クローバー

上野たすく

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 フィギュアみたいに小さい富嶽が、電話ボックスを刀で斬り上げ、馬鹿でかいバケモノにぶつける。その光景を見ながら、一心は弱々しく「はい」と言った。
 電話ボックスが皮膚に当たり、バケモノが怯む。
 富嶽は急回転すると、バケモノの前足を高速で斬った。
 黄緑色の血液が吹き上がる。
 それは、開くことができなくなった左目が、最後に見た色だった。
 一心は夏目に向けて、「はい」と今度は力強く肯定した。
 強くあろうとしなければ、脳で再生される記憶に、叩きのめされそうだった。
 夏目がそんな一心の恐怖に気づいたかは、わからなかった。
 ただ、彼の屈託のない笑顔は、一心を勇気づけた。
「そか。なんか、君とは、朝波関係なく、話しをしてみたいわ。ええ?」
 首を上下する。
 夏目は照れたように笑い、「おおきに」と言いながら一心をおろした。
「富嶽はああ言うたけど、できる限り、君に刀は振るわせたくないんよ。ここで待っとってくれる? 本間は連れて行きたいんやけど、俺の力量不足で二人とも、あの世に行ってまう可能性があるよって」
 一心は刀の柄を握りしめ、眉間に力を込めた。
 刀を振るわせたくないと言ってくれた夏目に対し、そうしたのは、それでも、振るわなければいけないとき、振るう覚悟を見せたかったからだった。
「俺は平気です。富嶽さんのところへ行ってください」
 夏目は頷くと、一心の頭を撫でた。
「なにかあったら、イヤホンに触れて話してえな。F班の班員全員と通信できるで」
「はい」
 夏目は刀を抜くと、ツナギを刀身にかけた。空の瓶が足下に捨てられる。
 夏目がイヤホンに触れると、一心のイヤホンから彼の声が聞こえだした。
「富嶽、すまん。今から、行く」
 夏目が自分のイヤホンを指さす。
 一心は、夏目が富嶽に連絡を入れるとともに、通信機の使い方を実際にしてみせてくれたことに気づいて、小さく頭を下げた。
 夏目は頷き返すと、ビルから飛び降りた。
 一心はビルの端まで走った。
 バケモノは足を引きずりながらも、富嶽へと舌を伸ばし、迫っている。
 富嶽の動きがぎこちない。
 怪我でもしたのだろうか。
 夏目は一打で、バケモノを両断した。
 黄緑色の血液が縦に吹き出し、地面に大きなシミを作った。
 よろけた富嶽を夏目が支える。
 その様子を見て、一心はほっと息をついた。
 動くはずのない、黄土色の指が地面を引っ掻くまでは。
「逃げてください! イーバは、まだ、生きています!」
 一心の大声を受け、富嶽が夏目から離れた。
 二つの肉塊だったはずのものが、二匹の瓜二つのバケモノになって富嶽へ突進し、夏目に行く手を阻まれた。
 夏目の一打でバケモノは真っ二つになり、またしても、肉塊の数だけ個数を増やし、甦った。
 四匹のイーバは二回の攻撃により、警戒心を持ったのか、一直線に富嶽へ襲いかかるのではなく、彼らを取り囲んだ。
 イヤホンから夏目の溜息が聞こえた。
「一心、さっきはありがとうな」
 名前を呼ばれ、一心は胸の辺りが熱くなるのを知った。
「ちいとばかし、難があるよって、迎えに行くの、遅おなるわ」
 一人にされる時間が増すことに抵抗があったのか、イヤホンに触れた手が揺れていた。
「俺は大丈夫です。だから、イーバに集中してください」
 伝わるな、と思った。
 夏目にも、富嶽にも、自分の不安が届かないことを願った。
 気を張っていたからか、自分の名前を呼ぶ、夏目のやさしい声に、びくりと震えた。
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