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「一心、ちょっくら、二人から離れる。イーバが来よったら、これ、使って教えて」
夏目がイヤホンを指さす。
「はい」
青年は口角を上げると、刀で足下に半円を描いた。
「斑霧」
切っ先が通る線に合わせて、霧が構築されていく。
その霧は夏目を浮かし、空へと運んだ。
通信を終えた富嶽が、夏目を見上げた。
その瞳が憂いていた。
イヤホンから女性の声が聞こえてくる。
「指令班、三代です。全戦闘員に告げます。夏目班員の叢雲により、オニキス全域に雨を降らせ、イーバ抹消を試みます。オニキスにおけるイーバへの攻撃を、いったん、中止し、三つ葉の班員の保護に尽力してください」
三代の通信が途絶えたとき、空が曇り、雨が降り出した。
低い断末魔がそこら中から聞こえ、ところどころで、建物が崩れた。
イーバがもがき苦しんでいるのだ。
雨の勢いが弱まる。
明るさを感じ、目を向けると、遠いところの空が青くなったり、灰色になったりを繰り返していた。
富嶽が思い詰めた表情で、イヤホンに触れた。
「夏目さん、もういいでしょ? あとは朝波たちに任せましょう」
夏目からの返事はない。
徐々に、青空が曇天を浸食していく。
富嶽が舌打ちし、ツナギを刀に流した。
「お前も刀にツナギをつけろ。お前がイーバの標的になることはないが、巻き添えをくらうことはある。何かあったら、自分で自分の身を守れ」
富嶽は小瓶を捨てると、もう一つ、戦闘服から抜き、ブーツにかけた。
ツナギは刀身に使うものだ、と夏目が言っていた。
茶髪の青年は、夏目の意に反する行動をしているのだ。
事態は、そこまで逼迫しているのだろう。
一心は刀を抜き、ツナギをかけた。
富嶽は夏目のいる方角を確認し、助走をつけて、建物の端から踏み切った。
だが、距離も、高さも、足りない。
富嶽はそれを心得ていたのか、すぐさま、刀を振って太刀風を起こし、高さと距離を伸ばした。
何度も繰り出される太刀風に、建物は破壊され、地面が割れた。
雨の勢いが弱まっている。
富嶽を見守っていた視野に、突如、黄土色のものが通り過ぎ、一心は凍りついた。
皮膚が溶け、露わになった内臓や骨までもが形を崩しつつあるイーバが、富嶽めがけて建物を跳躍しているのだ。
富嶽はまだ気づいていない。
一心はイヤホンに触れながら、建物の端まで駆けた。
「富嶽さん! イーバが後ろから迫っています!」
振り返った富嶽のすぐ背後に、イーバの開いた大きな口があった。
富嶽は体勢が整わず、防御も攻撃もできない。
考えている暇などなかった。
夏目との賭けのとき、自分も太刀風を起こすことができた。
今だって、きっと、できるはずだ。
一心は刀を下から上へと振った。
だが、銀色の刃が空気を切っただけで、何も起こらない。
脳裏に浮かんだのは、疑問符ではなく、富嶽を助けられない絶望だった。
雨が強まっていく。
豪雨に打たれ、イーバの眼球が向き出しになった。
落ちる。
そうあってくれと願うも空しく、イーバのどす黒い舌が富嶽の足に巻き付いた。
食われる!
さっきまで、傍にいた人が!
さっきまで、生きていた人が!
こんなに簡単に?
プツリと一切の音が意味をもたなくなり、体の奥底から、怒りにも似た熱が噴き出た。
夏目がイヤホンを指さす。
「はい」
青年は口角を上げると、刀で足下に半円を描いた。
「斑霧」
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その瞳が憂いていた。
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ツナギは刀身に使うものだ、と夏目が言っていた。
茶髪の青年は、夏目の意に反する行動をしているのだ。
事態は、そこまで逼迫しているのだろう。
一心は刀を抜き、ツナギをかけた。
富嶽は夏目のいる方角を確認し、助走をつけて、建物の端から踏み切った。
だが、距離も、高さも、足りない。
富嶽はそれを心得ていたのか、すぐさま、刀を振って太刀風を起こし、高さと距離を伸ばした。
何度も繰り出される太刀風に、建物は破壊され、地面が割れた。
雨の勢いが弱まっている。
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富嶽はまだ気づいていない。
一心はイヤホンに触れながら、建物の端まで駆けた。
「富嶽さん! イーバが後ろから迫っています!」
振り返った富嶽のすぐ背後に、イーバの開いた大きな口があった。
富嶽は体勢が整わず、防御も攻撃もできない。
考えている暇などなかった。
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今だって、きっと、できるはずだ。
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雨が強まっていく。
豪雨に打たれ、イーバの眼球が向き出しになった。
落ちる。
そうあってくれと願うも空しく、イーバのどす黒い舌が富嶽の足に巻き付いた。
食われる!
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