クローバー

上野たすく

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40(大人向け)

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 夏目に舌を吸われると、痺れるような感覚が脊髄を走った。
 心臓が壊れるくらい速く鳴っている。
 富嶽はキスの時間が長くなるにつれ、主導権を夏目に譲った。
 夏目の膝にのると、顎や頬、首筋へ口づけられた。
 シャツをたくし上げられ、クローバー病の模様が覗く。
 黒い模様は腹部から胸部へと広がり、いくつもの三つ葉があった。
 胸の突起を唇で挟まれ、声が出そうで口を押さえた。
 舐められ、吸われて、頭に熱が上っていく。
「手え、どけてえな」
 首を振って、拒否した。
「なんで? 声、聞きたいんよ」
「かわいくないんで」
 口を押さえたまま応えると、笑われた。
「いっつも言わんようなこと、言いよるん、本間、かわいいんやけどな」
 息を吐き、おずおずと腕を下げた。
 夏目が顎をすくってくる。
「富嶽はかわいいって思われたいん?」
「夏目さんの恋愛対象が女だから……」
「そういうん意識したことなかったけど、富嶽が不安になるんやったら、仰山ぎょうさん、言わなな」
 夏目の吐息が唇をかすめる。
 口づけられ、とろりと眼差しが溶ける。
「かわいいよ」
 ちゅっと音を鳴らして、唇を吸われる。
 体のあちらこちらにキスをされ、何度も、かわいいと囁かれて、理性が解けそうだった。
「夏目さん」
 じれたように腰を動かし、固くなったものを、夏目の腹で刺激した。
「すごく、かわいい」
 舌を絡められる。
 トランクスの中に、夏目の手が滑り込んできた。
 先走りでぬめったものをしごかれ、涙が滲んだ。
「ひっ……。う。………っ!」
 射精しそうになり、痺れる体を耐え、夏目の動きを止めた。
「夏目さんと一緒がいいです」
「そか。じゃあ、触りあいっこしよか?」
 首を横に振った。
 富嶽は夏目の頭にキスをし、ルームシューズを履くと、自分のベッドと布団の間からコンドームとジェルをとった。
 夏目のベッドの上へあがり、二つを差し出す。
 開封されていないゴムと使いかけのジェルを受けとり、夏目はまじまじと見つめていたが、不意に眉根を寄せた。
「夏目さん?」
「すまん。なんか、富嶽が俺以外の誰かと、使っとたんや思たら、へんに悔しゅうて。どうにもならんことやのに」
 夏目の唇へ自分の唇を当てた。
「俺がどこにもいけないように、これから、たくさん、触れてもらえるってことですね?」
 夏目の額が肩にくる。
「好きやで」
 夏目の後頭部を支える。
「俺も、好きです」
「今度の会議で、叢雲のこと、話して、使うん制限させてもらう。俺が生きようとしたことで、助けられん人が出てくるかもしれへん。できることから逃げて、本間でええんやろか?」
「会議には俺も出席します。夏目さんがやらずに悔いるべきは、叢雲の使用ではなく、特殊武器の修得です。夏目さんが生きようとしたことを否定するような暴言には、耳を貸さないでください」
 小さく頷かれる。
「……つづき、してもいいですか?」
 夏目からコンドームとジェルを取り、ズボンとトランクスを一緒に脱ぎ、ジェルを後方に塗り、自分で解した。
 夏目がこちらの痴態を見て、彼自身を固くする。
 後方をいじりながら、夏目のものを咥えた。
 夏目が生唾を飲み込む。
 富嶽は口でゴムの封を破り、唇で挟み、夏目自身へとつけてから、体を起こした。
「今日は、俺が抱いてあげます」
 夏目に跨がり、自分の中へと熱いものを押し込める。
 久しぶりに体内を開かれ、痛みに頬がこわばった。
 呼吸をつめた夏目の首へと腕を回し、腰を上下した。
「気持ち……いい、ですか?」
 夏目が右手で頬を包んでくる。
 引き寄せられるように、キスをした。
 動きを速めると、夏目が固くなったものを擦ってきた。
「っ! ……手、離してください」
「一緒にいきたい言うたんは、じぶんやろ?」
 下から穿たれて、嬌声をあげた。
 自分の重みで奥に、夏目のものがくる。
 思いも寄らない箇所を擦られて、快楽で頭が真っ白になった。
「気持ちええ?」
 良すぎて、上手く応えられない。
 夏目自身が膨張し、ピストンが速まる。
 後方がその動きを、すべて感じたいと言わんばかりに、夏目のものを、きつく締めつけた。
 富嶽は夏目に抱きつき、喘いだ。
「すみません。いく。俺。もう。夏目さん。俺。もう、いくっ」
 夏目は片手で富嶽の腰を固定した。
「ええよ」
 耳元で囁かれて、ぞくりとしたところを、下から刺激され、富嶽はあられもない声をあげて射精した。
 間をあかず、体内にいる夏目の容量が、いっそう増し、熱が放たれ、喉が震えた。
 夏目が後頭部を撫でてくる。
 大きく鼓動する夏目の心臓と、荒れた息遣いが、たまらなく愛おしかった。
 富嶽にとって、世界は理不尽で溢れていた。
 生まれ落ちた環境。
 容姿。
 才能。
 運。
 それでも、世界は、各人が各人のできる範囲で幸せを見いだし、なんとか成り立ってきた。
 しかし、クローバー病が流行だして、人々は自国にはびこる、悪しきものに気づいた。
 自由を選択した国であるはずなのに、不可解な壁がある、と。
 それも、大きくて分厚く、古い壁だ。
 自分も夏目も、地下に追いやられた人は、すべて、末端の人間だ、と富嶽は思う。
 誰ともわからない権力者に、それとはわからない力で、命を使わされている。
 班員を束ねる指令班もまた、この国の誰かの下にあり、上にいる人間は、顔も名前も出さず、指示を与えているというわけだ。
 ただ、どろどろした闇にも、その力のおかげだと知らずに生きている、やさしい人たちがいて、だからこそ、長い年月をかけながら築いた壁は、やっかいなのだ。
 世界を変えることなど、自分にはできない。
 だから、自分を変えるのだ。
 夏目と幸せになりたい、と富嶽は思った。
 この理不尽な世界で、夏目は、富嶽が愛した、ただ一人の相手だからだ。
 性の後始末をし、お互いを清潔にしてから、富嶽は夏目のベッドで仮眠し、B班へ合流する支度を始めた。
 眠っている夏目を起こさないように、換気扇を回し、軽く朝食を採る。
 準備が整った格好で、夏目の額に口づけた。
「いってきます」
 昨夜、金森が握りしめていた夏目の手に、そっと触れる。
 そうすることに、迷いはなくなっていた。
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