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転移編
3の1.誰よ、アンタっ!
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「おや? アタシの魔術のニオイがするねぇ」
その言葉で、意識が戻った。
もう燦々と朝日が降り注ぐ時刻になっているらしい。
誰だ、と思って周りを見回すと、水たまりを挟んだ反対側に盲目の老婆がいた。
というのも、目を瞑ったまま顔をこちらにむけて喋っていたからだ。シワの間から少し見えてるかもしれないが、みた感じではキッチリと閉じられている。
杖をついてはいるが、ゆっくりと、それでいてしっかりとした足取りは、一見、目が見えないとは感じさせない、堂々としたものだ。
そういえば、昨夜はパックの途中で変な感じになって……
気がついたらネコって、全くもって変な夢みたわ。
ヤッバーい、入社以来皆勤賞の私が、遅刻とか欠勤とかあり得ないから。とりあえず、会社に連絡して部屋に戻らなきゃ。
「すみません、私、迷子みたいなんです。近くのコンビニか最寄りの駅教えていただければありがたいのですが」
「コンビニってのも、もよ……何とかってのも知らないねえ、何かの道具かい?」
「あん? はい?」
思わず首を傾げた。今時の地方の老人はコンビニ利用率が高いって聞いてるけど、知らない人もいるのかな? でも駅すら知らないって……どんだけ山ン中だいっ。
ハッと思いついた。特別養護老人ホームか隔離病院ってこともアリだわ。もの忘れ老人だと一般常識通じない、というか忘れちゃってる可能性もあるからね。たぶんそこから抜け出した人に違いない。
「お婆さん、付き添いのお世話する方とかお家はどこ? 病院とかおっきな建物だよね? 連れてったげるよ?」
立ち上がってお婆さんの手を取ろうと……したのだが、また失敗した。しかも獣の手……
「なんでーーーーっ! 夢じゃないのーーーーっ!」
「だから言ったじゃないか、アタシの魔術だって」
軽快に笑うお婆さんをみて、射殺したくなるような目つきで睨みつつ叫んだ。
「犯人がアンタなら早く戻してっ! とにかく猫じゃ話しにもならんて。それからここどこよっ!」
「そんなにギャーギャー威嚇せんでもいいだろうに。ふむ、ずいぶん前にアイツにかけたはずの魔術がナゼかアンタにかかってるねぇ。ハッハッハ」
ひとしきり笑ったお婆さんは杖を私に向けてヒョイっと動かした。同時に私の体が空中に浮き上がった。もう一度杖が動いたかと思うと視界がグニャんと歪み、変な小屋っぽい家の前に移動していた。
うっひゃあ、これ魔法っすか?
瞬間移動とかってヤツっすよねえ、チョーすごいわ、私。何かの魔法とかかけてもらってるし。
ファンタジーじゃん……ってネコなってる段階で既にファンタジーだし。
周りをキョロキョロと見回すも、これといってオドロオドロしい気配はないようだ。
「そんなに人の家が珍しいかい、他の家とさほど変わらんよ?」
「それはわかったけど……ここはどこ? 魔法がある時点で既に現実離れしてることは理解したわ。でも夢にしてもあまりにリアルっぽくて」
お婆さんはククッと小さく笑い、私にお茶を出してくれた。カップに手をかけ……
断念した。掴めないじゃないのよっ、ネコなんだってば。
「ここはルシーン王国、月の加護を受けし者が暮らす国だよ。アタシはサランディア・ルー、魔女さ。こう見えても二十歳だよ」
はい? ルシーンなんて国、あったっけ?
頭をフル回転させて世界地図の要所を思い出していく。
いやちょっと待て。さっき魔法使ったよね。
てことはもはやここは私の知識の範疇にある世界地図には載ってない場所。すなわち……
「ゲーーーーっ! 夢の世界じゃーーんっ!」
「何だいさっきから。夢だ、とか夢じゃないとか。叫ぶのは止めとくれ、頭が痛くてしょうがない」
注意されて申し訳なさそうに頭を下げて、
「ごめんなさい、現実が受け入れられなくて。もう少ししたら、気持ちが追いついてくると思うんですけど」
「アンタ名前は? どっから来たんだい?」
サランディアさんの問いかけに、居住まいを正して自己紹介をする。
「私は月宮紗羅、二十四歳。日本という国から来ました。たぶん知らないと思いますけどね」
「確かに知らないねぇ、帰る場所を探すなら王都へ向かうしかなかろう。街で情報を集めてそこから帰ればいいさ」
「それだったら、早くこの黒ネコの魔法を解除して。人間に戻んなきゃ、探すも何もあったもんじゃない」
不満を全面に押し出して、サッサと戻してもらうようにお願いした。
「まあ、そう焦らんでも。アタシの魔術がアンタにかかっていることを先ず解明しないと。ネコから元の姿に戻すのはそれからだよ、何ごとにも準備は必要だ」
言われてみれば確かにそうだ。
『急いては事を仕損じる』
ことわざにもある通り、慌てても逆に時間がとられるばかりってこともあるし。
ネコのままだと会社にも行けないしね。今日の出勤は諦めるか……あー、参った、連絡つけられないってことは無断欠勤だよね。つまりクビの可能性大なんだけど……
その言葉で、意識が戻った。
もう燦々と朝日が降り注ぐ時刻になっているらしい。
誰だ、と思って周りを見回すと、水たまりを挟んだ反対側に盲目の老婆がいた。
というのも、目を瞑ったまま顔をこちらにむけて喋っていたからだ。シワの間から少し見えてるかもしれないが、みた感じではキッチリと閉じられている。
杖をついてはいるが、ゆっくりと、それでいてしっかりとした足取りは、一見、目が見えないとは感じさせない、堂々としたものだ。
そういえば、昨夜はパックの途中で変な感じになって……
気がついたらネコって、全くもって変な夢みたわ。
ヤッバーい、入社以来皆勤賞の私が、遅刻とか欠勤とかあり得ないから。とりあえず、会社に連絡して部屋に戻らなきゃ。
「すみません、私、迷子みたいなんです。近くのコンビニか最寄りの駅教えていただければありがたいのですが」
「コンビニってのも、もよ……何とかってのも知らないねえ、何かの道具かい?」
「あん? はい?」
思わず首を傾げた。今時の地方の老人はコンビニ利用率が高いって聞いてるけど、知らない人もいるのかな? でも駅すら知らないって……どんだけ山ン中だいっ。
ハッと思いついた。特別養護老人ホームか隔離病院ってこともアリだわ。もの忘れ老人だと一般常識通じない、というか忘れちゃってる可能性もあるからね。たぶんそこから抜け出した人に違いない。
「お婆さん、付き添いのお世話する方とかお家はどこ? 病院とかおっきな建物だよね? 連れてったげるよ?」
立ち上がってお婆さんの手を取ろうと……したのだが、また失敗した。しかも獣の手……
「なんでーーーーっ! 夢じゃないのーーーーっ!」
「だから言ったじゃないか、アタシの魔術だって」
軽快に笑うお婆さんをみて、射殺したくなるような目つきで睨みつつ叫んだ。
「犯人がアンタなら早く戻してっ! とにかく猫じゃ話しにもならんて。それからここどこよっ!」
「そんなにギャーギャー威嚇せんでもいいだろうに。ふむ、ずいぶん前にアイツにかけたはずの魔術がナゼかアンタにかかってるねぇ。ハッハッハ」
ひとしきり笑ったお婆さんは杖を私に向けてヒョイっと動かした。同時に私の体が空中に浮き上がった。もう一度杖が動いたかと思うと視界がグニャんと歪み、変な小屋っぽい家の前に移動していた。
うっひゃあ、これ魔法っすか?
瞬間移動とかってヤツっすよねえ、チョーすごいわ、私。何かの魔法とかかけてもらってるし。
ファンタジーじゃん……ってネコなってる段階で既にファンタジーだし。
周りをキョロキョロと見回すも、これといってオドロオドロしい気配はないようだ。
「そんなに人の家が珍しいかい、他の家とさほど変わらんよ?」
「それはわかったけど……ここはどこ? 魔法がある時点で既に現実離れしてることは理解したわ。でも夢にしてもあまりにリアルっぽくて」
お婆さんはククッと小さく笑い、私にお茶を出してくれた。カップに手をかけ……
断念した。掴めないじゃないのよっ、ネコなんだってば。
「ここはルシーン王国、月の加護を受けし者が暮らす国だよ。アタシはサランディア・ルー、魔女さ。こう見えても二十歳だよ」
はい? ルシーンなんて国、あったっけ?
頭をフル回転させて世界地図の要所を思い出していく。
いやちょっと待て。さっき魔法使ったよね。
てことはもはやここは私の知識の範疇にある世界地図には載ってない場所。すなわち……
「ゲーーーーっ! 夢の世界じゃーーんっ!」
「何だいさっきから。夢だ、とか夢じゃないとか。叫ぶのは止めとくれ、頭が痛くてしょうがない」
注意されて申し訳なさそうに頭を下げて、
「ごめんなさい、現実が受け入れられなくて。もう少ししたら、気持ちが追いついてくると思うんですけど」
「アンタ名前は? どっから来たんだい?」
サランディアさんの問いかけに、居住まいを正して自己紹介をする。
「私は月宮紗羅、二十四歳。日本という国から来ました。たぶん知らないと思いますけどね」
「確かに知らないねぇ、帰る場所を探すなら王都へ向かうしかなかろう。街で情報を集めてそこから帰ればいいさ」
「それだったら、早くこの黒ネコの魔法を解除して。人間に戻んなきゃ、探すも何もあったもんじゃない」
不満を全面に押し出して、サッサと戻してもらうようにお願いした。
「まあ、そう焦らんでも。アタシの魔術がアンタにかかっていることを先ず解明しないと。ネコから元の姿に戻すのはそれからだよ、何ごとにも準備は必要だ」
言われてみれば確かにそうだ。
『急いては事を仕損じる』
ことわざにもある通り、慌てても逆に時間がとられるばかりってこともあるし。
ネコのままだと会社にも行けないしね。今日の出勤は諦めるか……あー、参った、連絡つけられないってことは無断欠勤だよね。つまりクビの可能性大なんだけど……
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