シャッターチャンス

久手堅悠作

文字の大きさ
1 / 1

シャッターチャンス

しおりを挟む
 陽菜は大翔からのLINEを受け、2年3組の教室に入った。入るとそこには、教卓の前で仰向けに眠る大翔の姿があった。

「何してんの?」

「彼女に浮気疑われて往復ビンタされたから鼻血出たの。だから止まるまで待ってる」

「ふーん」

 陽菜は屈んで興味なさげな顔をして大翔を見つめていたが、突然アッと声を上げた。

「どうしたの? 急に?」

「私、あのシーン再現したい!」

「あのシーン?」

「チェンソーマンのマキマさんが意識不明になってるデンジくんを鼻血で復活させるシーン。ほら、ピエタ像みたいな構図のやつ」

「それ今やること?」

「虹が出たら写真撮るでしょ? それと一緒だよ。それに、わざわざ準備してまで撮りたいとは思わないし。人生はタイミングが大事なの」

「待って? 俺がマキマさん役?」

「決まってんじゃん。私、生まれて一度も鼻血なんて出したことないんだから」

 陽菜はスマホをドアに立て掛けると、動画を回し始めた。大翔は中腰になり、陽菜を抱き抱える。しかし、何回もダメ出しが入った。

「違う違う! 私を抱き抱えるとは言ったけど、本格的に抱きしめる感じじゃなくて、後ろから顎をくいっと掴む感じ。顔はもっと近づけて。キスするぐらい近く。で、血は私の口元に垂らして」

 陽菜は大翔の血で自分の白いシャツが血まみれになっても気にせず、ダメ出しを続けていた。すると突然、教室にオーボエを持った1年生の女子が入ってきた。多分、吹奏楽部でパート練習をするためにこの教室にやって来たのだろう。

「きゃー」

 少女は甲高い悲鳴を上げ、一目散に逃げ出した。それもそのはずだ。彼女の目には血まみれのシャツを纏い倒れている女とそれを抱き抱える男というアニメではよく見るが、現実では全く見ないような光景が広がっていたのだから。

「どうすんの? 警察に通報されたら?」

「え~、私たち別に悪いことしてなくない?」

 陽菜はそう言うと立ち上がり、倒れたスマホを直しにドアに向かって歩いて行った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

弟が悪役令嬢に怪我をさせられたのに、こっちが罰金を払うだなんて、そんなおかしな話があるの? このまま泣き寝入りなんてしないから……!

冬吹せいら
恋愛
キリア・モルバレスが、令嬢のセレノー・ブレッザに、顔面をナイフで切り付けられ、傷を負った。 しかし、セレノーは謝るどころか、自分も怪我をしたので、モルバレス家に罰金を科すと言い始める。 話を聞いた、キリアの姉のスズカは、この件を、親友のネイトルに相談した。 スズカとネイトルは、お互いの身分を知らず、会話する仲だったが、この件を聞いたネイトルが、ついに自分の身分を明かすことに。 そこから、話しは急展開を迎える……。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

癒しの聖女を追放した王国は、守護神に愛想をつかされたそうです。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 癒しの聖女は身を削り激痛に耐え、若さを犠牲にしてまで五年間も王太子を治療した。十七歳なのに、歯も全て抜け落ちた老婆の姿にまでなって、王太子を治療した。だがその代償の与えられたのは、王侯貴族達の嘲笑と婚約破棄、そして実質は追放と死刑に繋がる領地と地位だった。この行いに、守護神は深く静かに激怒した。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?

ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。 世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。 ざまぁ必須、微ファンタジーです。

処理中です...