父の男

上野たすく

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誰かが誰かを愛している ~蛍視点~

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 気づかなきゃよかった、と思う。
 気づかなきゃ、現状を維持できたのに。
 そう思う。
 昼休み、今日の弁当はおにぎり一個。
 入院中の昭弘は病院食。
 美人の看護師にお世話をされていることだろう。
 今夜のカラオケは辞退決定だ。
「おう、よく会うな」
 蛍を構うのは、いつぞやの不良達。
 赤城が居心地悪そうに俯いている。
 買い直したのか、眼鏡をつけていた。
 天気は晴天。
 屋上はパラダイス。
 にやつきながら煙草をふかす連中を無視し、蛍はおにぎりを食べる。
 蹴られたら蹴られたでいい。
「渋谷、握り飯一個かよ。ダッセ」
 が、今日は蹴りではなく、言葉と威圧のサンドバックをご要望だ。
 連中が蛍を交えて一つの円を作る。
 蛍は目だけで左右を確認し、混乱をしたが、連中は煙草を吸っているだけで害はなく、蛍は蛍で名前も存じ上げない人間に魂をすり減らす余裕もなく、だけど、このとき、もっと気を回せばよかった。

                      * * *

 渋谷、と担任の男が椅子に座って厳しい目つきで見上げてくる。
 放課後の職員室には事務作業をする教師と幾人かの生徒がいた。
 その内、中野だけが蛍と担任の異様な雰囲気に首を傾げている。
「見たっていう人がいるんだ」
 担任の机にはビニール袋に入った六つの吸殻が、これ見よがしに置いてある。
「俺じゃ、ありません」
「吸った奴はみんな、そう言うんだ」
 容疑者は犯罪者と同義か。
「俺じゃありません」
「渋谷、正直に言えば、僕だってなんとかしてやれるんだぞ」
「俺じゃ、ありません」
 三十半ばくらいであろう彼は前髪をかき上げ、溜息を漏らした。
「確かに、君以外にも、あそこを出入りする生徒はいる。僕も、知っている限りの生徒に話を聞いたが、今日は行っていないと言うんだ」
「……そういうことですか」
 あの不良連中に、まんまとめられたってわけか。
「先生は俺以外の生徒の話は信用するんですね」
 担任は顎を引いた。
「僕だって君を信用したい。だけど、どうしてもね」
 蛍は正面のかけ時計を見た。
 午後五時。
 昭弘との面会時間終了まで、後二時間。
「どうしても、なんですか?」
 担任は指を組み、それで顎を支えた。
「君を育ててくれている人、病院にいるね」
 ざわっと胸が騒ぐ。
「連絡させてもらったんだ、桜井さんの職場に。そうしたら、入院しているって言うから」
 ざわざわと、音が大きくなっていく。
「病院へ電話をした。彼、精神科の病棟にいるね。君が、煙草を吸った可能性があることを伝えた。謝罪されたよ、何度も」
 蛍は拳を握りしめた。
 鼓動が速くなっていく。
「君の家庭環境が悪いことは、君の中学時代の担任から聞いている。人は周りに影響をされる。桜井さんがどんな風に君を扱ってきたのか、それはわからない。だが、血も繋がっていない君を、彼が傍に置いておきたい理由って、なんだろうな?」

 
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