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王宮編
65の2.誤魔化すな!
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ここはひとつ、気持ちを喋らせる訓練をさせてみよっかな。慣れてきたら、もう少し親しみやすさが出るかもしれないでしょ?
「今日は教えてくれるまで動かない」
「な、何を言って……」
そう宣言した私は、ラッセルの手をムギュッと掴んでキッと睨み返す。向こうは、私がそのような態度に出るとは思ってなかったらしく、ギョッとして掴まれた手をみつめ、反対手で持っていた紅茶のカップを、ガチャンとテーブルに置いた。
「だって、いつも逃げてる。自分が傷つかないように、自分を守ってるだけかも知んないけど……けど、拒否されるこっちの身にもなってよねっ! ちゃんと向き合ってくんないと会話だって成り立たないよっ。誤魔化さないではっきり言って!」
この際だから、前から思ってたことをドン、とぶつけてみた。最初はこんなこと言うつもりなんてなかったのに、この人ってば、アンマリ煮え切らない態度なんですもの。
だんだんと腹が立ってきたんで、全部吐き出してさっさとスッキリしよう。
「アンタは自分が傷ついても我慢すればいいと思ってるかもしれないけどねえ、傷ついてるアンタをみてるこっちだって一緒に傷つくんだからねっ」
私の剣幕に圧倒されたラッセルは、呆然と固まったまま話しを聞いている。
私と言えば、肩でハアハア息をしながら思いっきり叫んだら、酸欠なっちゃったのかクラッとめまいを起こしてバランスを崩した。
彼が慌てて私を支えてくれたので、崩れ落ちるのは避けられたが、しばらく動けそうにないくらい疲弊してしまった。
「そうか、すまなかった。君にそんな思いをさせていたとは。心配をかけさせまいとして、余計に心配かけさせてしまったな」
「そうよ……誰も傷つかないでいるなんて偽善よ。傷つけ合って向き合って。そうしないとみんなが不幸になるのよ」
頭の上から聞こえる声の方向に顔を向けると、優しく笑ってくれてるラッセルがいた。少しは通じたってことなのかな?
「君は本当にあの万華鏡のようだな。クルクルと、その表情や感情が目まぐるしく変化する。全く目が離せない」
「それって、私がうるさ過ぎってことなん?」
怪訝そうに言葉の意味を尋ねると、彼は苦笑気味に首をゆるく横に振りつつ息を吐く。
「先ほど言いかけたことはだな」
「うんうん、何かな、何かな?」
やっと素直に会話できるようになったわね?
期待を込めて、次の言葉を待った。
「君がいると……『心が解放される』だ」
「ぅえっ……」
私の目をみて真顔で答えるラッセルには、もうウソがないと思われる。ということは、これって本心からの言葉だ。
『心が解放される』って、つまりは側にいると楽だ、とか一緒にいると安心するってことよね?
つまり、側にいて欲しいってことなん?
ヤだ……今、そんなこと言われちゃたなら……
せっかく、もうこの人への想いには蓋をしよう、と吹っ切ったところだったのに。蓋をこじ開けるようなセリフ、言わないで。気持ちが溢れてきちゃう。
「君に伝えるべきではない言葉だとは思った。期待させる訳にはいかなかったからな。君にはカシアス殿下と幸せになって欲しい。彼ならば、君を一番に考え大切にしてくれるであろう。私では無理だ」
「無理って何で……」
フッと力なく笑う様子は、まるで全てを諦めるような自嘲めいた雰囲気が漂う。
「私を取り巻く環境では、周りの者全てが不幸になるだろう。君の……その……好意は嬉しかったが応えることはできないと思ったのだ。殿下ならば応えてくれるはずだ。近いうちに、周りの貴族を納得させる技量も実績も手に入れられる。彼は君を守る力があるということだ」
優しく笑って私の頬を撫でる仕草は、小さな子供にゆっくりと言い聞かせているのと同じで、理解しなさい、と無言の説得を続けているようだ。
これにはもう、嫌だとダダをこねることも、泣いて抵抗することもできない。ただ一筋、ポロリと涙が出てきたが、慌ててそれを拭い、誤魔化すために冷え切った紅茶を一気に飲み干した。
誤魔化すな、と迫ったくせに、誤魔化さなければならない涙を今ほど辛く思ったことはなかった。
「今日は教えてくれるまで動かない」
「な、何を言って……」
そう宣言した私は、ラッセルの手をムギュッと掴んでキッと睨み返す。向こうは、私がそのような態度に出るとは思ってなかったらしく、ギョッとして掴まれた手をみつめ、反対手で持っていた紅茶のカップを、ガチャンとテーブルに置いた。
「だって、いつも逃げてる。自分が傷つかないように、自分を守ってるだけかも知んないけど……けど、拒否されるこっちの身にもなってよねっ! ちゃんと向き合ってくんないと会話だって成り立たないよっ。誤魔化さないではっきり言って!」
この際だから、前から思ってたことをドン、とぶつけてみた。最初はこんなこと言うつもりなんてなかったのに、この人ってば、アンマリ煮え切らない態度なんですもの。
だんだんと腹が立ってきたんで、全部吐き出してさっさとスッキリしよう。
「アンタは自分が傷ついても我慢すればいいと思ってるかもしれないけどねえ、傷ついてるアンタをみてるこっちだって一緒に傷つくんだからねっ」
私の剣幕に圧倒されたラッセルは、呆然と固まったまま話しを聞いている。
私と言えば、肩でハアハア息をしながら思いっきり叫んだら、酸欠なっちゃったのかクラッとめまいを起こしてバランスを崩した。
彼が慌てて私を支えてくれたので、崩れ落ちるのは避けられたが、しばらく動けそうにないくらい疲弊してしまった。
「そうか、すまなかった。君にそんな思いをさせていたとは。心配をかけさせまいとして、余計に心配かけさせてしまったな」
「そうよ……誰も傷つかないでいるなんて偽善よ。傷つけ合って向き合って。そうしないとみんなが不幸になるのよ」
頭の上から聞こえる声の方向に顔を向けると、優しく笑ってくれてるラッセルがいた。少しは通じたってことなのかな?
「君は本当にあの万華鏡のようだな。クルクルと、その表情や感情が目まぐるしく変化する。全く目が離せない」
「それって、私がうるさ過ぎってことなん?」
怪訝そうに言葉の意味を尋ねると、彼は苦笑気味に首をゆるく横に振りつつ息を吐く。
「先ほど言いかけたことはだな」
「うんうん、何かな、何かな?」
やっと素直に会話できるようになったわね?
期待を込めて、次の言葉を待った。
「君がいると……『心が解放される』だ」
「ぅえっ……」
私の目をみて真顔で答えるラッセルには、もうウソがないと思われる。ということは、これって本心からの言葉だ。
『心が解放される』って、つまりは側にいると楽だ、とか一緒にいると安心するってことよね?
つまり、側にいて欲しいってことなん?
ヤだ……今、そんなこと言われちゃたなら……
せっかく、もうこの人への想いには蓋をしよう、と吹っ切ったところだったのに。蓋をこじ開けるようなセリフ、言わないで。気持ちが溢れてきちゃう。
「君に伝えるべきではない言葉だとは思った。期待させる訳にはいかなかったからな。君にはカシアス殿下と幸せになって欲しい。彼ならば、君を一番に考え大切にしてくれるであろう。私では無理だ」
「無理って何で……」
フッと力なく笑う様子は、まるで全てを諦めるような自嘲めいた雰囲気が漂う。
「私を取り巻く環境では、周りの者全てが不幸になるだろう。君の……その……好意は嬉しかったが応えることはできないと思ったのだ。殿下ならば応えてくれるはずだ。近いうちに、周りの貴族を納得させる技量も実績も手に入れられる。彼は君を守る力があるということだ」
優しく笑って私の頬を撫でる仕草は、小さな子供にゆっくりと言い聞かせているのと同じで、理解しなさい、と無言の説得を続けているようだ。
これにはもう、嫌だとダダをこねることも、泣いて抵抗することもできない。ただ一筋、ポロリと涙が出てきたが、慌ててそれを拭い、誤魔化すために冷え切った紅茶を一気に飲み干した。
誤魔化すな、と迫ったくせに、誤魔化さなければならない涙を今ほど辛く思ったことはなかった。
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