クローバー

上野たすく

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 パネルを操作し、時間を確認する。
 午前十一時十九分。
 訓練後一時間半以内に食事を採りたい。
 上着のポケットからイヤホン型通信機を出して耳につけ、指で二回叩いて指令班に繋げた。
「指令班宇田川です」
「F班富嶽です。神薙さんに連絡を取りたいのですが」
「国際宇宙犯罪特別組織所属の神薙渉さんですね?」
「はい」
「指令班には情報がありませんので、三代班長を通しての連絡になります。よろしいですか?」
「はい」
「では、用件をどうぞ」
 野岸の名前を出そうとし、考え直す。
「俺が担当している班員志願者の昼食の都合がついているのかの確認と、都合がついているなら、できれば、正午には食べられるよう準備して欲しいと、伝えてもらえますか?」
「承りました」
 通話を切り、トレーニングメニューの構成に戻る。
 低酸素状態での訓練は短時間で終わらせたい。
 富嶽は地面を平らにし、木刀と一メートル八十センチの紐を、それぞれ三本ずつ足下に出した。
「休憩は終わりだ。集合しろ」
 一心と野岸は走ろうとし、すぐに歩きへと手段を変えた。足が笑ったのだろう。
 富嶽は二人が到着するなり、木刀と紐を一セットずつ取るよう言った。
「受けとったら、紐を木刀の先に括りつけろ」
 手本を見せながら、説明をする。
 一心は器用に紐を木刀に結びつけ、野岸は戸惑った。一心の結び目を覗き、悪戦苦闘する。一心が動くより先に、富嶽はしゃがんで、ゆっくりと説明しながら、野岸の木刀に紐をきつく結びつけた。
「ありがとうございます」
 野岸が笑顔を向けてくる。
 富嶽は頷いて応えた。
「木刀は上から掴む。握る場所は、右手が上、左手が下だ。足は右が前、左足は後ろへ下げる」
 一心は慣れたように構え、野岸は緊張しているようだった。
 三本の木刀の先から紐が地面へと垂れる。
「刀は左手で振るう。右手は位置を変えるために使う」
 富嶽は構えたまま、横を向いた。
「今日は左手で素振りをしてもらう」
 木刀から右手を外す。
「木刀を背中まで振りかぶり、紐が円を描くように振り下ろす」
 木刀と紐が空を切る音が響く。紐が地面を打った。
「足は、木刀を振りかぶったとき、地面を擦るように右足を前に出して、木刀を振りおろすときに、左足を構えた位置まで戻す。左足は擦らなくていい。今から、さっき走ったコースで素振りをしながら、前へ進んでもらう。折り返したあとも、行きと同じように、前へ進む。今日はこれが実技トレーニングの最後だ。位置につけ」
 タイマーを十分にセットする。
 耳の通信機から女の声がした。三代だ。
「指令班三代です。訓練は順調ですか?」
「今は、始まったばかりだとしか答えられません」
「ふふ。あなたらしい解答ですね」
 俺らしい……。
 三代は、富嶽を何らかのカテゴライズに当てはめているようだった。
「神薙さんから伝言です。昼食は自分が正午に届ける、と」
「わかりました。ありがとうございます」
「では、あなたの働きに期待していますね」
 富嶽が返事をするのを待たずに、三代は通話を切った。
 富嶽は一心達の様子を目で追いながら、通信機に触れた。
「夏目さん。聞こえますか?」
 夏目の、ほっと息をつく音が、通信機から伝わってくる。
「正午に昼の休憩に入ります。出られますか?」
「あかん。資料、多過ぎや。昼、食えへんかもしれん」
 金森は無理をさせないと約束をしてくれた。
 となれば。
 富嶽は会議中の夏目を記憶から引っ張り出した。
 夏目は金森に罪悪感を抱いていたはずだ。 
 率先して仕事をしようとする夏目が思い浮かび、瞼を閉じて俯いた。
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