異世界行って黒ネコに変身してしまった私の話。

しろっくま

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世界編

110の2.アンタらかっ!

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 私とコンの会話を聞いてか、シンが呑気な声で間に入ってきた。

「あはは。サーラちゃん、ごめんね。僕のわがままに巻き込んで。でもさ、何も知らないままよりは良かったでしょ?   殺されるにしても、エーデルから離れるにしても。まぁ、僕のお嫁さんになるのがベストだってわかったと思うし」

 おい、私が絶対にラッセルの側にいないのが前提かいな……ふざけんな、と思ったが、ここは一旦深呼吸してから押し殺した声で答える。

「私の進退については今は話に出さないで。それで?   残りの仲間はどこにいるのよ」

 イラっとしながら尋ねると、コンの後ろからユラリと誰かがテントに入ってきた。

「あとは俺たち二人だ。『リー』はこの中に入るのが嫌らしい。外で待ってるそうだ」

 振り返ってみると、立っていたのはアンドリュー第一王子……ではなく、王子もどきの『蜘蛛使いダー』だった。

「あ、アンタまでっ!なんでっ!」

 相変わらず不気味な顔をしている。
 この人の一番の特徴は、たぶんその目だろう。人間の姿をしてアンドリュー王子の顔がついているにもかかわらず、目だけは真っ黒な穴のようになっているからだ。

 いや、よくよく見ると、穴の中にわずかだが動きを感じる。たぶん彼の目が動いている証拠なんだろう。そしてその目の光が、かろうじて彼と私が同じ人間であることを証明しているかのようだった。

 彼を前にすると、顔の造りに違和感がありすぎてなんだか落ち着かなくなってくる。
 その顔に貼り付いている、空洞な目を見ていたら、腕の毛穴がふつふつと毛羽立ってきたので、自分の視界に入らないようにラッセルの陰に隠れた。

「おや?   心外な挨拶だな?   お嬢さん、久しぶりですね。そんな隅にいないでもう少し側においで?   怖がらなくてもいいよ?」

 途中からはアンドリュー王子を演じている時の口調で私に話しかけてきた。
 ……絶対にからかってるんだわ、気持ち悪い。

「い、嫌よ。あなたの顔、普通じゃないものっ。存在自体が怖いからっ。しかも私を殺すかもしれないんでしょ?   だったら絶対にラッセルの陰ここから動かないわ」

 私の返事を聞いたダーが、一瞬だけ憂いの表情を浮かべる。というか、そんな表情になるように筋肉が動いた気がした。

 え?   なんでそんな雰囲気出しちゃうわけ?
 前はこっちが引くくらい自信たっぷりで、今にも射殺さんとしたオーラをだしてたじゃないか。
 一瞬でもそんな雰囲気を感じとると、私が悪者になった気分になっちゃう……

「普通と違う、か……確かに。お嬢さんに比べれば、俺の顔は普通じゃないだろうな。勝手に怯えてろ。まあいい、俺はリーが居ればそれでいいさ」

 自嘲を感じさせる声を響かせて、くるりと背を向けると、スタスタとテントから出て行ってしまった。

「あーあ、ダーが拗ねちゃったじゃないか、ダメだよサーラちゃん。彼はああ見えて、結構繊細なんだ。特に顔の話には触れちゃいけないって暗黙の掟があるんだよねぇ」

 そんなの、今更言われたって困る。
 こっちは自分の身を守るので精一杯なんだから。
 多少言葉がトンガっていたとしてもしょうがないじゃないか。

「なんでそういうこと教えてくれないのよ。いくらいけ好かないヤツだとしても、そのくらいの配慮はする……と思うわよ……たぶんだけど……」

 できるかどうかは自信ないけどね……
 なにしろついこの間までは、彼らに命を狙われていたわけだし。そんな相手に優しくできるほど人間できてないもの。

 ただ、今回のシャドウ討伐だけは、共同戦線を張らないといけないので、これまでのわだかまりをグッと堪えているだけだ。

「とりあえず、ヤツが気にする内容だったんなら、あとで謝っとくわ」
「いや、彼のことだ。リーに会えば大丈夫だ。これから一族の会議にはいる。サーラちゃんには外で待機してもらえるかな?   お相手はリーがするよ」

 え?   これから、その『リー』と闘えと?

 いきなり出くわしたピンチに、体を硬くしてラッセルに目で助けてくれと訴える。

「大丈夫、言ったでしょ?   今は休戦中。それに、リーもサーラちゃんと過ごせるのは嬉しいと思うけどな?」

 ラッセルと会話をする暇もなく、強制的に背中をシンに押され、しぶしぶテントを出る。入れ替わりにダーが横目で私を見ながらテントへ入った。

 えーっと、リーってのは誰だよ。とりあえず少しの時間は一緒にいるわけだし、挨拶だけでもしておくべし。

 そう思いながら辺りを見回すと、物かげに隠れるようにして佇んでいるリーがチラリと見えた。
 すぐ側まで歩いて、ハタと足が止まった。

 そこにいたのは、私のよく知る人物。
 そしてこの場にはおよそ似つかわしくない人物だった。
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