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37(富嶽視点)
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富嶽は金森に握りしめられる、夏目の手を見つめていた。
重傷者が多く、夏目がいるのは、施設の救命室ではなく、富嶽との相部屋にあるベッドの上だ。
片付けても片付けても、夏目が散らかすから、部屋はぐちゃぐちゃだった。
いつもの風景に、いつもの姿ではない夏目がいて、気を抜いたなら、両目から弱い感情が溢れそうだった。
救護班の処置のおかげで、夏目は左腕を失うこともなく、血色もよくなっている。急変をしない限り、命に関わることはない、と診断された。
だが、富嶽は急変した場合のことが、どうしても頭から離れなかった。それは金森も同じようで、自分も傷を負っているのに、夏目の傍にいようとする。
金森を助けたのは夏目ではなく、オニキスから施設内に転送された戦闘班の内の一人だ。
運が良いことに、その一人がA班の班長、和堂周だった。
神器を所有していない男だが、ツナギの効力が高い武器を使うことができる。班長におさまる人間は、こぞって、この手の武器を扱える。神器に近い力を有する和堂だったからこそ、金森を守れたといっても過言ではない。
彼女の白くやわらかな肌が傷ついたのは、和堂が現れる前だろう。一般の戦闘服ではなく、黒装束に狐の面をした男とは、会話らしき会話をしたことがないが、そう思えるくらいには、彼の力を買っていた。
夏目は金森の無事を喜ぶだろう。
彼が目覚めたとき、俺はいない方が良いのかもしれない、と思う。
また、夏目と金森がお互いの無事を噛みしめるところを、見たくない気持ちもあった。
だけど、きと、自分は眼中から外れる。
いてもいなくとも、二人には関係ないのだ。
心が傷つくのは自分だけ。
わかっていても、夏目が目を覚ますまで、傍にいたい。
自分を庇ったせいで、夏目は瀕死の状態になった。
だから、せめて、夏目が意識を取り戻すまで、部外者であろうが、傍にいたい。
夏目と金森の空間に、いさせてもらっているだけで贅沢だと感じていた。
そして、もっと、奥深いところでは、自分も金森のように、夏目の手を握り、彼の身を案じたいと思った。
「富嶽君? 夏目君の様子はどうですか?」
耳につけた通信機から、三代の声が飛び込んできた。
富嶽は部屋の隅へ移動した。
「まだ、意識が戻りません」
「さっき、朝波君から連絡がありました。夏目君に会いたいと」
ネオ・シードで、朝波朔に会ったことを思い出す。
朝波が動いたのだから、一心は大丈夫だと判断した。
「そうですか。朝波は他に何か言っていましたか?」
「甦禰看さんを自室へ呼んで欲しいと」
朝波は一心と会うことができたのだろう。
その予想を確実なものにするため、富嶽は口を開いた。
「三代さん、位置情報でうちの班員を確認してもらえませんか? 苗字はわかりませんが、名前は一心です」
三代さんが戸惑う。
班員が二名しかいないF班に、新人が入った連絡がなかったからだろう。
夏目の思いつきなのだから、仕方がない。
「位置情報は朝波君の部屋にあります」
「そうですか」
富嶽はホッと息をついた。
「富嶽君」
「はい」
「今、人手が足りない状況です。あなたも救助作業にくわわってもらえませんか?」
三代からの要請に、夏目を見た。
自分は戦闘員であり、動けるのだから、当たり前だ。
今の今まで、夏目の傍にいさせてもらえたのが、不思議なくらいだ。
夏目から視線を逸らし、俯いた。
「わかりました」
「ありがとうございます。救助については、龍崎さんの指揮系統に入ってもらいます。場所は」
三代の指示を聞きながら、富嶽は龍崎を思い浮かべ、憂鬱になった。
実際には、龍崎ではなく、B班の班員に対してだったが。
三代との通信を切ると、金森が自分を見つめていた。
「出動命令が出ました」
金森が複雑な顔をする。
「夏目さんのこと、よろしくお願いします」
頭を下げ、富嶽は部屋を後にした。
施設はイーバの襲撃における爪痕がひどい。
ネオ・シードはこの比ではないだろう。
富嶽がネオ・シードの指示された場所へ着くと、B班の班員達の視線が集まった。
龍崎が班長をするB班は、粗野な男が多い。
「なんだ、晃。また、うちの三つ葉、やりに来たのか? やっぱ、あの変人の下じゃ、やってらんねえか」
色黒の男が瓦礫を運びながら、口角を上げる。
富嶽は冷めた眼差しを男に向けた。
「F班から加勢に来ました。何をすれば良いですか?」
色黒の男は、愉快そうに大口を開けて笑い、トラックの荷台に瓦礫を積んだ。
肩に分厚い手がのる。
「来てくれて助かる」
短髪で筋肉質な男は、大きな茶色の、虎徹という名の犬を連れていた。
B班の班長である龍崎辰巳だ。
「俺達の任務は瓦礫の処理と、火災の鎮火、そして、家屋の倒壊による、個人シェルターから出られない人々の救助だ」
龍崎から軍手を手渡される。
「救助すべき人がいれば呼ぶし、見つけたなら、教えてくれ」
重厚な物言いが懐かしかった。
わん、と虎徹が吠える。
「晃に会えて、お前も嬉しいか、虎徹」
龍崎が愛おしそうに、虎徹の頭を撫でた。
虎徹も気持ちよさそうに、龍崎の手に頭を擦りつける。
その様子を見つめていると、険しい表情の龍崎と目が合った。
「夏目は?」
「……まだ」
多くを伝えなくとも、龍崎は理解したようだった。
「そうか」
気を落とすなよ、と去り際に言い残し、男は虎徹を連れたって崩れた家屋へと歩いていった。
「晃! ボケッとしてねえで、早く、動け!」
三白眼の坊主頭に怒鳴られる。
富嶽は軍手をつけ、家だった物の一部を抱え上げた。
重傷者が多く、夏目がいるのは、施設の救命室ではなく、富嶽との相部屋にあるベッドの上だ。
片付けても片付けても、夏目が散らかすから、部屋はぐちゃぐちゃだった。
いつもの風景に、いつもの姿ではない夏目がいて、気を抜いたなら、両目から弱い感情が溢れそうだった。
救護班の処置のおかげで、夏目は左腕を失うこともなく、血色もよくなっている。急変をしない限り、命に関わることはない、と診断された。
だが、富嶽は急変した場合のことが、どうしても頭から離れなかった。それは金森も同じようで、自分も傷を負っているのに、夏目の傍にいようとする。
金森を助けたのは夏目ではなく、オニキスから施設内に転送された戦闘班の内の一人だ。
運が良いことに、その一人がA班の班長、和堂周だった。
神器を所有していない男だが、ツナギの効力が高い武器を使うことができる。班長におさまる人間は、こぞって、この手の武器を扱える。神器に近い力を有する和堂だったからこそ、金森を守れたといっても過言ではない。
彼女の白くやわらかな肌が傷ついたのは、和堂が現れる前だろう。一般の戦闘服ではなく、黒装束に狐の面をした男とは、会話らしき会話をしたことがないが、そう思えるくらいには、彼の力を買っていた。
夏目は金森の無事を喜ぶだろう。
彼が目覚めたとき、俺はいない方が良いのかもしれない、と思う。
また、夏目と金森がお互いの無事を噛みしめるところを、見たくない気持ちもあった。
だけど、きと、自分は眼中から外れる。
いてもいなくとも、二人には関係ないのだ。
心が傷つくのは自分だけ。
わかっていても、夏目が目を覚ますまで、傍にいたい。
自分を庇ったせいで、夏目は瀕死の状態になった。
だから、せめて、夏目が意識を取り戻すまで、部外者であろうが、傍にいたい。
夏目と金森の空間に、いさせてもらっているだけで贅沢だと感じていた。
そして、もっと、奥深いところでは、自分も金森のように、夏目の手を握り、彼の身を案じたいと思った。
「富嶽君? 夏目君の様子はどうですか?」
耳につけた通信機から、三代の声が飛び込んできた。
富嶽は部屋の隅へ移動した。
「まだ、意識が戻りません」
「さっき、朝波君から連絡がありました。夏目君に会いたいと」
ネオ・シードで、朝波朔に会ったことを思い出す。
朝波が動いたのだから、一心は大丈夫だと判断した。
「そうですか。朝波は他に何か言っていましたか?」
「甦禰看さんを自室へ呼んで欲しいと」
朝波は一心と会うことができたのだろう。
その予想を確実なものにするため、富嶽は口を開いた。
「三代さん、位置情報でうちの班員を確認してもらえませんか? 苗字はわかりませんが、名前は一心です」
三代さんが戸惑う。
班員が二名しかいないF班に、新人が入った連絡がなかったからだろう。
夏目の思いつきなのだから、仕方がない。
「位置情報は朝波君の部屋にあります」
「そうですか」
富嶽はホッと息をついた。
「富嶽君」
「はい」
「今、人手が足りない状況です。あなたも救助作業にくわわってもらえませんか?」
三代からの要請に、夏目を見た。
自分は戦闘員であり、動けるのだから、当たり前だ。
今の今まで、夏目の傍にいさせてもらえたのが、不思議なくらいだ。
夏目から視線を逸らし、俯いた。
「わかりました」
「ありがとうございます。救助については、龍崎さんの指揮系統に入ってもらいます。場所は」
三代の指示を聞きながら、富嶽は龍崎を思い浮かべ、憂鬱になった。
実際には、龍崎ではなく、B班の班員に対してだったが。
三代との通信を切ると、金森が自分を見つめていた。
「出動命令が出ました」
金森が複雑な顔をする。
「夏目さんのこと、よろしくお願いします」
頭を下げ、富嶽は部屋を後にした。
施設はイーバの襲撃における爪痕がひどい。
ネオ・シードはこの比ではないだろう。
富嶽がネオ・シードの指示された場所へ着くと、B班の班員達の視線が集まった。
龍崎が班長をするB班は、粗野な男が多い。
「なんだ、晃。また、うちの三つ葉、やりに来たのか? やっぱ、あの変人の下じゃ、やってらんねえか」
色黒の男が瓦礫を運びながら、口角を上げる。
富嶽は冷めた眼差しを男に向けた。
「F班から加勢に来ました。何をすれば良いですか?」
色黒の男は、愉快そうに大口を開けて笑い、トラックの荷台に瓦礫を積んだ。
肩に分厚い手がのる。
「来てくれて助かる」
短髪で筋肉質な男は、大きな茶色の、虎徹という名の犬を連れていた。
B班の班長である龍崎辰巳だ。
「俺達の任務は瓦礫の処理と、火災の鎮火、そして、家屋の倒壊による、個人シェルターから出られない人々の救助だ」
龍崎から軍手を手渡される。
「救助すべき人がいれば呼ぶし、見つけたなら、教えてくれ」
重厚な物言いが懐かしかった。
わん、と虎徹が吠える。
「晃に会えて、お前も嬉しいか、虎徹」
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虎徹も気持ちよさそうに、龍崎の手に頭を擦りつける。
その様子を見つめていると、険しい表情の龍崎と目が合った。
「夏目は?」
「……まだ」
多くを伝えなくとも、龍崎は理解したようだった。
「そうか」
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「晃! ボケッとしてねえで、早く、動け!」
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富嶽は軍手をつけ、家だった物の一部を抱え上げた。
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