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「金森さんはそこにいますか?」
「おるよ」
「替わってください」
「いらんこと、言う気やろ?」
「いらんことって、何ですか?」
相手は押し黙ってから、おずおずと口を開いた。
「余計なことっつう意味や」
富嶽はわざと聞こえるように息を吐いた。
「言いませんよ。夏目さんが金森さんを大切にしていることは知っています」
「……」
「金森さんにも、それとなく、休憩に入ってもらうよう促しますんで」
「わかった。金森、富嶽から」
不承不承といった感じだが、夏目は通信機を金森へ渡してくれたようだった。
「もしもし。金森です」
「すみません。忙しい時に」
「ううん。お昼休みの件だよね? 大丈夫。夏目には、ちゃんと取らせるから」
その言い方に、彼女自身が休憩を適当に終わらせる可能性をみた。
なるほど。金森の担当する仕事量が予想を遥かに超えるものだったから、夏目は昼食を抜いてでも、カバーしたいと思ったのか。
「ありがとうございます。金森さんも、できれば、同じ時間に休憩を取れませんか?」
「私は仕事の合間に取るから大丈夫」
彼女は明るくて、真面目で頑張り屋さんだ。
「夏目さんが金森さんのことを心配しています」
「それはありがたいけど」
まごつく彼女の背後に、書類の束を想像した。
「金森さんの仕事は、部屋へ持ち帰ってもできますか?」
「え? うん。できないことはないかな」
「俺もあなたの仕事に参加させてもらえませんか?」
「富嶽君、三代さんから仕事を依頼されていたじゃない」
「部屋でできる仕事であれば、問題ありません」
「……ごめん。迷惑かけてるよね。私の仕事なのに」
相手は暗い声を出した。
彼女は、いわば、恋敵だ。
だけど、この女性の良いところを、自分はたくさんあげることができる。
苦しんでいるのを放っておけるほど、浅い関係ではない。
「金森さんの仕事じゃなく、組織の仕事です」
「え……」
「事務方じゃないので、頼りないかもしれませんが、今後、仕事の分担をもっとしやすくするためにも、よろしくお願いします」
「ありがとう。私も、しっかり休ませてもらうね」
金森と昼食休憩の時間を決め、通話を切った。
ふと、前に意識を向けると、一心と野岸がこちらを見つめていた。
「悪い。待たせた」
「いえ」と二人は声を揃えた。
野岸だけでなく、一心の顔までも緩んでいる。
時間を通話にかけ過ぎてしまったことで、集中の糸を切らせてしまったか。
反省した。
なんとか、彼らの気持ちを再度、高められないか。
その思いから、富嶽はあることを思いついた。
木刀から紐を外していく。
「一つ、聞いてもいいか?」
パネルを操作して、大木を自分の横に構成させた。
「木刀でこの木を斬れると思うか?」
一心が構えを解き、目を見開ける。
野岸は構えたまま、「思いません」と答えた。
「一心は?」
相手は苦い表情をした。
「真剣じゃないので、無理です」
富嶽は息をつき、木刀を脇に構えた。
神経を集中させ、大木の斬るべき箇所を探す。
見定まった瞬間、左足で地面を蹴り、木刀を下から上へと押し上げた。大木の幹が、速度と木刀が当たった角度で削れる。衝撃が響く手ごたえを得てから、富嶽は木刀を素早く振り切った。
幹が切断面を滑り、後ろへと倒れる。
気を緩め、呆気に囚われる二人に向き直った。
「真剣じゃないが、斬れたな」
「おるよ」
「替わってください」
「いらんこと、言う気やろ?」
「いらんことって、何ですか?」
相手は押し黙ってから、おずおずと口を開いた。
「余計なことっつう意味や」
富嶽はわざと聞こえるように息を吐いた。
「言いませんよ。夏目さんが金森さんを大切にしていることは知っています」
「……」
「金森さんにも、それとなく、休憩に入ってもらうよう促しますんで」
「わかった。金森、富嶽から」
不承不承といった感じだが、夏目は通信機を金森へ渡してくれたようだった。
「もしもし。金森です」
「すみません。忙しい時に」
「ううん。お昼休みの件だよね? 大丈夫。夏目には、ちゃんと取らせるから」
その言い方に、彼女自身が休憩を適当に終わらせる可能性をみた。
なるほど。金森の担当する仕事量が予想を遥かに超えるものだったから、夏目は昼食を抜いてでも、カバーしたいと思ったのか。
「ありがとうございます。金森さんも、できれば、同じ時間に休憩を取れませんか?」
「私は仕事の合間に取るから大丈夫」
彼女は明るくて、真面目で頑張り屋さんだ。
「夏目さんが金森さんのことを心配しています」
「それはありがたいけど」
まごつく彼女の背後に、書類の束を想像した。
「金森さんの仕事は、部屋へ持ち帰ってもできますか?」
「え? うん。できないことはないかな」
「俺もあなたの仕事に参加させてもらえませんか?」
「富嶽君、三代さんから仕事を依頼されていたじゃない」
「部屋でできる仕事であれば、問題ありません」
「……ごめん。迷惑かけてるよね。私の仕事なのに」
相手は暗い声を出した。
彼女は、いわば、恋敵だ。
だけど、この女性の良いところを、自分はたくさんあげることができる。
苦しんでいるのを放っておけるほど、浅い関係ではない。
「金森さんの仕事じゃなく、組織の仕事です」
「え……」
「事務方じゃないので、頼りないかもしれませんが、今後、仕事の分担をもっとしやすくするためにも、よろしくお願いします」
「ありがとう。私も、しっかり休ませてもらうね」
金森と昼食休憩の時間を決め、通話を切った。
ふと、前に意識を向けると、一心と野岸がこちらを見つめていた。
「悪い。待たせた」
「いえ」と二人は声を揃えた。
野岸だけでなく、一心の顔までも緩んでいる。
時間を通話にかけ過ぎてしまったことで、集中の糸を切らせてしまったか。
反省した。
なんとか、彼らの気持ちを再度、高められないか。
その思いから、富嶽はあることを思いついた。
木刀から紐を外していく。
「一つ、聞いてもいいか?」
パネルを操作して、大木を自分の横に構成させた。
「木刀でこの木を斬れると思うか?」
一心が構えを解き、目を見開ける。
野岸は構えたまま、「思いません」と答えた。
「一心は?」
相手は苦い表情をした。
「真剣じゃないので、無理です」
富嶽は息をつき、木刀を脇に構えた。
神経を集中させ、大木の斬るべき箇所を探す。
見定まった瞬間、左足で地面を蹴り、木刀を下から上へと押し上げた。大木の幹が、速度と木刀が当たった角度で削れる。衝撃が響く手ごたえを得てから、富嶽は木刀を素早く振り切った。
幹が切断面を滑り、後ろへと倒れる。
気を緩め、呆気に囚われる二人に向き直った。
「真剣じゃないが、斬れたな」
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