異世界行って黒ネコに変身してしまった私の話。

しろっくま

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世界編

112の1.絡まった糸、解けた!

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 ハラハラと涙を流すリーは、儚く美しいと思った。
 まるで報われることのない想いに身を焦がすヒロインのようで、心をギュッと握られるような切なさだった。

「あなた、それで諦めるの?   諦められるの?   あなたが彼を想う気持ちは、そんな簡単に整理がつくものなの?」

 リーはハッとした表情で私を見る。

「私は……私の気持ちは……」

 戸惑い、両手を自分の頬に当てて考える彼女に、次に何と言っていいのか考えあぐね、しばしの無言状態が続いた。

「リー、打ち合わせは終わったぞ」

 テントから顔を出したダーが私の方に向かって声をかけて、そのままこちらにやって来る。

「リー?   なっ、どうしたっ!   おまっ……お前っ、リーに何をしたっ!」

 ものすごい勢いでダーは私に駆け寄り、胸ぐらを掴んでギリギリと責め立ててきた。その声には苛立ちと怯えをはらんでいた。

「やめてっ!   お嬢様は関係ない。だから放してあげて」

 ダーの腕を掴みさらに涙を流すリーの様子に、次第に私を締め上げる腕も緩み、やがて振り払われるように解放された。
 締め付けられて息もつけない状態だったので、一気に流れ込む空気に思わずむせ返り、咳き込んで体を曲げた。

「くはっ……はぁっ……あ、のさぁ。アンタ、何にもわかっちゃないわね。そもそもリーがなんで泣いてるか、考えたことあるの?」
「なんだと?   そんなこと考えるまでもない。泣くのは悲しいからだ。もう放っといてくれ、いずれリーから原因となった話をじっくりと聞く」

 ……コイツ、ホント馬鹿。
 彼女の変化に戸惑い過ぎて、対処の方法が思いつかないまんま怯えてるってとこかしら。イライラを私にぶつけてどうすんのってのよ、全く。
 ここは一発、ガツンと教え込んでやるか。

「ねぇ、この分からず屋に教えてあげていい?」

 ダーに言ってやる前に、私はリーの方へ向きながら前置きのため確認を取った。

 彼女は顔を伝う涙も拭わないで私を見る。
 その表情は呆然として、言葉の意味を理解するまで少し時間がかかっているみたいだ。口をハクハクと動かすだけの彼女には、戸惑いの様子を感じた。

 そんな中、私が喋るのを待たずに、ダーの方がボソボソと喋り始めた。

「俺たちは何一つ隠し事などない兄妹だったんだ。それが証拠に、リーからは今まで何の不満も聞かなかった。お前に会ってしばらくしてからだ、コイツが変わったのは」
「私?   もしかして私がこの子に何かしたと思ってんの?」
「ああ、もしかしなくても、だ。お前のところに行ってからなんだ、リーが哀しむようになったのは。だからお前が何かして泣かしたに決まってる。そうでなければ、なぜリーは泣く必要があるんだ?   俺は常にリーが笑っていられるように動いているのに……お前は俺の邪魔ばかりして、ホントにイライラする」

 最初は気持ちを抑えていたようだったのが、だんだんとたかぶってきたらしい。激しい口調で私をなじった。

 あーダメだ、コイツ。
 何もわかっちゃいないわ。
 そもそも自分が原因で、とかは頭に浮かんでこないのかしら、全く。

「それがこの子の負担になってると思わないの?   リーのため、リーのためって、アンタが彼女に尽くせば尽くすほど、この子は身の置き場がなくなるの。アンタの過保護のせいで、愚かな可愛い『妹』を演じなければならないのよ?」
「なっ……」

 ダーは開きかけた口をグッと噛み締めて、私を睨み返す。しかしそれも一瞬だけで、すぐに視線を外して俯く。やがてその口から出た言葉は意外にも小さく、切なく響いた。

「だって俺は『兄』だから……死んだアイツの分まで、リーの幸せを願ってやらないといけないんだ……そう、俺は『兄』だから……」

 誰かに言い聞かせるように何度も『自分は兄だ』と繰り返す。まるで自分自身の心に刻み込ませるかのように。

「この子だってもう大人なんだよ?   いい加減護られてばかりの小さな子供とは違う。一人の大人として接してあげることも考えてみたら?   そろそろ手放してあげなよ?」
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