夜を越えて巡る朝

トウリン

文字の大きさ
5 / 30

憤懣

しおりを挟む
 ――何故、彼らはこんなに浮かれているんだ?

 それが省吾の感想である。

 興奮した男たちを鬱陶しそうに避けながら、雑魚寝とはいえ、省吾は雨露を凌げる寝床であるテントへと足を運んだ。眠気は無いが、他にすることも無い。

 黙々と歩き続ける省吾のその細い両肩に、突然、重みが加わった。
「おいおい、マジでさっさと寝ようってのかい? お前、ノリが悪すぎ」
 肩に乗せられた、自分の腕の三本分の太さはありそうな勁捷の腕を省吾は振り払う──その太さが、なんだか癪に障った。
「あんただって、冷めてるじゃないか」
 ボソリと返す省吾に、勁捷は眼を丸くしてみせる。
「おやぁ? 俺が楽しそうに見えねぇって?」
「そうは言ってない」
 足を止めることなく続けられるやり取りに、テントは近付き、いつしか周囲に人はいなくなっていた。

「俺らの大将は、結構人間を見てるぜ。どうやりゃ有頂天になるか、心得てやがる。ま、あれが本心からであるってんなら、それはそれで大したもんだがな」
 リオンの最敬礼を思い出し、勁捷は肩を竦める。あの物腰は、どう見てもかなりの身分を持った者のものだ。今回のことは、圧政に耐えかねたそこらの田舎百姓が決起した、というわけではないらしい。

「戦う理由なんて、人それぞれってことだな」
 傭兵は所詮ただの駒。雇い主の言うとおりに動くだけだ。今回の雇い主が何を考えて強大な敵に喧嘩を売ったのかは知らないが、取り敢えず、なかなか楽しいことになりそうなことだけは確かである。
「女は現実だけで腹が膨れるようだが、男は夢を喰わなけりゃ生きていけねぇからなぁ」
 そう言った勁捷の眼からそれが本気なのか冗談なのかを見極めることは、省吾には難しいことだった。むっと渋面になった少年を、勁捷は眉を持ち上げて見やる。

「まあ、夢だけじゃぁ、やっていけねぇってのも、現実の辛いとこだけどよ」
 そう言ってゲラゲラと笑っている勁捷には、この胸の内のモヤモヤなど決して解らないだろうと、省吾は益々仏頂面になった。目の前の男に自分と同じ頃があったとは、夢にも思っていないのである。

 何処も彼処もがっしりとした勁捷の身体と、ひょろひょろして不恰好な自分の身体。
 何もかもを笑い飛ばす勁捷と、それらを全く面白いと思えない自分。
 そして、低く轟く勁捷の声と、妙に甲高い自分の声。

 傭兵たちに遠巻きにされていた頃は気に掛けたことも無かったそれらのことが、いやに気に障った。
 自分でも処理しがたいその心を持て余し、省吾はどうにも落ち着かない。

 ──クソッ、何だって言うんだ。

 毒付きを、辛うじて内心のものに留めた。
 一度、チラリと隣を歩く男に視線を走らせる。

 訳知り顔な勁捷の笑いが、無性に癇に障った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...