クローバー

上野たすく

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56(大人向け)

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 頬に感触がきて、目を開けた。
 絢斗がゆるゆると頬を撫でてくる。
 その指をとり、キスをした。
「あんたの精子が欲しい」
 胸を上下させながら、絢斗が呟く。
「その話は終わっただろ?」
 絢斗が腰を揺すってきて、神薙は呻いた。
 躍起になって、繋がった部分を刺激する青年の腕を掴み、起こした。
 ズブズブと体の重みで、絢斗の後方が神薙の反り立ったものを飲み込んだ。
「あああ!」
 絢斗が弓なりになる。
 神薙は突き出された乳首を吸った。
 絢斗が自分に体を許すことは、二度とないかもしれない。
 そう思うと、芽吹き始めた愛情から、目を逸らすことがバカらしくなった。
 今だけでもいい。
 明け透けの心で、絢斗に触れたい。
 ピルを服用させれば、絢斗の未来に汚点を残すことはない。
 絢斗の目尻から涙がいくども零れ落ちる。
 その涙の意味を、神薙は軽んじた。
 数回、突き上げ、しがみついてきた絢斗の後頭部を撫でた。
「体勢がきつい?」
 絢斗が首を左右に振る。
 耳元で嗚咽が聞こえ、抱擁した。
「どうした?」
 絢斗が言葉を紡ぐが、小さくて聞き取れなかった。
「ん?」
「初めては、あんたがよかった」
 その言葉が、本当であったなら、どれだけ幸せだろう。
 神薙は吐息し、絢斗の背をさすった。
 絢斗が泣くのを我慢するから、抱きしめ、細い首に顔を寄せた。
 甘い香りがやさしく漂う。
 神薙は絢斗をベッドに寝かせ、ゆるく腰を上下させた。
「あ……。ん」
 絢斗が手の甲で両目を隠す。
 動きを速めると自分自身の堅さが増した。
「あ、やっ! やだ! 怖い!」
 痛む欲望で緩慢に、絢斗の中をこねた。
「何が、怖い?」
「こんなの、こんなの知らない……から。だから」
 愛しさに、笑みが漏れた。
「気持ち良くて、怖い?」
 何度も首を縦に振られる。
「大丈夫。僕も気持ちいい。おんなじだな」
 絢斗が顔から手をどけたことで、目が合った。
「僕も、誰とも、こんなセックスをしたことがない。野岸が初めてだよ」
 青年が唇を噛み、涙を押しとどめようとし、失敗した。
「俺も、初め、……初めて」
「おんなじだな」
 微笑み、口づけた。
 絢斗の腕が首へとくる。
 丁寧に口づけたあと、小刻みな振動を与えてみる。
 絢斗はうっとりした眼差しで、穏やかに喘いだ。
 続けられるなら、一晩中でも、繋がっていたかったが、やがて臨界点がきて、熱い体液を絢斗へと注ぎ込んだ。繋がりをなくそうとする神薙を、絢斗が両足で挟み込んだ。
「まだ、こうしてて」
 絢斗は唇を伸ばし、彼の腹部に触れた。
「あたたかい」
 絢斗は幸せそうだった。
「赤ちゃん、できるかな?」
 神薙は否定することを放棄した。
「どうだろうな」
 絢斗の甘い香りが薄れていく。
「できるといいな」
「そうだな」
 本音だった。
 繋がったまま、絢斗の隣に横たわり、上布団を彼の肩まで上げて、抱き寄せた。
 絢斗は心地よさげに笑い、神薙の胸を額でくすぐった。
 神薙は青年が眠りやすいよう、力を加減して背中をノックした。
 絢斗は疲れていたのだろう。さほど時間をかけずに、眠りに落ちた。
 神薙は慎重に繋がりをなくし、青年の後方から自分の吐き出した体液を処理して、彼の体を清潔にし、クローゼットから適当に出した服を着た。
 スマホで甦禰看に電話をかけながら、部屋を出る。甦禰看は月見里一心への対応を終え、自室にいるようだった。
 アフタ―ピルを処方して欲しいと頼むと、彼女は声を曇らせた。
「どういうことですか?」
 軽蔑されるのを承知で、神薙は事情を簡潔に説明した。
 甦禰看は薬品保管庫まで来るよう言った。
 神薙は早足で保管庫へ行き、私服で待っていてくれた甦禰看から薬をもらった。
「聞きたいこと、言いたいことが、山ほどあります。ですが、今は、一刻も早く、彼に薬を飲ませてあげてください」
 薬の服用方法を聞き、甦禰看に頭を下げ、絢斗の元へと急いだ。
 部屋へ戻ると、絢斗の寝息に迎えられた。
 神薙は冷蔵庫から水を出し、コップに移し替えて、絢斗の肩を指先で叩いた。
 絢斗がおぼろげに瞼を押し上げる。
「これを飲んでくれ」
 青年は上半身を起こすと、神薙の手に乗る薬を見つめた。
「なんの薬?」
 絢斗は、まだセックスの余韻を引きずっているのか、神薙への声音が穏やかだった。
 正直に言うべきだ、と思った。
 だが、避妊薬だと知れば、彼は取り乱すだろう。
 飲んでくれたなら、それで済む話だ。
 わざわざ、傷つける必要はない。
「栄養剤だ。疲れがとれるように」
「明日、飲む。おやすみ」
 絢斗が神薙に背を向け、眠ろうとするので、慌てて、腕を掴んだ。
「母胎が元気な方が、子どもができやすいんじゃないか?」
 言ってから、最低だと自己嫌悪に陥った。
 この言い方はずるい。
 神薙は俯き、薬を握りしめた。
 絢斗は起き上がり、神薙に微笑んだ。
「じゃあ、あんたが飲ませてよ」
 飲ませたくない。
 だけど、飲ませなければ、絢斗を不幸にする。
 震える指で薬を口に運び、水を含んだ。
 口づけると、絢斗は素直に薬を体内へと受け入れた。
 絢斗のためだ。
 その気持ちだけは嘘ではない。
「ありがとう」
「え?」
 聞き返した声が掠れていた。
 絢斗は眩しそうに神薙を見た。
 今すぐ、彼の口から薬を吐かせたい衝動にかられ、吹っ切るように流しへと歩いた。
 コップを置き、これでよかったんだ、と心で繰り返した。
 神薙が自己暗示をかけている間に、絢斗はまた眠りについたようだった。
 風呂を追い炊きし、湯に浸かった。
 そして、リビングへ行くと、ベッドには入らず、椅子に凭れて瞼を閉じた。
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