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転移編
17の2.お断りよっ!
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コイツは私が断れないと知って、こんな提案をしているんだ。
最初に言っていたではないか。
私が屈辱に顔を歪ませて頭を下げる姿が見たい、と。
ホント嫌な性格してるんだから。
思い出したらなんか余計に頭下げたくなくなった。
「やっぱ、日本に返してもらうのは止める。有り難い申し出だけど遠慮しとく。だって、アンタと一緒の生活なんて考えられないわ。素直にお願いすることが、こんなに腹立たしいと思ったことはないよ。もうネコでいいからハルのとこ帰る」
今まで自信に溢れていた力強い眼差しが、一瞬フッと力をなくしたように感じた。
え? もう一度確かめようとしたら、視線を外され、さらに目を瞑ってしまったので、そこからの表情は窺うことができなくなってしまった。
「ハルムート・エクセル……お前を離さない男か、これも巡り合わせなのか。本当にお前は面白い。向こうに居づらくなったら私がお前を引き取ろう、待っているぞ」
再び目を開けた時は、また自信に溢れたような眼差しだった。
気のせいだったみたい。俺サマなコイツが揺らぐなんて有り得ない。
「んじゃあ、もう帰るわ。お騒がせしました、機会があればまたお会いしましょう」
スタスタと扉を開けて廊下に出た。
あーあ、意地張らないで頷けばよかったのかなぁ、と考えながら少し歩いたところで、ピタッと止まった。
「カッコつけて出て来ちゃったけど……出口ってどこよ?」
あー、私ってアホだー。
せめて出口まで送ってもらってからカッコつけるんだったー……
どうするよ、アイツの部屋に戻ってお願いするべきか。いや、あんな啖呵切ったんだもの、今さらすみませんでしたって言ったら絶対に下僕扱いされるに決まってる。
こうなりゃ意地でも自力で出口見つけちゃる。
フン、と鼻息荒く顔を上げると、目の前に灰色フードの男が膝をついて私に頭を下げていた。
この人、さっきもそうだったけど神出鬼没。
「えっと……コークスさん、でしたよね。私に何か?」
「はい、まずは元師団員の不敬にお詫びを。そして、長からあなた様を丁重にお送りしろとの命を申し遣っております」
「お詫びなんて、私も考えなしでこちらに突撃したようなモンでしたから。私の方こそお騒がせしました」
ペコリと頭を下げてコークスさんに謝った。
立ち上がってもらうようにお願いして、出口まで案内してもらうことにした。
アイツ……師団長と違ってコークスさんはずいぶんと気さくな人で、話しをしていても自然に笑顔になれるような雰囲気を出している。
ただの世間話しなのに、もっと話しをしたくなるような、そんな感じの人だった。
「コークスさんが師団長だったら良かったのに。そんなにあの人って強いの?」
「ええ、お強いですよ、師団長は。いろいろなものを捨ててきた結果の果てに得た強さだ、と言っておられました。私にはそのような度胸もありませんし、覚悟もありません。本当にすごい方です」
ふーん、あの人も結構な犠牲を払ってるんだね。あの自信満々な顔からは想像もつかないけど。
「本当のあの方はとてもお優しい方なのですよ。そして……とても寂しい想いを抱えている。あなた様も理解ると思いますよ、いづれ」
コークスさんは私の頭に手を当て、優しくポンポンと撫でてくれた。
「あなたは、あの方の内側に入られた三人目のお方だ。だから理解り合えると思うのです。私にはできなかった、あの方の心を解放してください、お願いします」
私の両手をギュッと握り、縋るような目で私に話しかけるコークスさん。その迫力に、たまらずコクコクと無言で頷き返す。
それを確認して安心してくれたのか、ニコッと笑って小さく「ありがとう」と礼を言われた。
別れ際、ネコの姿に戻してもらい、一目散に寮へと駆け込みハルのベッドに潜り込んだ。寮の入り口まで送ると言われたのだが、少し走りたい気分だったので遠慮した。
ハルの「おかえり」という言葉に、やはり帰る場所はここなのかもな、と頭の隅で考えつつゆったりと目を閉じた。
最初に言っていたではないか。
私が屈辱に顔を歪ませて頭を下げる姿が見たい、と。
ホント嫌な性格してるんだから。
思い出したらなんか余計に頭下げたくなくなった。
「やっぱ、日本に返してもらうのは止める。有り難い申し出だけど遠慮しとく。だって、アンタと一緒の生活なんて考えられないわ。素直にお願いすることが、こんなに腹立たしいと思ったことはないよ。もうネコでいいからハルのとこ帰る」
今まで自信に溢れていた力強い眼差しが、一瞬フッと力をなくしたように感じた。
え? もう一度確かめようとしたら、視線を外され、さらに目を瞑ってしまったので、そこからの表情は窺うことができなくなってしまった。
「ハルムート・エクセル……お前を離さない男か、これも巡り合わせなのか。本当にお前は面白い。向こうに居づらくなったら私がお前を引き取ろう、待っているぞ」
再び目を開けた時は、また自信に溢れたような眼差しだった。
気のせいだったみたい。俺サマなコイツが揺らぐなんて有り得ない。
「んじゃあ、もう帰るわ。お騒がせしました、機会があればまたお会いしましょう」
スタスタと扉を開けて廊下に出た。
あーあ、意地張らないで頷けばよかったのかなぁ、と考えながら少し歩いたところで、ピタッと止まった。
「カッコつけて出て来ちゃったけど……出口ってどこよ?」
あー、私ってアホだー。
せめて出口まで送ってもらってからカッコつけるんだったー……
どうするよ、アイツの部屋に戻ってお願いするべきか。いや、あんな啖呵切ったんだもの、今さらすみませんでしたって言ったら絶対に下僕扱いされるに決まってる。
こうなりゃ意地でも自力で出口見つけちゃる。
フン、と鼻息荒く顔を上げると、目の前に灰色フードの男が膝をついて私に頭を下げていた。
この人、さっきもそうだったけど神出鬼没。
「えっと……コークスさん、でしたよね。私に何か?」
「はい、まずは元師団員の不敬にお詫びを。そして、長からあなた様を丁重にお送りしろとの命を申し遣っております」
「お詫びなんて、私も考えなしでこちらに突撃したようなモンでしたから。私の方こそお騒がせしました」
ペコリと頭を下げてコークスさんに謝った。
立ち上がってもらうようにお願いして、出口まで案内してもらうことにした。
アイツ……師団長と違ってコークスさんはずいぶんと気さくな人で、話しをしていても自然に笑顔になれるような雰囲気を出している。
ただの世間話しなのに、もっと話しをしたくなるような、そんな感じの人だった。
「コークスさんが師団長だったら良かったのに。そんなにあの人って強いの?」
「ええ、お強いですよ、師団長は。いろいろなものを捨ててきた結果の果てに得た強さだ、と言っておられました。私にはそのような度胸もありませんし、覚悟もありません。本当にすごい方です」
ふーん、あの人も結構な犠牲を払ってるんだね。あの自信満々な顔からは想像もつかないけど。
「本当のあの方はとてもお優しい方なのですよ。そして……とても寂しい想いを抱えている。あなた様も理解ると思いますよ、いづれ」
コークスさんは私の頭に手を当て、優しくポンポンと撫でてくれた。
「あなたは、あの方の内側に入られた三人目のお方だ。だから理解り合えると思うのです。私にはできなかった、あの方の心を解放してください、お願いします」
私の両手をギュッと握り、縋るような目で私に話しかけるコークスさん。その迫力に、たまらずコクコクと無言で頷き返す。
それを確認して安心してくれたのか、ニコッと笑って小さく「ありがとう」と礼を言われた。
別れ際、ネコの姿に戻してもらい、一目散に寮へと駆け込みハルのベッドに潜り込んだ。寮の入り口まで送ると言われたのだが、少し走りたい気分だったので遠慮した。
ハルの「おかえり」という言葉に、やはり帰る場所はここなのかもな、と頭の隅で考えつつゆったりと目を閉じた。
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