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憤懣
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――何故、彼らはこんなに浮かれているんだ?
それが省吾の感想である。
興奮した男たちを鬱陶しそうに避けながら、雑魚寝とはいえ、省吾は雨露を凌げる寝床であるテントへと足を運んだ。眠気は無いが、他にすることも無い。
黙々と歩き続ける省吾のその細い両肩に、突然、重みが加わった。
「おいおい、マジでさっさと寝ようってのかい? お前、ノリが悪すぎ」
肩に乗せられた、自分の腕の三本分の太さはありそうな勁捷の腕を省吾は振り払う──その太さが、なんだか癪に障った。
「あんただって、冷めてるじゃないか」
ボソリと返す省吾に、勁捷は眼を丸くしてみせる。
「おやぁ? 俺が楽しそうに見えねぇって?」
「そうは言ってない」
足を止めることなく続けられるやり取りに、テントは近付き、いつしか周囲に人はいなくなっていた。
「俺らの大将は、結構人間を見てるぜ。どうやりゃ有頂天になるか、心得てやがる。ま、あれが本心からであるってんなら、それはそれで大したもんだがな」
リオンの最敬礼を思い出し、勁捷は肩を竦める。あの物腰は、どう見てもかなりの身分を持った者のものだ。今回のことは、圧政に耐えかねたそこらの田舎百姓が決起した、というわけではないらしい。
「戦う理由なんて、人それぞれってことだな」
傭兵は所詮ただの駒。雇い主の言うとおりに動くだけだ。今回の雇い主が何を考えて強大な敵に喧嘩を売ったのかは知らないが、取り敢えず、なかなか楽しいことになりそうなことだけは確かである。
「女は現実だけで腹が膨れるようだが、男は夢を喰わなけりゃ生きていけねぇからなぁ」
そう言った勁捷の眼からそれが本気なのか冗談なのかを見極めることは、省吾には難しいことだった。むっと渋面になった少年を、勁捷は眉を持ち上げて見やる。
「まあ、夢だけじゃぁ、やっていけねぇってのも、現実の辛いとこだけどよ」
そう言ってゲラゲラと笑っている勁捷には、この胸の内のモヤモヤなど決して解らないだろうと、省吾は益々仏頂面になった。目の前の男に自分と同じ頃があったとは、夢にも思っていないのである。
何処も彼処もがっしりとした勁捷の身体と、ひょろひょろして不恰好な自分の身体。
何もかもを笑い飛ばす勁捷と、それらを全く面白いと思えない自分。
そして、低く轟く勁捷の声と、妙に甲高い自分の声。
傭兵たちに遠巻きにされていた頃は気に掛けたことも無かったそれらのことが、いやに気に障った。
自分でも処理しがたいその心を持て余し、省吾はどうにも落ち着かない。
──クソッ、何だって言うんだ。
毒付きを、辛うじて内心のものに留めた。
一度、チラリと隣を歩く男に視線を走らせる。
訳知り顔な勁捷の笑いが、無性に癇に障った。
それが省吾の感想である。
興奮した男たちを鬱陶しそうに避けながら、雑魚寝とはいえ、省吾は雨露を凌げる寝床であるテントへと足を運んだ。眠気は無いが、他にすることも無い。
黙々と歩き続ける省吾のその細い両肩に、突然、重みが加わった。
「おいおい、マジでさっさと寝ようってのかい? お前、ノリが悪すぎ」
肩に乗せられた、自分の腕の三本分の太さはありそうな勁捷の腕を省吾は振り払う──その太さが、なんだか癪に障った。
「あんただって、冷めてるじゃないか」
ボソリと返す省吾に、勁捷は眼を丸くしてみせる。
「おやぁ? 俺が楽しそうに見えねぇって?」
「そうは言ってない」
足を止めることなく続けられるやり取りに、テントは近付き、いつしか周囲に人はいなくなっていた。
「俺らの大将は、結構人間を見てるぜ。どうやりゃ有頂天になるか、心得てやがる。ま、あれが本心からであるってんなら、それはそれで大したもんだがな」
リオンの最敬礼を思い出し、勁捷は肩を竦める。あの物腰は、どう見てもかなりの身分を持った者のものだ。今回のことは、圧政に耐えかねたそこらの田舎百姓が決起した、というわけではないらしい。
「戦う理由なんて、人それぞれってことだな」
傭兵は所詮ただの駒。雇い主の言うとおりに動くだけだ。今回の雇い主が何を考えて強大な敵に喧嘩を売ったのかは知らないが、取り敢えず、なかなか楽しいことになりそうなことだけは確かである。
「女は現実だけで腹が膨れるようだが、男は夢を喰わなけりゃ生きていけねぇからなぁ」
そう言った勁捷の眼からそれが本気なのか冗談なのかを見極めることは、省吾には難しいことだった。むっと渋面になった少年を、勁捷は眉を持ち上げて見やる。
「まあ、夢だけじゃぁ、やっていけねぇってのも、現実の辛いとこだけどよ」
そう言ってゲラゲラと笑っている勁捷には、この胸の内のモヤモヤなど決して解らないだろうと、省吾は益々仏頂面になった。目の前の男に自分と同じ頃があったとは、夢にも思っていないのである。
何処も彼処もがっしりとした勁捷の身体と、ひょろひょろして不恰好な自分の身体。
何もかもを笑い飛ばす勁捷と、それらを全く面白いと思えない自分。
そして、低く轟く勁捷の声と、妙に甲高い自分の声。
傭兵たちに遠巻きにされていた頃は気に掛けたことも無かったそれらのことが、いやに気に障った。
自分でも処理しがたいその心を持て余し、省吾はどうにも落ち着かない。
──クソッ、何だって言うんだ。
毒付きを、辛うじて内心のものに留めた。
一度、チラリと隣を歩く男に視線を走らせる。
訳知り顔な勁捷の笑いが、無性に癇に障った。
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