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世界編
103の1.腹立つっ!
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むっちゃ腹立つ。
なんなの? あの自分だけわかったような物の言い方。ハルだって今の閉塞感に私が苛立っているのわかってるわよねぇ。なのに、あんなオブラートに包むような言い方しちゃって。
こんな状況なんだから、もっとわかりやすくストレートに言ってくれた方がスッキリして嬉しいのに。
あまりのイライラに、部屋へ招き入れる声より先に、部屋の入り口でハルに文句をぶちまけてやるぞ、と、ものすごい勢いで扉を開けた。
「まだ何かっ?」
と、扉の先にいたのは、ハルではなく別の人物。
「あ……」
言葉では言い表せないくらいの嬉しさが込み上げて、何も言えずに固まってしまった。
「私が会いにきたのでは不足か?」
ふわっと抱きしめられ、耳元で囁かれる声で全身に震えが走り、思わずキュッと抱きしめ返してしまう。聴きたいと心から願った彼ーーラッセルの声を耳に感じ、ふるふると首を横に振り、私も一言だけ言葉を返す。
「……会いたかった、です」
お互いに顔を近づけてニコリと笑うと、あとはもう本能に従うだけだった。
両方の手と手を合わせ、絶対に離さないようにとギュッと絡め合い、彼からのキスの雨を一身に受ける。
これだけで、今の私の不満の一切が消し飛んでしまった。
この国に囚われて身動きがとれないとか、この人に縁談の話が舞い込んできてるとか、そんなことはどうでもよかった。
目の前にこの人ーーラッセルがいる。ただそれだけでいい……
そうして私は幸せを胸いっぱいに感じ、限られた時間の中を二人で思い切り楽しんだ。
******
「アンタがここにこれたなんて意外。ハルが挨拶してたから、あっちのお仕事が忙しいんだと思ってた」
部屋に最初から用意されていたお茶セットでお茶を準備してからソファに座り、二人だけのゆっくりとした時間を過ごす。
私のイライラは抜けていったが、ラッセルの方はやや不満そうな表情をしているし、つかの間に交わされた言葉の端々には僅かなトゲを感じるように思った。
「それどころではない。君に会いに行くと言って部屋へ行ってみたら、もぬけの殻だったのだからな。私も何が起きたのか理解するのにしばらく時間がかかった」
ずいぶんと感情が表に出てること。
どんどん人間味溢れるようになってる彼をみて、小さな笑いが顔に出てしまう。
「ベッドには沙羅を預かる、との書き置きが置いてあるし、程なくしてエンリィからの使者が来て、沙羅を王妃に迎え入れたいとの申し入れがあると言われる始末だ」
ふうっと深く息を吐き出して、眉根を寄せる表情には、起こった事の大変さを感じさせた。
なんとなく責められるような口調で言われたので、私は居心地が悪くなって軽く身じろぎする。
その様子を見てなのか、ラッセルは微かに笑って私の頬に手を寄せ、その手をずらすとギュッと鼻をつまんでくる。
「ふぃっ、痛ったあーいっ」
「そのような痛み、私の胸の痛みに比べれば大したことではあるまい」
半分拗ねたような口調が少し可愛く思え、申し訳なさで萎縮した気持ちが軽くなる。同時に、鼻をつまんでるラッセルの手をペチペチ叩き、払いのけてから自分の鼻をガードした。
「君がエンリィに攫われたのだから、すぐさま抗議の申し入れをルシーン王にお願いしたのだが、なかなか許可がおりず、さらには……」
……まーだあるんかーい……
私が消えてからの今までを、こと細かに説明される。
結局、抗議のための訪問としてではなく、エンリィ王の婚約に対するお祝い、という名目でなら訪問の許可がおりることになったんだとか。
それも、ハルが訪問団の団長でラッセルは渡航許可すらもらえなかったんだそうだ。
「え? アンタ、ここに居たらダメなんじゃん。ヤバいって。バレたら首飛んじゃう……」
うろたえる私に対し、ラッセルは落ち着かせるために、その腕の中に私を抱え込んで話を続ける。
なんなの? あの自分だけわかったような物の言い方。ハルだって今の閉塞感に私が苛立っているのわかってるわよねぇ。なのに、あんなオブラートに包むような言い方しちゃって。
こんな状況なんだから、もっとわかりやすくストレートに言ってくれた方がスッキリして嬉しいのに。
あまりのイライラに、部屋へ招き入れる声より先に、部屋の入り口でハルに文句をぶちまけてやるぞ、と、ものすごい勢いで扉を開けた。
「まだ何かっ?」
と、扉の先にいたのは、ハルではなく別の人物。
「あ……」
言葉では言い表せないくらいの嬉しさが込み上げて、何も言えずに固まってしまった。
「私が会いにきたのでは不足か?」
ふわっと抱きしめられ、耳元で囁かれる声で全身に震えが走り、思わずキュッと抱きしめ返してしまう。聴きたいと心から願った彼ーーラッセルの声を耳に感じ、ふるふると首を横に振り、私も一言だけ言葉を返す。
「……会いたかった、です」
お互いに顔を近づけてニコリと笑うと、あとはもう本能に従うだけだった。
両方の手と手を合わせ、絶対に離さないようにとギュッと絡め合い、彼からのキスの雨を一身に受ける。
これだけで、今の私の不満の一切が消し飛んでしまった。
この国に囚われて身動きがとれないとか、この人に縁談の話が舞い込んできてるとか、そんなことはどうでもよかった。
目の前にこの人ーーラッセルがいる。ただそれだけでいい……
そうして私は幸せを胸いっぱいに感じ、限られた時間の中を二人で思い切り楽しんだ。
******
「アンタがここにこれたなんて意外。ハルが挨拶してたから、あっちのお仕事が忙しいんだと思ってた」
部屋に最初から用意されていたお茶セットでお茶を準備してからソファに座り、二人だけのゆっくりとした時間を過ごす。
私のイライラは抜けていったが、ラッセルの方はやや不満そうな表情をしているし、つかの間に交わされた言葉の端々には僅かなトゲを感じるように思った。
「それどころではない。君に会いに行くと言って部屋へ行ってみたら、もぬけの殻だったのだからな。私も何が起きたのか理解するのにしばらく時間がかかった」
ずいぶんと感情が表に出てること。
どんどん人間味溢れるようになってる彼をみて、小さな笑いが顔に出てしまう。
「ベッドには沙羅を預かる、との書き置きが置いてあるし、程なくしてエンリィからの使者が来て、沙羅を王妃に迎え入れたいとの申し入れがあると言われる始末だ」
ふうっと深く息を吐き出して、眉根を寄せる表情には、起こった事の大変さを感じさせた。
なんとなく責められるような口調で言われたので、私は居心地が悪くなって軽く身じろぎする。
その様子を見てなのか、ラッセルは微かに笑って私の頬に手を寄せ、その手をずらすとギュッと鼻をつまんでくる。
「ふぃっ、痛ったあーいっ」
「そのような痛み、私の胸の痛みに比べれば大したことではあるまい」
半分拗ねたような口調が少し可愛く思え、申し訳なさで萎縮した気持ちが軽くなる。同時に、鼻をつまんでるラッセルの手をペチペチ叩き、払いのけてから自分の鼻をガードした。
「君がエンリィに攫われたのだから、すぐさま抗議の申し入れをルシーン王にお願いしたのだが、なかなか許可がおりず、さらには……」
……まーだあるんかーい……
私が消えてからの今までを、こと細かに説明される。
結局、抗議のための訪問としてではなく、エンリィ王の婚約に対するお祝い、という名目でなら訪問の許可がおりることになったんだとか。
それも、ハルが訪問団の団長でラッセルは渡航許可すらもらえなかったんだそうだ。
「え? アンタ、ここに居たらダメなんじゃん。ヤバいって。バレたら首飛んじゃう……」
うろたえる私に対し、ラッセルは落ち着かせるために、その腕の中に私を抱え込んで話を続ける。
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