クローバー

上野たすく

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92 (一心視点)

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 夏目に手伝ってもらい、途中からは部屋に戻ってきた富嶽の手も借りて、一心は自分と朔の寝るまでの準備をすませた。自室へ帰るという二人に礼を言い、見送ってから、朔とベッドに寝転ぶ。
 瞼が重い。
 うとうとしていると、朔の頬が肩に触れた。
 睫が長い。
 本物の朔の睫も、そうだったろうか。
 目で見て、手で触れられる朔の睫が、下へとさがっていく。
 が、下がりきる手前で、ぐっと止まった。
「たくさんの人に会ったんだ。疲れただろ? 寝ていいよ」
 朔は神薙の作ったニャン太をギュッと抱きしめ、瞼を閉じた。
 一心はシーツを朔と新月にかけ、天井の灯りをおとそうとベッドをぬけた。
 そこで、セキュリティ装置が来客を知らせ、朔がビクリとし、泣き出した。
 一心が抱き上げると、朔は指の関節を吸って、頭を一心の肩に凭れさせた。
 セキュリティ装置の画面には、見知らぬ男女が三人映っていた。
 歳の若い少年がセキュリティ装置のレンズを覗き込んで、何か言っている。
 さ、く?
 朔の知り合いか?
 装置を操作する。
「はい」
「赤星です! 朔のお見舞いに来ました!」
 でかい声に、朔が唸る。
 朔をあやしていると、赤星と名乗った少年の頭を、鋭い目つきの青年が鷲づかみした。
「遊びじゃねえよなぁ? なにしに来たんだ、ここに。あぁ?」
 青筋をたてる青年に、赤星が敬礼する。
「朔のお見舞いです」
「わかってんなら、ちゃんとしろ」
「うっす!」
 壁を突き抜けるような大声に、青年が再び赤星の頭を手で締めつけた。
「いたっ! いてて。痛いって! 悪気はないんだって! 暴力反対!」
「意識しろつってんだよ。できねえのか? C班の班長さんよぉ」
 青年が声のボリュームをおさえながら言う。
 班長?
 こんなに幼い子どもが?
 躊躇っていると、画面にセミロングの女が映った。
「騒がせちゃってごめんなさい。朝波君のことを聞いて来ました。D班、班長、浮世絵です」
 甦禰看は班長が自分達の力になってくれると言った。
 一心はドアのセキュリティを解除した。
 三人は朔を見て、口を閉じた。
 青年が眉根を寄せ、赤星が瞳を潤ませ、浮世絵と名乗った女は唇を噛みしめる。
 朔は涙目で指を吸いながら、三人を見つめている。
「どうぞ、中へ入ってください」
 一心は三人を中へと促した。
「お邪魔します」と浮世絵が入ってきた。
 ついで、青年が無言で部屋へ来る。
 赤星だけが動こうとしなかった。
 少年は俯くと、ぼろぼろ涙を零した。
「ごめんなさい……」
 赤星の嗚咽が響く。
「近くにいたのに、話ならできたのに。朔が傷ついているの、知っていたのに。ごめんなさい」
 浮世絵が動こうとし、それより早く、青年が赤星の頭に手をのせた。
「一人で背負い込むな。近くにいたのは、お前だけじゃねえ」
 青年が赤星を部屋へと誘う。
 一心の傍で、そんな二人を見ながら、浮世絵が口を開いた。
「甦禰看さんがね。朝波君の記憶障害は心の問題からだって言ったの」
 朔は地下で虐げられてばかりいたのだと思っていた。
 けど、それだけじゃなかったんだ。
 一心は唇を伸ばした。
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