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魔術師団編
40の2.え? 嫌われてるやん!
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すでに『やらかしてしまった感』が脳裏をよぎる。
ルディと二人顔を見合わせて、苦笑いをしながら同時にため息がもれてしまった。
私たちを元気づけるためになのか、ロイズ隊長は「気にしないように」と肩を二、三回軽く叩いてレイニーさんを連れ出って、別のエリアへと移動していった。
残された私たちは無言のまま立ちすくむ。
ルディを見ると口をキッと固く結び、両手はグッと握りこんでいる。
平民と貴族には深い隔たりがあるのは薄々感じていたのだが、私よりルディの方が、より壁の厚さを感じているのだろう。
私も元気づけるために片手を上げたが、悔しそうな、残念そうな、複雑な表情の彼に、今何と声をかけるのが正解なのだろうか。言葉の選択にしばし迷っていると、別室から戻ってきた伯爵が驚くほど上機嫌でこちらに近づいてきた。相変わらずの顔色だったが、体調は持ち直したようで、歩き方はしっかりしていた。
「おお、君がヒューズ君だね、今日はよく来てくれた。隣のレディも可憐な方だね。さあ遠慮なく楽しんでくれたまえ」
そう言って労いのためか、軽く肩を叩かれ、更には後ろに控えていた侍女が準備したワイングラスを自らとってひとつずつ手渡された。
先程の応対とは百八十度転換したような伯爵の態度に、私たち二人はあっけにとられるしかない。
そうこうしているうちに伯爵はワイングラスを片手に
会場の皆さんに挨拶を始め、パーティーの幕が上がった。
ルディを横目で見ると、やはり険しい顔をしたままだ。しかし、さっきまでの悔しいという表情ではなく、何かを探るような深く考え込むような表情になっている。
「なあ、なんか伯爵が変じゃなかったか?」
「え? 顔色は悪かったけど、薬飲んだからか、結構元気だったじゃん。今日のホストだから体調が悪くても無理してくれたんでしょ。それ以外何かあった?」
私が答えたことに対し、再びルディは「うーん」と唸り、アゴに手をかけて考え込んでしまった。「なんとなくだけど」とか「雰囲気かな」とかぶつぶつ呟きながら、自分の世界に入っていこうとしている。
そんなルディを横目で見ながら、私も何とか思い出そうとした……ダメやん、ムリムリ。
私が自分でそこまでの違和感を感じないんだもの、わかるワケない。
そんな会話の途中、周りから歓声が上がり、何ごとかと意識を観客の視線の先に合わせると、アフロちゃんをエスコートしたハルがフロアの中央に位置するのが見えた。やはり根っからの貴族というのは、どこか風格が違うのか、二人並ぶとお伽話から抜け出た王子様とお姫様のようだ。
フロアの照明の効果なのか、私の目に見えないフィルターがかかっているのか、二人がキラキラとしたオーラを放っているようにしか見えてこない。
思わずため息が溢れてしまった。
音楽が鳴り、ファーストダンスが始まる。
踊る姿も実に優雅で、見つめる観客たちからも一斉にため息が漏れ聞こえてくる。
あっという間に最初の一曲が終わり、伯爵の合図で楽しいダンス曲が流れ、それぞれ踊る者、歓談する者、ワインに舌鼓を打つ者など、一人、また一人と自分のやりたいことに意識を向けていった。
さあ、ハルをガードしつつ、私のダンス練習の成果を見てもらうんだ!
シラフのままだとなんだか気恥ずかしい感じがして、先程渡されたワインをグイッと一気に煽る。
「ぷはぁ」
「なん……おい、馬鹿。一気飲みするヤツがどこにいるっ。踊ったりしたら酔いが回って大変だって……あーあ、俺は知らないぞ」
飲み慣れないお酒の味は、舌先にピリッとした刺激を与えたが、戦場へ赴く勢いの今の私は興奮状態で、多少の感覚は麻痺しているみたいだ。
「ほら、ルディも行くよっ。アフロちゃんが誰かに取られちゃうのイヤでしょ?」
「そりゃそうなんだけどさ……あー、もういいや。とりあえず行くか」
久しぶりにハルと話せることに期待して、ルディの手を引いて中央近くに移動する。
私もルディも多少の違和感よりも目の前の楽しみに意識が働いて、事の重大さには、てんで気づいていなかった。
ルディと二人顔を見合わせて、苦笑いをしながら同時にため息がもれてしまった。
私たちを元気づけるためになのか、ロイズ隊長は「気にしないように」と肩を二、三回軽く叩いてレイニーさんを連れ出って、別のエリアへと移動していった。
残された私たちは無言のまま立ちすくむ。
ルディを見ると口をキッと固く結び、両手はグッと握りこんでいる。
平民と貴族には深い隔たりがあるのは薄々感じていたのだが、私よりルディの方が、より壁の厚さを感じているのだろう。
私も元気づけるために片手を上げたが、悔しそうな、残念そうな、複雑な表情の彼に、今何と声をかけるのが正解なのだろうか。言葉の選択にしばし迷っていると、別室から戻ってきた伯爵が驚くほど上機嫌でこちらに近づいてきた。相変わらずの顔色だったが、体調は持ち直したようで、歩き方はしっかりしていた。
「おお、君がヒューズ君だね、今日はよく来てくれた。隣のレディも可憐な方だね。さあ遠慮なく楽しんでくれたまえ」
そう言って労いのためか、軽く肩を叩かれ、更には後ろに控えていた侍女が準備したワイングラスを自らとってひとつずつ手渡された。
先程の応対とは百八十度転換したような伯爵の態度に、私たち二人はあっけにとられるしかない。
そうこうしているうちに伯爵はワイングラスを片手に
会場の皆さんに挨拶を始め、パーティーの幕が上がった。
ルディを横目で見ると、やはり険しい顔をしたままだ。しかし、さっきまでの悔しいという表情ではなく、何かを探るような深く考え込むような表情になっている。
「なあ、なんか伯爵が変じゃなかったか?」
「え? 顔色は悪かったけど、薬飲んだからか、結構元気だったじゃん。今日のホストだから体調が悪くても無理してくれたんでしょ。それ以外何かあった?」
私が答えたことに対し、再びルディは「うーん」と唸り、アゴに手をかけて考え込んでしまった。「なんとなくだけど」とか「雰囲気かな」とかぶつぶつ呟きながら、自分の世界に入っていこうとしている。
そんなルディを横目で見ながら、私も何とか思い出そうとした……ダメやん、ムリムリ。
私が自分でそこまでの違和感を感じないんだもの、わかるワケない。
そんな会話の途中、周りから歓声が上がり、何ごとかと意識を観客の視線の先に合わせると、アフロちゃんをエスコートしたハルがフロアの中央に位置するのが見えた。やはり根っからの貴族というのは、どこか風格が違うのか、二人並ぶとお伽話から抜け出た王子様とお姫様のようだ。
フロアの照明の効果なのか、私の目に見えないフィルターがかかっているのか、二人がキラキラとしたオーラを放っているようにしか見えてこない。
思わずため息が溢れてしまった。
音楽が鳴り、ファーストダンスが始まる。
踊る姿も実に優雅で、見つめる観客たちからも一斉にため息が漏れ聞こえてくる。
あっという間に最初の一曲が終わり、伯爵の合図で楽しいダンス曲が流れ、それぞれ踊る者、歓談する者、ワインに舌鼓を打つ者など、一人、また一人と自分のやりたいことに意識を向けていった。
さあ、ハルをガードしつつ、私のダンス練習の成果を見てもらうんだ!
シラフのままだとなんだか気恥ずかしい感じがして、先程渡されたワインをグイッと一気に煽る。
「ぷはぁ」
「なん……おい、馬鹿。一気飲みするヤツがどこにいるっ。踊ったりしたら酔いが回って大変だって……あーあ、俺は知らないぞ」
飲み慣れないお酒の味は、舌先にピリッとした刺激を与えたが、戦場へ赴く勢いの今の私は興奮状態で、多少の感覚は麻痺しているみたいだ。
「ほら、ルディも行くよっ。アフロちゃんが誰かに取られちゃうのイヤでしょ?」
「そりゃそうなんだけどさ……あー、もういいや。とりあえず行くか」
久しぶりにハルと話せることに期待して、ルディの手を引いて中央近くに移動する。
私もルディも多少の違和感よりも目の前の楽しみに意識が働いて、事の重大さには、てんで気づいていなかった。
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