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魔術師団編

29の1.眠るのって大変!

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 眠ろう。そう、眠らなければ。

 なのに眠れない……目を閉じればあの狂人の目を思い出してしまって、寒気と震えを感じてしまい、十分な睡眠がとれていないのだ。

 最初は怖さから眠れないのだと思ってた。だから疲れきってしまえば克服できると思っていたのだ。
 体が動かなくなるまでダンスしてもダメ、目が疲れて、頭に内容が入らなくなるまで勉強してもダメ。

「サーラ、無理して自力で眠ろうとしても苦しいだけです。魔術であなたの神経に少しだけ干渉しますから。それで眠れるはずですよ」

 コークス先生が心配して、休ませてくれようとするのだが、私はできるだけ明るい声を出して遠慮した。

「全然平気ですよ。変に私に関与して、魔術師団や国に影響を及ぼしてもマズいと思うし。なるべく自力で頑張ってみるかなってね」

 先生とルディは顔を見合わせて、しょうがない、と言わんばかりに苦笑いする。先生は私の頭を撫で、ルディは背中をポンッと軽く叩いて助言してくれた。

「遠慮するな、辛くなったらいつでも頼ってくれていいんだぜ。遠方から干渉されたって、跳ね返す力くらいあるんだ。対策さえとってれば大丈夫だって」

 有り難い申し出に涙が出そうになった。
 助けてくれる人がいるーーそう思えば思うほど、迷惑はかけられない、と考えてしまうのだ。

「大丈夫、自分だけで解決で……き……」

 ルディに返事をしてる途中、急に目の前が真っ暗になり、意識を失ってしまった。

 ふんふんふーん、なあーん、んー。
 今朝の私は鼻歌が出るほど、チョーご機嫌だ。

 今日の天気はどうかしら?
 歯磨きしながらテレビをつけると、お天気お姉さんの解説が始まる。それに呼応してか、窓の方を見やると、部屋には強い光が注いでいる。まるでこれから暑い夏の一日が始まる合図のようで、眩しさに少しだけ目を細めた。外は暑そう、寝起きのせいなのか、体はまだ冷えているようで、ゾクッとする。
 さて、暑くなる前に、通勤電車に乗っちゃおう。

 改札抜けて、わざと一本遅れの電車に乗る。いつものように人の波に逆らわずに上手に出口に向かい、会社近くのカフェでひと息入れる。

 いつもの私のルーティンだ。
 食べ物をお腹に入れたら会社に向かう。食べたらあったかくなるかな、と思ったが、まだ体冷えてるな。

 エレベーターに乗りこむが、珍しく今日は私ひとりだけらしい。ボタンを押して階が上がっていくのを確認。

確かに一人だったはずなのに、いつのまにか周りに昏い影がビッシリついて来ていた。知らないうちに満員になったか?   エレベーターの中に意識を向けるとゾクリと寒気が襲い、自分も影に呑まれそうな感覚に陥る。

 チン、という音と同時に、隙間から少しずつ光が射し込んでくる。今度はそちらに意識が向いて、昏い影の存在は瞬間に忘れた。

 どうやら扉の向こうから強烈な光が当てられているようで、このままでは目が開けられない。
 ちょっと……眩しいじゃないの、何すんのよっ!

 光を避けるように閉じていた目を開くと、どこかの部屋の天井が映し出される。

 見覚えのある天井、首を微かにズラせば見覚えのある部屋。でも、私の部屋の天井では無いなあ……
 会社の会議室とかか?   いやビルの救護室か、病院?

 しばらく考えて、ようやく現実に頭が追いついてきた。

 私が寝ていたのは、どうやらラッセルの部屋のベッドだったようだ。

「はあ……なんか久しぶりに良く寝れたかも。体もほわほわして気持ちいいし……」
「それはよかった。私はもう君から離れても問題ないな」

 頭の上、というか頭のすぐ後ろから響いてきた声にギョッとして体を固まらせる。

 よーくこの状況を確認してみましょう。

 はい、まず、私は今ベッドに横たわってます。次に誰かに後ろから、ガッチリとホールドされています。後頭部から聞こえた声から察するに、ホールドしてるのはラッセルだと考えられますね。

 総合的に考えると……私が寝ている間、ラッセルにずっと抱っこされていたってことになりますか。こりゃ参った。お姉ちゃん一本とられましたか、ハハハハ……
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