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王宮編
69の1.死っ!
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現場は騒然としていた。
ラッセルの部屋を出る時、自室に戻るよう言われたんだけど、ワガママ言ってここまで付いてきてしまった。だって事件の現場なんて、そうそう出会えるモンじゃないし。
使用人さんの話しによると、先ほど名前が出たサモナール男爵令嬢が、今朝から行方不明になっているのが判明し、安否を気遣っていたところ、この現場から遺体で発見された、ということだった。
見つかったばかりなのと、王宮内での事件ということで、貴族の皆さまが遠巻きにして事態の行方を窺っている。かくいう私もヤジウマの一人としてこの場所に留まっている、という現在だ。
「レイニーさん、サモナール男爵令嬢ってどんな方?」
「ああ、まずサモナール男爵は税徴収の文官で……」
「あ、ごめん。令嬢の話しだけでいいよ」
ここで貴族名鑑の暗誦なんかさせられたら、たまったモンじゃない。レイニーさんのことだから、私に『はい、復誦』とか言いそう。彼女だったらやりかねないし。
「ご令嬢は……そうそう、エラン伯爵令嬢と懇意にしてらしたはずだ。ユーグレイ公も知っておられたな。サーラもエランのお茶会などでお会いしてたと思うぞ?」
「ふうん、そうなんだ」
今ひとつ人ごとのように思えて、あまり気のない返事を返す。チラリとラッセルの名前が出たことで、彼はどこか、と目線で追いかけててしまう自分がいた。
ああ、いた。貴族とのやりとりも指示出しさえもカッコいいです……なんか、そこだけキラキラしてるみたいに見えちゃうんだよね。何度目を擦ってもそう見えちゃうってのは、私の目がおかしくなってしまったのかしら。
あ、目が合った……あらやだ、こっち向かってくるし。
周りのザワザワが少し大きくなり、彼の口から『沙羅』という言葉が発せられると、ザワザワがどよめきに変わり、一斉に私に視線が集中する。
嫉妬と羨望の眼差しが入り混じったこの状況、これから絶対噂されるんだろうなと考えると、心臓が穏やかでない速さで動くのを感じた。
あーん、またまた公開処刑かよーっ!
目立たず騒がずを心がけていたのにぃ。この人ってば何してくれてんのよおっ。
周りの貴族、特に女性からの視線がチョー痛い。
「君に少し確認しておきたいことがある。あとレイニー、ヒューズを呼んでくれ。先日の襲撃の件についてだ」
あれれ? いきなりこの間の事件の話し?
今その話題ってことは、今回の事件となんらかの関係があるってことかしら。他人事のこの現場が、急に身近なものに感じはじめ、にわかに緊張が走る。
ラッセルの後を追って、関係者が揃っている場所へと動こうとした時、背中にゾクリと悪寒が走った。突き刺さるような感覚に体が強張って固くなる。ビクンと背筋を伸ばしてゆっくりと振り返ってみたが、特別目に付くような何かがあるワケではなかった。
ホッと胸を撫で下ろし、改めてラッセルに続こうと視線を戻した。
え? あの人も見に来てる?
視線の端にフッとよぎったその姿を、もう一度確認し声をかけようと探してみたが見当たらない。
気のせいだった?
仮にあの人だったら、自身がこちらに出向いているとは考えにくい。使用人や他の人に様子を窺わせるくらいならあり得ると思うのだが。
私の目の錯覚だろうと一人納得して、現場の状況に集中することにした。
「沙羅、この魔術師に見覚えはないか?」
少し離れたところから、指し示された場所を見ると、赤茶けたローブをまとった魔術師がいた。既に事切れているらしく、ピクリとも動かない様は、とても人間とは言いがたく、静かな恐怖に襲われる。
死体なんて間近でみるのが初めてだった。あまりの衝撃に、小さく震えながらラッセルにしがみついて後ろに隠れ、そこから顔を少しずらして覗きこむ。
「どうだ? 見覚えは?」
もう一度尋ねられるが、無言のまま首を横に振り、知っている者ではないと主張した。
ラッセルの部屋を出る時、自室に戻るよう言われたんだけど、ワガママ言ってここまで付いてきてしまった。だって事件の現場なんて、そうそう出会えるモンじゃないし。
使用人さんの話しによると、先ほど名前が出たサモナール男爵令嬢が、今朝から行方不明になっているのが判明し、安否を気遣っていたところ、この現場から遺体で発見された、ということだった。
見つかったばかりなのと、王宮内での事件ということで、貴族の皆さまが遠巻きにして事態の行方を窺っている。かくいう私もヤジウマの一人としてこの場所に留まっている、という現在だ。
「レイニーさん、サモナール男爵令嬢ってどんな方?」
「ああ、まずサモナール男爵は税徴収の文官で……」
「あ、ごめん。令嬢の話しだけでいいよ」
ここで貴族名鑑の暗誦なんかさせられたら、たまったモンじゃない。レイニーさんのことだから、私に『はい、復誦』とか言いそう。彼女だったらやりかねないし。
「ご令嬢は……そうそう、エラン伯爵令嬢と懇意にしてらしたはずだ。ユーグレイ公も知っておられたな。サーラもエランのお茶会などでお会いしてたと思うぞ?」
「ふうん、そうなんだ」
今ひとつ人ごとのように思えて、あまり気のない返事を返す。チラリとラッセルの名前が出たことで、彼はどこか、と目線で追いかけててしまう自分がいた。
ああ、いた。貴族とのやりとりも指示出しさえもカッコいいです……なんか、そこだけキラキラしてるみたいに見えちゃうんだよね。何度目を擦ってもそう見えちゃうってのは、私の目がおかしくなってしまったのかしら。
あ、目が合った……あらやだ、こっち向かってくるし。
周りのザワザワが少し大きくなり、彼の口から『沙羅』という言葉が発せられると、ザワザワがどよめきに変わり、一斉に私に視線が集中する。
嫉妬と羨望の眼差しが入り混じったこの状況、これから絶対噂されるんだろうなと考えると、心臓が穏やかでない速さで動くのを感じた。
あーん、またまた公開処刑かよーっ!
目立たず騒がずを心がけていたのにぃ。この人ってば何してくれてんのよおっ。
周りの貴族、特に女性からの視線がチョー痛い。
「君に少し確認しておきたいことがある。あとレイニー、ヒューズを呼んでくれ。先日の襲撃の件についてだ」
あれれ? いきなりこの間の事件の話し?
今その話題ってことは、今回の事件となんらかの関係があるってことかしら。他人事のこの現場が、急に身近なものに感じはじめ、にわかに緊張が走る。
ラッセルの後を追って、関係者が揃っている場所へと動こうとした時、背中にゾクリと悪寒が走った。突き刺さるような感覚に体が強張って固くなる。ビクンと背筋を伸ばしてゆっくりと振り返ってみたが、特別目に付くような何かがあるワケではなかった。
ホッと胸を撫で下ろし、改めてラッセルに続こうと視線を戻した。
え? あの人も見に来てる?
視線の端にフッとよぎったその姿を、もう一度確認し声をかけようと探してみたが見当たらない。
気のせいだった?
仮にあの人だったら、自身がこちらに出向いているとは考えにくい。使用人や他の人に様子を窺わせるくらいならあり得ると思うのだが。
私の目の錯覚だろうと一人納得して、現場の状況に集中することにした。
「沙羅、この魔術師に見覚えはないか?」
少し離れたところから、指し示された場所を見ると、赤茶けたローブをまとった魔術師がいた。既に事切れているらしく、ピクリとも動かない様は、とても人間とは言いがたく、静かな恐怖に襲われる。
死体なんて間近でみるのが初めてだった。あまりの衝撃に、小さく震えながらラッセルにしがみついて後ろに隠れ、そこから顔を少しずらして覗きこむ。
「どうだ? 見覚えは?」
もう一度尋ねられるが、無言のまま首を横に振り、知っている者ではないと主張した。
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