんだよ」
そうこぼして、もうおしまい、というように、彼はルゥナの頭の後ろに手を置いて引き寄せた。
ソワレの胸元に頬を埋めて、ルゥナは考える。
自分がどうすべきなのか――どうしたいのか。
未だその答えは見つからず、ルゥナはそっと瞼を閉じた。
エディがトールたちと何かしゃべっている低い声も途切れ途切れに聞こえてくる。
それらに耳を傾けつつ、ソワレの腕に守られて地面に横たわりながら、ルゥナはついさっきまで聞かされていたエディやトールたちの言葉を思い返していた。
(わたしは、どうしたらいいんだろう……どうするべきなんだろう)
ルゥナは、みんなの為になることをしたいと思う。だから、ピシカの提案を受け入れた。けれど、エディもトールも――ソワレも、ルゥナのしようとしていることを喜んでいない。むしろ、嫌がっている。
(……なぜ?)
それは、そうすることで、ルゥナが不幸になると思っているからだ。
(じゃあ、『わたしの幸せ』って……?)
誰かの役に立てた時、ルゥナは胸の中のどこかに何か温かいものを注ぎ込まれたような心持ちになれる。
(それって、『幸せ』を感じているってことじゃないの……?)
ルゥナは身を縮めてギュッと自分自身を抱き締めた。今まで自分の中で確かなものだと思っていたことが揺らいでしまって、そうしないと、この身体も崩れてしまいそうな気がして。
(どうしたら、いいんだろう……)
何度自問しても、ルゥナには判らない。
だから、目を閉じる。
そうすると思いが向くのは、まだ彼女がソワレと二人きりだった頃のことだ。
ルゥナが初めてその力で人を癒したのは、彼女が六つか七つか、そのくらいの年の頃だったと思う。
それまで、ルゥナとソワレは『存在しない』存在だった。
小さな子どもが野で生きていくことはできないから、ルゥナとソワレは旅をする人の集まりにくっついて回っていたけれど、彼らが二人に目を留めることはなかった。
残飯を漁って食いつなぎ、夜は野営の外れで獣の声に怯えながら眠る。
そんな日々が変わったのは、狩りに出て死にそうな怪我を負った人を、ルゥナが瞬く間に治した時だった。
青い顔で唸っていたその人が目を開けて、怪訝そうな眼差しで群がる人々を見渡した時から、ルゥナは『存在している』存在になった。
それ以来ルゥナのもとには怪我人や病人が押し寄せて、食べる暇も寝る暇もないくらいだった。
「放っておけばいいじゃないか」
ソワレはそう言っていたけれど、ルゥナはうれしかった。
彼らの目当てはルゥナではなく彼女の力だったかもしれないけれど、それでも、認められ、受け入れられ、必要とされたから。
(わたしは、『幸せ』だった、……よね?)
だから、ピシカが助けて欲しいと言ってきた時も、一も二もなく頷いた。
ルゥナのその力で、世界を守れる。
そう言われて、断れるわけがない。
ルゥナにできることがあるのであればするべきだと思っていたし、全ての人が、それを望んでいると思ったのだ。
それなのに。
思わずルゥナは小さくため息をこぼした。と、彼女を包んでいたソワレが身じろぎする。
「ルゥナ?」
「あ、ごめんね。起こしちゃった?」
「寝てなかった」
首を反らすと、暗がりで大きくなった紅い瞳孔が彼女を見下ろしていた。
「寒い?」
「ううん、平気」
ルゥナはそっとかぶりを振って、ソワレの胸に頬を触れ合わせる。
昔も、こうやって寄り添って互いに温もりを与えあった。ピタリと彼にくっついて得られるのは温かさだけではなくて、安らぎも大きかった。
今のソワレの体温は低い。彼の胸に頬を寄せてもひんやりとしている。ルゥナを温めてくれているのは、彼の体温ではなくて、魔法だ。けれど、こうやって傍にいるとスゥッと不安が薄れていくことは昔と同じだった。
「わたしは、ピシカの言うとおりにすることがみんなにとって良いことなんだって、思ってたの。みんなが幸せになれる方法だって」
ソワレからの返事を期待したわけではなかった。
ただ、ルゥナはそう思っていたのだということを、口にしただけ。
しばらくは静かなままで、もう何も返ってこないだろうと思った頃だった。
「……その『みんな』の中には、僕も入ってるんだよね」
「うん、ソワレのことは一番に」
ルゥナはコクリと頷く。
また、沈黙。
ややして、ソワレが再び口を開いた。
「……それって、ただ単に僕が生きる世界を守るということだけじゃないよね」
「え?」
眉根を寄せたルゥナに、ソワレは小さく苦笑した。
「ルゥナは、君がその身体を捧げれば、それまで僕らのことを爪弾きにしていた奴らが僕らのことを受け入れると思ったんだろう?」
ソワレの手が、そっとルゥナの髪を撫で下ろす。
そう、なのだろうか。
彼女は自問した。
ピシカから世界が壊れてしまうという話を聞いた時、そんなことにはなって欲しくない、みんなが変わらず生きていけるようにしたいと思ったのは、確かだった。
けれど。
その裏には、そんな打算的な考えもあったのだろうか。
と、ソワレがふと呟いた。
「……違うな、『僕ら』じゃなくて、『僕』のことを、だ」
ルゥナの髪を撫でていた手がピタリと止まる。
「ピシカの言うとおりにしたら、君はいっそうこの世界から外れた存在になってしまうのだから」
それは、ルゥナに聞かせるための呟きではなかった。
「君は、僕を、『皆』に受け入れさせたかったんじゃないの?」
「ソワレ……」
そう言われると、そうかもしれない。
ルゥナはみんなに受け入れられて嬉しかったから、ソワレにも同じように感じて欲しかった。
そういう気持ちは、確かに常にあった。
人を癒すルゥナの力は重宝がられたけれど、人を操るソワレの力は恐れられていた。
人はルゥナには群がったけれど、ソワレは遠巻きにして近付こうとしなかった。
人が近づこうとしないからソワレが壁を築くのか、ソワレが壁を築くから人が近づこうとしないのか。
どちらが先なのかはわからないけれど、彼に注がれる皆の視線が冷たいものであることに、いつもルゥナは心が痛んだ。
「『僕の為』なんだ」
ソワレの声の中にある自責の念が、ルゥナの胸を刺す。自分よりも遥かに大きくなってしまった彼が、突然縮まってしまったように感じられる。
ルゥナは包まれていた毛布からモソモソと手を出して、彼の頬に触れた。やっぱりひんやりしていて、昔のようには柔らかくない。
ソワレは首を少し傾けてルゥナの手のひらに頬を押し当てると、苦い色を帯びた目を固く閉じた。
「僕はそんなことを望んじゃいなかった。他人なんか関係ない。君がいればいい。君さえいれば、誰もいない山奥に住んでもよかったんだ」
食いしばった奥歯の間から絞り出すようなその言葉に、ルゥナは過去へと引き戻される。再び開かれた紅い瞳孔は苛立ちに燃えているようで、色は違うけれど、彼女は同じ光を何度も目にしてきた。
そう、ソワレはそうだった。
彼は他者を疎んじて、いつでも二人きりの世界で満足しているようで――そうであることを望んでいるようだった。
「だけど、人はやっぱり人の中で生きていかないと」
「ルゥナだって人じゃないか」
頑ななソワレに、ルゥナは歯噛みする。
「そうじゃなくて」
「他の奴らなんて、ルゥナを利用するばかりだろ。何でそんな奴らと一緒に生きていこうなんて思える?」
苛立ちともどかしさを含んだ、ソワレの声。
「そういう人だけじゃないからだよ」
考えることなく、スッと、ルゥナは答えていた。ごく自然に。
それは、ソワレをごまかす為ではなく、ルゥナ自身が心の底からそう感じての言葉だった。ソワレに眠らされる前もそう思っていたけれど、目覚めてエディたちと共に過ごすようになって、更に確信した。
「あのね、力とか関係なくて、わたしやソワレ自身を好きになってくれる人って、いるんだよ――エディたちみたいに」
そう口に出してみると、いっそう実感する。
すとんとお腹の底に落ちたように、その言葉が彼女自身の中に入り込んだ。
ソワレは、眉間にしわを寄せながらもむっつりと黙り込んでいる。
その沈黙は、彼女の台詞を否定しているからではなくて、不本意ながらも受け入れているからのものだということが、何となくルゥナには解かった。そのことに背中を押されて、彼女は続ける。
「エディたちは、わたしのことを受け入れてくれたの。治癒の力とか、邪神のこととか、関係なく。『わたし』のことを――好きになってくれたの。わたしも、みんなのことが好き。一緒にいたいと思う。この力を使って助けてあげたいとか、そういうのじゃなくて、ただ、一緒にいたくて一緒にいさせて欲しいと思うの」
ルゥナがそんなふうに思った相手は、今までソワレだけだった。
顔も覚えていない母親のお腹の中で一緒に育って、一緒に生まれて、ずっと一緒にいた存在。
生まれ持っての絆で、無条件に愛せる相手。
エディたちはそうではなかった。
本来、ルゥナとは何の関係もない、何のつながりもない人たちだ。
そんな彼らが、ルゥナのことを特別に想ってくれている。ルゥナも、彼らのことを特別に想っている。
それは、何もないところから生まれた絆で。
ソワレとの間にあるものは特別でかけがえのないものだけれど、ルゥナがどんな人間でも、何をしようと、当然在るもの――何をどうやっても切れないものだ。それは母親の胎内にいた時から続く揺るぎないもので、それ故、ある意味、ルゥナがルゥナでなくても、存在し得るものだった。
一方で、エディたちとの間に新たに生まれたその絆は遥かにもろく、いつ切れてもおかしくないものだ。それはルゥナがルゥナだから生まれ、保つためにはこれからも守り育てなければならない絆だった。
どちらも同じくらい大事で優劣なんてつけられない。
だけど。
――ルゥナを引き止める力は、エディたちの言葉の方が強かった。
「ソワレのことは、すごく大好き。大好きで大事なの」
「解かってる」
短い応《いら》え。
その一言がルゥナの今の告白に対してのものだけではないことが、何となく伝わった。
続いた彼の諦めたような、苦笑混じりの言葉がそれを裏打ちする。
「僕は何でもいいんだ。君を引き止めてくれるなら、何でも。僕が望んでいるのは、君が笑っている未来だけなんだから。それさえ叶えば、後はどうでもいいんだよ」
そうこぼして、もうおしまい、というように、彼はルゥナの頭の後ろに手を置いて引き寄せた。
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