異世界行って黒ネコに変身してしまった私の話。

しろっくま

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魔術師団編

27の1.はあ……勉強するか!

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「おはようございます、サーラ。今朝は良い目覚めでしたでしょう」
「……おはようございます、いつもと変わりありませんって」

 力なく答える私と反対で、コークス先生は、とても楽しそうに話しかけてくる。

「サーラ、お前、恋愛感情ないとか言いながら、しっかり団長とデキてんじゃん。今朝から魔術師の中でこの話題、知らないヤツいないぜ」
「だから違うって。不可抗力っていうか、忘れてたっていうか……」

 ああ、身の置き場がない。

 普段なら、あの部屋に同居していても、ベッドの側のカゴに寝ているのだ。ネコの姿で。
 仮にカゴが窮屈であれば、ベッドの一角を使わせてもらってたこともあったわ。ただしネコの姿で。

 そう、普段ならネコの姿なので、何の問題も発生しないのだ。昨日の疲れと、やり慣れないダンスなんてしちゃったモンだから、忘れていたのよ、人間の姿のままベッドに入ってるってことを。

『後悔先に立たず』
 こっちの世界来てから、何度この言葉を噛み締めているのだろう。
 ヨロヨロと力なく立ち尽くす私に、ルディが、トンチンカンな励ましをくれる。

「まあなんていうか、女として扱ってくれる人がいてよかったな。人の好みもそれぞれだけど、団長に引き取られたんならラッキーじゃないか。頑張れよ」
「はあ……」

 否定するのも脱力しそうで、力なく生返事を返すばかりだ。
 ふと、そこまでセンセーショナルな話題なのか疑問に思って、尋ねてみることにした。

「あのさ、ラッセルの女関係って今までどんなだったの?   そこまでおおごとになるなんて……私、噂や流行りなんてものからエラく遠い場所で過ごしてたから、あの人の評価とか立ち位置とか、よくわからないのよね」

 ルディはよくぞ聞いてくれた、と言わんばかりに話し始めた。

 ジーク・ラッセル。街の人たちも知ってる呼び名『氷の魔術師』と言われる通り、公の場では常に無口で無表情。必要最低限の仕事で最高難度の仕事をこなすのが、このラッセルという男で、十代で魔術師団長を務めるという偉業をなした人だ。

 四年前の騒動の際起きた、前団長と各隊長職の人間、それに魔術師サランディアらを引退にまで追いやったキッカケになったという黒い噂もあるが定かでなはない。

 しかしながら王族の信頼は厚く、第二王子の婿入りについても、大国ラムダス皇国相手に、対等に渡り合ったという。その手腕を買われ、今では王族の相談役をもこなしている。

「なるほど、若いうちから頭角を現して、外交にも長けているってことね。評価はわかったわ、で女関係は?   若手でそんだけ仕事できる男だったら、結構派手なんでしょ?」
「何言ってるんだ、今まで団長の側にいた女なんて、サランディア様くらいだよ。あの無表情に太刀打ちできる女なんて早々いないって話し。それどころか、どんな獣も懐かないって噂だったんだ」

 それなのに、と軽く鼻を鳴らして話しが続く。

 一度も誰も連れ込んだことのない部屋に、最近黒ネコが拾われて飼われ始めた、という話しを皮切りに今朝は女が部屋に居た、というビッグニュース。
 全く女っ気のなかった人物に、いきなり恋人ができたかも、という憶測や尾ひれがついて、次から次へと伝えられる。
 この噂に飛びつかない団員はいないだろう。

「お前、なんで今朝に限ってネコじゃなかったんだよ。あれじゃ噂してくださいって言ってるようなモンだぞ」
「ホント失敗だったわ。でもラッセルが否定すれば噂なんて収まると思ったんだけど。そのまま放置って……何考えてんのやら」

 ため息まじりにルディと顔を付き合わせながら小声で話してたら、コークス先生が割って入ってきた。

「はいはい、ムダ話はそこまでです。今日のレッスンを始めましょう」

 相変わらずスパルタなレッスンで、体力が底をつくまで踊らされ、終了時間には今朝の噂話なんて、あったことすら忘れていた。

 黙々と練習が続く毎日に、ある日ちょっとした変化が訪れた。先生がいつも以上ににこやかに対応してくれている。
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