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王宮編
98の2.それは困る!
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ひとつ不安が消えると、またひとつ別の不安、いや、むしろ不満とも言えるべきものが頭をもたげる。
ーーラッセルに会いたい、側に居たいーー
口をついて出そうになる言葉をグッと堪えて、無理やり笑う。
「どうした、寂しくなったのか? 先ほどの元気が消えているが?」
「な、んでもない。元気だし、寂しくないっ」
「そうか? 私は君がいないと寂しいと思ったぞ?」
「え?」
うそ……この人から寂しいなんて言葉が出るなんて……
意外過ぎて頭がついていかない。
呆然として固まっていると、さらにびっくりな言葉が飛び出した。
「いろいろ考えた結果、一旦王都に戻って王に現状を報告がてら、君を国境まで連れて行くことにした」
「はあ?」
いや、嬉しいよ? 嬉しいけどさ、それってアンタのワガママじゃん?
いいのかそれで。仕事にプライベート持ち込んでますよー。
「副官や周りの部下からも、現状維持はしておくので私に一旦戻るようにと進言された。巡回に来たコークスとも話す機会があったのだが……私の任務を早く終わらせるには君をこちらへ呼んだ方が効率的だと言われたのでな」
「あは、あは、は……」
ラッセルの話しから察するに、ヤツは煙たがられる存在とみた。彼を一旦王都へ追い払って、私に会わせてご機嫌をとる風に根回しでもしたんだろう。さすがだぜ、ラッセルの部下。何気に優秀な人材を揃えているのね。
コークス先生は、これ以上ラッセルの機嫌が低下するのを防ぐため、私を生贄にすることを提案したってワケだな。ホント困るんですけど!
まあ、その提案に乗っかるアンタもアンタだわ。しかも臆面もなく私を側に置くなんて言ってのける心臓に頭が下がります。
「とりあえず明日、王都に到着予定だ。午後には君の部屋へ行けるので、翌日から出かけられるように準備しておいてくれ。それでは明日、楽しみにしている」
そう伝えきると、今まで開けていたカラスの口と額の目がパタンと閉じて、空気に溶けるように消えていってしまった。
おーい、伝えるだけ伝えてお終いかよー。
しかも楽しみだなんて……あの、初めて会った時にはブリザード吹き荒れていたヤツの口から、そんな言葉が出る日がくるなんて……
衝撃のあまり、カラクリ人形にでもなった気分だ。半開きの口を開けたまま、消えたカラスに向かってコクコクと頷くだけしかなかった。
それでも、明日になればラッセルと話しができると思えば心が弾む。
ちょっとだけ私の気分も上向きになり、鼻歌交じりで身支度のために立ち上がる。ちょうどハムスターちゃんが通りかかったので、彼女に手伝いを頼もう。
窓を開けると一羽の蝶がヒラヒラと部屋へと舞い込んできた。
あら、この蝶も私の気持ちをわかってくれたのかしら?
ふふふん、と歌いながらスッと手を差し伸べると、誘われるように指先に止まり、またヒラヒラと周囲を飛び回る。その蝶を目で追いかけて、また差し出した指先に止まらせる。
蝶を驚かせないように、指先に集中してベッドに腰掛けてから、軽やかな羽の動きを眺め続ける。やがて体がふわふわして、緩やかな眠気がやってきた。ふらりと体勢を崩しベッドに倒れこむ。
さっきまで充分眠ったはずなのに、また眠くなる?
でも気持ちいいからこのまま寝ちゃってもいいよね?
「アハハン。アタシの蝶はお気に召したかしら? シンがあなたに会いたいって言うしさぁ、しょうがないから連れて行ってあげる」
意識が遠くなる中で聞こえた女性の言葉に、この蝶が罠だったと今更ながら気付かされる。
ヤバい。連れて行くってことは私、誘拐されるってことじゃん。それはイヤ。
何で今シンに会わなきゃいけないのよっ。
私が会いたいのはラッセルなんだって。この眠気に勝てば面と向かって文句も言えるんだが……
がんじがらめの拘束に、悔しいけれど屈服するしか術がなかった。
ーーラッセルに会いたい、側に居たいーー
口をついて出そうになる言葉をグッと堪えて、無理やり笑う。
「どうした、寂しくなったのか? 先ほどの元気が消えているが?」
「な、んでもない。元気だし、寂しくないっ」
「そうか? 私は君がいないと寂しいと思ったぞ?」
「え?」
うそ……この人から寂しいなんて言葉が出るなんて……
意外過ぎて頭がついていかない。
呆然として固まっていると、さらにびっくりな言葉が飛び出した。
「いろいろ考えた結果、一旦王都に戻って王に現状を報告がてら、君を国境まで連れて行くことにした」
「はあ?」
いや、嬉しいよ? 嬉しいけどさ、それってアンタのワガママじゃん?
いいのかそれで。仕事にプライベート持ち込んでますよー。
「副官や周りの部下からも、現状維持はしておくので私に一旦戻るようにと進言された。巡回に来たコークスとも話す機会があったのだが……私の任務を早く終わらせるには君をこちらへ呼んだ方が効率的だと言われたのでな」
「あは、あは、は……」
ラッセルの話しから察するに、ヤツは煙たがられる存在とみた。彼を一旦王都へ追い払って、私に会わせてご機嫌をとる風に根回しでもしたんだろう。さすがだぜ、ラッセルの部下。何気に優秀な人材を揃えているのね。
コークス先生は、これ以上ラッセルの機嫌が低下するのを防ぐため、私を生贄にすることを提案したってワケだな。ホント困るんですけど!
まあ、その提案に乗っかるアンタもアンタだわ。しかも臆面もなく私を側に置くなんて言ってのける心臓に頭が下がります。
「とりあえず明日、王都に到着予定だ。午後には君の部屋へ行けるので、翌日から出かけられるように準備しておいてくれ。それでは明日、楽しみにしている」
そう伝えきると、今まで開けていたカラスの口と額の目がパタンと閉じて、空気に溶けるように消えていってしまった。
おーい、伝えるだけ伝えてお終いかよー。
しかも楽しみだなんて……あの、初めて会った時にはブリザード吹き荒れていたヤツの口から、そんな言葉が出る日がくるなんて……
衝撃のあまり、カラクリ人形にでもなった気分だ。半開きの口を開けたまま、消えたカラスに向かってコクコクと頷くだけしかなかった。
それでも、明日になればラッセルと話しができると思えば心が弾む。
ちょっとだけ私の気分も上向きになり、鼻歌交じりで身支度のために立ち上がる。ちょうどハムスターちゃんが通りかかったので、彼女に手伝いを頼もう。
窓を開けると一羽の蝶がヒラヒラと部屋へと舞い込んできた。
あら、この蝶も私の気持ちをわかってくれたのかしら?
ふふふん、と歌いながらスッと手を差し伸べると、誘われるように指先に止まり、またヒラヒラと周囲を飛び回る。その蝶を目で追いかけて、また差し出した指先に止まらせる。
蝶を驚かせないように、指先に集中してベッドに腰掛けてから、軽やかな羽の動きを眺め続ける。やがて体がふわふわして、緩やかな眠気がやってきた。ふらりと体勢を崩しベッドに倒れこむ。
さっきまで充分眠ったはずなのに、また眠くなる?
でも気持ちいいからこのまま寝ちゃってもいいよね?
「アハハン。アタシの蝶はお気に召したかしら? シンがあなたに会いたいって言うしさぁ、しょうがないから連れて行ってあげる」
意識が遠くなる中で聞こえた女性の言葉に、この蝶が罠だったと今更ながら気付かされる。
ヤバい。連れて行くってことは私、誘拐されるってことじゃん。それはイヤ。
何で今シンに会わなきゃいけないのよっ。
私が会いたいのはラッセルなんだって。この眠気に勝てば面と向かって文句も言えるんだが……
がんじがらめの拘束に、悔しいけれど屈服するしか術がなかった。
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