その勇者、魔王の親友なりて

上野たすく

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魔王、勇者との因縁を憂う

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 昔の僕の喉は高等な魔族が扱う言語を発することすらできなかった。
 水属性の魔物がそこかしこで唸り声をあげている。
 過去の自分が重なり、目を伏せた。

「人間界は今、何時くらいだろう?」

 モナティが窓から外に目をやる。

「どうでしょう? こことあちらとでは時間の進み具合が違いますから、はっきりとは……。ただ、ガーゴイル達が城を横切っていきますので、夕刻あたりかと」
「そう。ありがとう」

 微笑み、暗雲が立ちこめる空を見つめた。



 闇夜の中、苦しむシオウの隣に寝そべりながら、僕は幼き日の出来事を思い出していた。
 シオウと初めて会った日、人間界の言葉を猛勉強した日々、そして、再会。

「んん……」

 シオウが唸る。
 汗がひどい。

「水をとってくる」

 体を起こそうとし、袖を掴まれた。
 シオウがうっすらと目を開ける。

「シオウ?」
「行かなくて、いい」
「すぐ戻ってくるから。このままじゃ、脱水症になる」
「ハル!」

 びくりとした。
 体が苦しいと心も弱くなる。
 生き物は皆、そうだ。

「わかった」

 ほっとしたシオウを抱き上げる。

「一緒に行けば、問題ない」

 頭上で星と月が輝いている。
 澄んだ空気。
 人里から離れているのだろう、ここへは人の苦痛や悲しみ、絶望が漂ってこない。
 魔界とは違い、人間界で体を保つには、人から生気を直接食らうか、負の感情を吸収するしかない。
 食物で得られるのは味覚への刺激と言ったところだ。
 シオウとは逆に、彼の生気をもらい、僕の細胞どもは歓喜していた。
 魔族と人間。
 共に生きることの難しさを、身をもって感じる。
 砂利を歩き、川辺で膝をついた。
 水を浮かび上がらせ、シオウの口元へつける。
 素直に喉を鳴らす姿に唾を飲み込んだ。
 初めて会った時より、シオウはずっと大人っぽくなった。
 僕が触れたことで、肌がほんのり赤く染まったことを思い出し、腹のど真ん中が熱くなる。
 この体は快楽を感じられるんだ。
 もっと言えば、人間としての生殖の準備が整っているということ。
 シオウが望むなら、彼が彼の愛する女と子どもを作ってもいい。
 僕は傍にいられたら、それでいい。
 僕がシオウと共にあることで、魔王城の仲間達は安心してくれる。
 彼に与えた腹部の魔も、僕がいれば外へは出てこられない。
 傷つけられてもいないのに胸が痛む。
 不思議に思い、目を向けるとシオウが気づき、見つめてきた。
 水を口元からどかす。

「ん?」

 自分の中の戸惑いを誤魔化すように唇を伸ばした。

「ごめん」
「え? どうしたの? 突然?」
「蹴り飛ばしたから。痛むんだろ?」

 鬼に対応しなかった罰がくだった時のことか。

「いやいや、大丈夫だから。あれくらいじゃ、ライフ、減らないから」

 チッと舌打ちされる。
 自尊心にナイフを突き立ててしまったか?

「だって、シオウ、手加減してくれたろ?」

 視線を外された。

「水は? もういい?」

 返事も相づちもない。

「戻ろっか?」

 から笑いして立ち上がる。

「よかった」

 ぼそりと言われる。

「ん?」
「魔王がハルで……よかった」

 予想だにしない言葉に、口が僅かだが勝手に開いた。

「俺じゃ、お前に勝てなかったかも、しれない。この世界のためにも、お前が魔王で」

 木々が葉を揺らし、月が雲に隠れる。
 口だけで笑みを作った。

「じゃ、僕はがんばって魔王で居続けなきゃね」

 シオウが目を伏せ、笑む。
 火のあるところでシオウを抱えたまま胡座をかいだ。

「寝て。体力を回復しなきゃ」

 シオウの額が胸にくる。
 従順。

 僕はね、シオウ。
 君が勇者じゃなければよかったって、心の底から思うよ。
 逆だね、僕達。
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