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一心も佐藤も、エマの死に目に会えなかった。
実際には、一心も親である佐藤ですら、入院先の医師に口頭で伝えられただけで、エマの死に顔すら見てはいなかった。
娘に会わせてくれと縋る佐藤に、中年の男性医師はクローバー病の人間の遺体は、家族に戻せないのだ、と拒否した。そのような情報、どのメディアも流していない。
「遺体は私達で丁重に葬らせていただきます」
医師の言葉に、一心は驚愕し、佐藤は半笑いをした。
「なにを、なにを言っているんですか?」
問いかけ、咄嗟にエマのいる病室のドアを開けようとし、医師に拘束された。
医師とは思えない、俊敏で、無駄のない動きだった。
「娘に会わせてください! 俺には娘だけなんです。娘以外いないんです」
「これは国からの指示です。聞き分けてください」
医師がついっと顔を上げる。一心は男の視線の先を見て、目を見開けた。複数の警察官がこちらへ歩いてくる。彼らは佐藤と一心を、問答無用で病院の外へと追い出した。院内へ戻ろうとしても、警官達が出入り口で仁王立ちし、行く手を阻んだ。
一心は佐藤を宥め、家へ送ろうとしたが、一心を振り払おうとした佐藤の手が、顔面に当たり、口を閉じた。当たり所が悪く、鼻から出血したからだった。
佐藤の意識がエマから一心にそれる。鼻を片手で押さえ、もう一方で佐藤を引っ張った。佐藤は納得のいかないまま、病院に背を向け、歩きながら、涙をこぼした。
数日後、佐藤の手元には一通の手紙が届いた。差出人はエマが入院していた病院だった。
佐藤は顔を赤らめ、手紙をびりびりに破いた。
男が部屋を離れた隙に、一心は手紙をかき集め、自室で修復した。
そこにはエマの死亡診断書と火葬の際、エマの骨が脆く、すべて灰になってしまったため、佐藤へ返せないことが書かれてあった。
佐藤は荒れに荒れた。
仕事をせず、酒瓶を空にし、家はゴミだらけになった。
シフトが組まれないから、給料が振り込まれるはずもなかった。一心はただのアルバイターだ。仕事がないなら店を訪れる必要はない。
だが、エマの死によって、佐藤は給料をくれる雇い主から、エマの大切な人に変わっていた。
エマに母親がいないように、一心には父親がいない。似た環境であるのに、自分と母の関係とエマと佐藤の関係は、明らかに違っていた。
エマと佐藤はふたりで支え合って生きていた。
一心の家庭では、母だけががんばろうとする。
祖父が他界してからは、その傾向が増したように思う。
母は一心を、なんとしても大学へ行かせようと、自分には金をかけず、家と職場の往復をする毎日だ。
彼女は一心に気づかわれることを好まない。一心ができることは、自分のことは自分でするということと、母のぬくもりを求めないことだった。
これまでの日々を否定するつもりはない。ただ、エマのように、自分の望みを描き、行動できていたなら、母との関係は違っていたかもしれない。
佐藤とは血のつながりもない。他人である一心に気づかわれることは、母以上に嫌がるだろうと思ったし、実際、嫌がられた。
引き下がらなかったのは、何日も風呂に入っていないであろう男の悪臭と酒瓶で、目をしかめたくなるような部屋であるのに、エマの写真が飾られた仏壇には、必ず賞味期限内の供え物があったからだった。
実際には、一心も親である佐藤ですら、入院先の医師に口頭で伝えられただけで、エマの死に顔すら見てはいなかった。
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佐藤は顔を赤らめ、手紙をびりびりに破いた。
男が部屋を離れた隙に、一心は手紙をかき集め、自室で修復した。
そこにはエマの死亡診断書と火葬の際、エマの骨が脆く、すべて灰になってしまったため、佐藤へ返せないことが書かれてあった。
佐藤は荒れに荒れた。
仕事をせず、酒瓶を空にし、家はゴミだらけになった。
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