君のせいじゃない

久手堅悠作

文字の大きさ
1 / 1

君のせいじゃない

しおりを挟む
 その日、僕と彼女はショッピングモールで買い物をしていた。

「ホストファザーへのプレゼント、何がいいかなぁ」

「その浮世絵柄のバスタオルがいいんじゃない?」

 僕は彼女の意見を信じ、70ドルのバスタオルを5枚も買った。

「やっぱり18年、アメリカに住んでる人の意見は違うね」

「いや、そんなことないよ。適当に言っただけ」

「ね~」

「そういや翔太くん、誕生日近いよね? 何か欲しいものとかある?」

「……ものじゃないけどいい?」

「いいよ」

「付き合ってもう3ヶ月経ったし、嫌じゃなかったから誕生日に僕とキス……」

 突然、バンという銃声のような音が響き渡った。すると、彼女が僕に寄りかかってきた。よく見ると、白いコートの肩の部分が赤く染まっていた。僕があたふたしていると、彼女が僕を柱の影まで引っ張った。

「早く止血しないと」

「しなくて大丈夫。むしろしない方が都合いいよ」

 彼女はそう言うと僕を押し倒した。そして、僕の胸に自分の血を垂らした。彼女の血で白いシャツが赤く染まっていった。

 そして彼女は僕の胸に覆い被さると、こう耳打ちした。

「目を瞑って死んだふりしてて」

 それから僕はずっと目を瞑り、死んだふりをしていた。5分間ずっと銃声が鳴り響いていたが、僕はずっとそれに耐え続けた。そして銃声が止んだかと思うと、一人の足音がこちらに向かって近づいてきた。僕は薄目を開け様子を確認すると、銃を持った男が僕に覆い被さっていた彼女を蹴飛ばした。それから僕の胸の血痕を一瞥すると、彼女の胸に向かって銃口を突きつけ、引き金を引いた。

 僕は今にも男を殴りたい衝動を抑え、死んだふりを続けた。そして男が遠くに行ったことを確認すると、起き上がり彼女を抱きかかえた。彼女の頬を触ると冷たくなっていた。僕がもっとちゃんとしていれば彼女を守れたかもしれなかったのに……。彼女を抱え泣いていると声が大きすぎたのか、銃を持った男がこっちに向かってゆっくり歩いてきた。そして僕と30cmほどの距離になると、僕に銃を向けた。もうダメだ。僕が目を瞑った瞬間、2つの銃声が鳴り響いた。全然痛くない。恐る恐る目を開けると、男が地面に倒れ、死んでしまったはずの彼女が銃を構えていた。

「ダメだよ、翔太くん。ちゃんと死んだふりしてなきゃ」

「……なんで生きてるの?」

「なんでって、防弾チョッキ付けてたからに決まってんじゃん。アメリカって最近は物騒なんだよ」

 彼女はそう言うと、袋からさっき僕が買ったバスタオルを取り出し止血しようとした。しかし突然、ばたりと床に倒れた。

「大丈夫?」

 倒れる寸前の彼女の抱きかかえた。よく見ると顔が真っ青だった。しかも、目の焦点が全く合っていない。

「……ごめん。今ので太もも撃たれたの。多分、止血しても間に合わない」

「僕のせいだ。僕が死んだふりをやめていなければこんなことにならなかったのに」

「そんなことないよ。私も防弾チョッキ付けてること黙ってたし。翔太くんのせいじゃないよ」

 そして、僕の頬を優しく撫でると僕にキスをした。

「……こんな時にごめんね。もう誕生日は無理みたいだから」

 彼女は弱々しくそう言うと、ゆっくりと目を閉じた。しかし僕は諦めきれず、彼女の太ももの止血を始めた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

コント文学『パンチラ』

岩崎史奇(コント文学作家)
大衆娯楽
春風が届けてくれたプレゼントはパンチラでした。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

処理中です...