異世界行って黒ネコに変身してしまった私の話。

しろっくま

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王宮編

86の2.ダルダルっ!

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「あのねぇっ!」

 文句を言いかけた途端、左手を軽くあげて私を制し、使い魔のカラスさんを飛ばした。勢いを削がれたため、不完全燃焼のまま口の先まで出ていた不満を飲み込むと、ご機嫌とりのためか、ラッセルがお茶を差し出してくれた。

 それを飲みながら、ひと息つくと、再び現れたカラスが何かの書面をハラリと落とす。
 書面に目を通したラッセルが、一瞬不快な表情を浮かべたと思ったら、軽くため息をつき、ゆっくりと立ち上がる。

「沙羅、せっかくの教会行きだったが、私は同行できなくなった。東の国境の動きが怪しいらしく、私に調査命令が下った。事態がひと段落するまで王宮から離れなければならない」
「東側っていうとラムダス?   それともアーリン?」
「アーリンの方だ。今は辺境警備に力のある魔術師が不足気味でな。小競り合いのまま膠着しているらしい」

 少し厳しい顔つきで何かを考えながら話す様子は、この国にとってもあまり良い状況ではないことを物語っている。

「アーリンって、あの自由民がいる地域だよね。あと、例の一族も。内乱でこちらの国境までは攻めてこないんじゃなかったの?」
「そこら辺の内情も踏まえての調査だな。私が殿下の補佐から外れたのを見越して、ということだ」
「なんか都合よく追い出されてる感じするんだけど?」
  
 ふふ、とほの暗い笑みを浮かべるラッセルは、私が今指摘した内容が的を射ていると肯定する笑みのようだ。

「誰が事を企てたのか、だいたいの差し金は検討がつくが。ここで物事を荒立てるわけにもいかない。早々に収めて帰ってくればいいのだから」

 黒幕が誰かわかってんなら、まずはソイツを叩いちゃえばいいのに。
 心の不満が顔に出ているようで、つい口先を尖らせてムッとしたまま押し黙った。

「そのような顔は……」
「わかってるって。レディには相応しくないんでしょ。でもさぁ、なんか釈然としないし」
「なんだ、寂しいのか。なら、もう少しお相手して差し上げるべきかな?   今度は私が楽しませてもらおうか」

 意地の悪い笑みでこちらに向かってくる姿は、後ろに見えない黒い尻尾をつけているようで、怯えた笑いしか出てこない。

「いやいや、ラッセルさん、ラッセル様、ラッセル大明神様。今のところ間に合ってるかなぁ。別に寂しいとか無いから。足りてる、充分足りてますから」
「何、遠慮などしなくていいぞ?」
「遠慮したいですって。いや、ホント……きゃあっ」

 適当な言い訳しながら後ずさりしていたら、それこそベッドの縁に阻まれてひっくり返って倒れ込んでしまった。

「ふむ、自らベッドへ来るのだから君も望んでいることだと考える。いい方に捉えようか」

 捉えんでいいわいっ!   はうっ……

 あっという間に唇を奪われ、何度もキスを繰り返していくうちに、快感が抵抗を上回り、思考が鈍るのがわかった。自分の中でも、心地よい時間を共に過ごしたいという欲求がどんどん膨らんでいき、最後はそれに屈服する。

 お互いの体温を感じ合い、心が満たされる時間を共有した後は、満足し切って、自然と眠りの海にダイブしていった。

 目が覚めると自分の部屋のベッドに寝かされていた。しかも、相変わらずダルダルになってるし……
 話しを聞くとラッセルが抱き抱えて連れて来たという。

 彼の所在を尋ねたら、既にアーリン付近の国境へと旅立った後だということだった。

 半分抱き潰された感があるのだけれど、たぶんこれ以上心配させまいとの、彼なりの心遣いだったのだろう。
 だけどね、見送りもさせてくれないってどうなのかしら。ああいった場面が苦手な感じはビンビンに伝わるから、さっさと逃げたかったのかしらね。失礼しちゃうわ。

 それはそうと、彼が無事に帰ってきますように、と祈らずにはいられない。あんまり信心深い方とは言えない私ですら、どこかにいるかもしれない神様に祈りたくなる。

 そうだ、教会!
 バザーのお願いと一緒に無事帰還を祈るのもいいわね。許可は下りてるはずだから、早速行ってみようかな。

『善は急げ!』
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