流星

kiyona

文字の大きさ
1 / 2

味がしない

しおりを挟む
 こんな風に虚しい気持ちを味わうのはいつぶりだろうか。
上手く誤魔化せていたのか、そもそも目を逸らしていたのか。いや、多分向き合いすぎた。
 何をやっていても、どんなに楽しくても、感情の裏には必ず死が待機しているみたいな。無になる空間に引きずり込まれる。
"これ、もう終わりじゃん。"
 そう言ってみたかった。だけど言葉にすると軽くなってしまう。勿体ないとすら思う。
 言葉に出来ないから、重い感情のまま抱き締めていられるような、その重さにつけこめる甘さがある。気がする。
「死にたいな~。」
 ほら、まだ生きてるんだよ。言葉も生きてるし、自分も生きてる。
 未来は眩しくて見えないの。とか言ってみても、本当はお先真っ暗だから見えないの。
 死にたいよりも衝動的な不安は、死神よりもっと怖い。死神は神だけど、不安は神じゃない。そして、不安を予期してはくれない。
 唐突ながら、私は今死の一歩手前にいる。
 どうすれば良いかはとにかく人任せ。
 前に一歩踏み出そうか、それとも大きく羽ばたいてやろうか。いっそここで、一眠りしてしまうのもありだ。
「自然の産物、人たるものや自然に逝ってしまうが吉。」
 つまり、化学物質等で一歩先に進むのは少々拒まれる。無駄なポリシーには従っておきたいタイプ。
 人としてここまで生きてきたが、こんなにも素早く実行一歩手前まで漕ぎ着けたのは初だ。
何かと理由をつけては拒み、恐怖や不安に飼い慣らされては、背中の羽もいつの間にかボロボロに折れてしまった。
 それは私が、天使だったらの話。
 人である。人なんだ。人間なの。人間。
 最後の理性は、周りに人が居ない場所を選択できたという事。
 後悔。悲しみ。恐怖。今は何も無い。虚しさもいつの間にか去っていった。
 ついに、この時が来たみたいだ。
 どういう訳か死神は見当たらないが、地面に行けば逢えるはず。
兎に角、また変な感情に飼い慣らされる前にいきたいと思う。
最後に背中を押したのは、紛れもなく自分自身だ。
「それでは、またどこかで逢いましょう。」
人生で一番最高なシーン。もう二度と見ることも出来ないらしい。
 風を斬れば、擽ったいと笑う背中。腰から太ももに掛けて電気が走るように、身体中が宙を舞っている。
 既に知っていたけれど、この世界はやっぱり馬鹿みたいに綺麗だ。
 近づく大地に目を閉じる。脳が感じる地球との距離にドーパミンは止まる事を知らない。それでいいし、それが良い。
 フワッと浮いた身体が、衝撃を吸収するかのように着地した。
 あれ。なんだか、また虚しい。

そっか、私。天使なんだった。
死ねないんだ、だから死にたいんだね。

「これ、もう終わりじゃん。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...