孤塁の縁  第一章 ~出会い編~

上野たすく

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 縁曰く、今、孤がいる場所は、空に浮かぶ人工の浮島うきじまなのだそうだ。
 孤は縁に連れられ、小川の畔にいた。
 川は澄んでいて、砂底が見えている。
「ある人が生涯をかけて作り上げた技術なんだ」
 尾びれで川の流れに逆らっている魚は、命があるようだった。
「本物みたいですね」
「本物だからね」
 孤は驚愕した。
 他種属の生命を無闇に捉えるのは、法律違反だ。
 縁は孤の感情を察したようだった。
「ここにあるのは、数百年前の自然だ。管理されない美しさだよ。センサーや人工知能で動く生物博物館のキャストじゃない。動物も植物も、いつかは死を迎える」
「それでは滅びてしまいます」
「滅びないように、彼らは子孫を作る。世界はそうやって何億年も前から回ってきた。生命は本来、強いんだ。どう死のうかじゃない。どう生きようかを考えている」
 だから、と縁が両手で釣り竿を持ち上げる。
「僕らも生きるために、彼らを食べよう」
「培養肉があります。わざわざ命を取るのは」
 一部の嗜好家のために、動物を解体してきた記憶が甦る。
「横暴です」
 絞り出すように訴えた。
「ある人が言うんだ。生きるために食べることは、否定すべきじゃない。その人と孤の言い分を合わせると、きっと、命を粗末にすることが横暴なんだね」
 孤は下を向いた。
「では、縁だけが食べてください。俺の体はオイルパックしか受けつけません。俺の分まで捕るのは横暴に当たります」
「孤は食べられるよ。オイルを入れなくても、体が錆び付くこともない。管理者達は、君の食事代を値切りたかったんだ。機械は定期的に取り替える必要がある。消耗品なんだよ。オイルは増強剤みたいなもの。瀕死の部品を無理矢理、働かせるんだ」
 釣り竿を手渡される。
 縁は辺りを見回し、適当に掌ほどの石を持ち上げ、ミミズを摘まむと釣り針に刺した。
 孤は口を覆い、えずいた。
 縁は揶揄せず、無言で孤の釣り針にも餌をつけた。
 魚は結局、縁が二匹釣った。
 これまた、どこからか、バケツを取り出し、魚を入れる。
 代わりに、釣り竿がなくなっていた。
「調理は家で一緒にしよう。孤には、ここでの生活に、慣れてもらわないといけないからね」
 縁は料理の合間に、浮島のことを話してくれた。島の電気は自家発電でまかなわれているとか、川だけじゃなく、田畑もあるとか。
「猛獣はいないはずだけど、牛や馬は連れてきているし、ミツバチは植物が育つために放たれている。彼らは自分達を守るために襲ってくることがある。しばらくは、僕と二人で外へ行こう」
 縁と作った魚料理は命が体内に染みこんでいくようで、怖くて、それなのに美味しくて、その矛盾を醜いと恨んだ。縁は自分の前に並べた食事には手をつけず、孤が食べ終わるのを見守った。食事の片付けのあと、彼は丸々残った料理を持ち、孤に微笑んだ。
「一つ、約束して欲しいんだ。僕の部屋の奥には、たくさんの通路があってね。その内の一つが浮島の心臓部へ続いている。心臓部は高温で、人は数分と生存することができない。間違って下りてしまうといけないから、僕の部屋には近づかないで欲しいんだ」
「わかりました」
「僕は仕事があるから、部屋に行くね。なにか必要なものがあったら、孤の部屋にある電話で教えて。受話器をとったら、僕に直接繋がるようになっているから」
「俺の部屋……ですか?」
「うん。孤がここで初めて目を覚ました部屋が、そうだよ。行き方はわかる?」
「はい」
「部屋にあるものは、自由に使っていいからね」
「ありがとうございます」
 縁はにっこりし、皿を持ったまま、ドアの先へと入っていった。
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