泡影の異世界勇者《アウトサイダー》

吉銅ガト

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第1章 はじめての異世界

1話 はじめての異世界召喚

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 どこまでも続く何もない真っ白い空間。

 そこに突如、一人の少年が投げ込まれる。

「いてて……ってここどこ……?」
 したたかに打ちつけた腰をさすりながら俺、もとい上木壮真はゆっくりと起き上がった。ぐるりとあたりを見回してみるも、ただ白い地面だけが広がっているだけだ。
 さっきまで俺は、よく晴れた日曜日にも関わらず、自室のベッドの上でだらだらとスマホをいじっていたはずだ。それなのに今いるのは見知らぬ白い空間。となればこれは……。
「うん。寝落ちして見ている夢だな、これは」
明晰夢というやつなのだろうか。しかし夢の中なのに、俺の意識はやけにはっきりしているし、なんなら地面を踏みしめる感覚や、着ている服の感触でさえも現実のようにリアルだ。

 とりあえずは目が覚めるまで待つしかここを出る方法はなさそうだ。
 そういえば、ここが夢の中ならば、想像したものを目の前に召喚することも容易いのではないだろうか。
 試しに俺は頭の中にドラゴンをイメージしながら目の前に現れろと強く念じてみる。掛け声のおまけ付きで。
「なんか強そうなドラゴン召喚!」
 ………、応答なし。俺の心に燃え上がっていた子供心がみるみるしぼんでゆく。くそ……俺の心はこんなにもロマンを失ってしまっていたのか……。
 召喚士の才能がなかったことに落ち込む俺に、突如鈴を鳴らしたような静かな声がかけられた。
「何してるんですか……?」
 振り返った俺の視界に飛び込んできたのは、(もちろん強そうなドラゴンなんかではなかったが)この白い空間をそのまま切り取ったかのような真っ白い少女の呆れ顔だった。

「というわけで自己紹介させていただきます。私の名前はメトシス。あなたがたの世界の裏側にある世界の管理者、つまりは神です!」
 純白の少女はどうだ、とばかりに手を広げて宣言する。威厳もくそもないので可愛いだけだが。というかめちゃくちゃ可愛い。絹のような白い髪とおそろいの白い肌。そしてそんな整った小さな顔に鎮座するは、見る者を釘付けにする宝石のような深い深い青の瞳。白い世界の中で唯一その存在を主張するかの如き青い目はその少女をいっそう幻想的なものにしていた。
 神と名乗る少女メトシスは胡散臭そうな目で俺を見ながら続ける。
「ここは私の心象領域なので、あなたは好きに何かを呼び出したりはできませんから。……全く、”なんか強そうなドラゴン”なんて、子供ですか?」
 メトシスの辛辣な言葉にうぐっと胸を抑えながら、とりあえずは質問をしてみる。
「えっと、なんで俺はここに呼ばれたんですか?」
 すると、純白の女神(?)は思いもよらぬ言葉を返してきた。
「今回あなたがここに呼ばれたのは、ズバリ! 私の管理する世界を救ってもらうためです!」

「世界を救うって、本気で言ってます? それなら警察とかそういう所定の機関に頼った方がいいと思いますよ、少なくとも俺なんかよりは」
 言ってて悲しくなるが紛れもない事実だろう。恐らく一般ピーポーよりも貧弱な現役もやし高校生である俺にそんな大役を任せるのは、正直頭の心配をするレベルの奇行だ。
「あなたは、私の管理する世界の問題を解決するための資質を備え、かつ世界への干渉による歪みができるだけ小さい者の中から乱数的に選び出されたんです。神である私が選出したんですから問題はないです!」
 ふふんと得意げになりながらメトシスは答える。……なんというか、すごく強引な論述展開だ。励まされているんだがなんだがよくわからないが、どうやら俺は、他称”選ばれし勇者”らしい。
 というか、彼女が神というのも実際そのまま信じてしまっていいのだろうか。メトシスが神であるという証拠がない以上、これがまだ俺の夢であるという線も捨てきれない。夢の中だったら証明しても意味がないだろうが。
 俺の疑りを目ざとく察知したのか、メトシスは頬を膨らませる。
「なんですか? 私が神であることを疑ってるんですか?いいんですよ、危険な魔法とモンスターだらけのこっちの世界に裸一貫で放り出しても」
「あ、いや、すみませんすみません信じますから!」
 平謝りする俺の頭に先程のメトシスの言葉が引っかかる。……ん? 危険? モンスター?
 嫌な予感という言葉が特大フォントで頭にデカデカと浮かぶのを感じながら、俺は恐る恐るメトシスに尋ねる。
「もしかして俺は、そんな危険そうな世界に問答無用で世界救いに飛ばされようとされてます…?」
「察しが良くて助かります」
 大正解!と言わんばかりにニッコリと笑う女神さま。……うん、ブラック企業だここ。
「というか仮に世界を救ったとして、俺はもとの世界に帰れるんですか?」
 俺の懸念に対してメトシスは頷き答えた。
「もちろん、私が世界に秩序が戻ったと判断すれば速やかにあなたをもとの世界に帰還させますのでご心配なく。もっとも、任務が完了するまでは帰れませんけどね」
 うん、ブラック企業。

「まあ、褒美も何もなしで来ていただくのは流石にかわいそうですし、世界を救うにあたってあなたを手助けするものを一つ差し上げます。何か望みは?」
 慈悲深い行動であるかのように言ってるが、その実態はとんだボッタクリだ。そんな命がけの世界に行かされるのならば、おとぎ話の勇者様のようにチートじみた能力をたくさん授かってもよいのではないか。
「じゃあ、最強の身体能力と最強の魔力と最強の武器と最強の防具ください」
 俺の至極真っ当な要求に、またもやメトシスは呆れた顔を作る。
「あなたバカなんですか? そもそも一つって言いましたよね? しかも最強って……、私をなにかご都合主義的なものとして見てませんか? 神が率先して世界の秩序を乱しにいける訳ないじゃないですか」
 なんてケチな女神なんだ……。まあ確かに、ご都合展開的に話が進むだろうとは思ってなかったのかと言われれば嘘になる。だが、命一つ賭けなければならないのに、当の本人がこの待遇なのはひどすぎないだろうか。
「まあ、バランスの関係上一つしか差し上げることはできませんが、神である私が作ったものなので、秩序を乱さない範囲のものでも性能は折り紙つきですよ。これは差し上げられませんけれど例えば……」
 そう言ってメトシスは不意に真っ白い地面に手を置くとそのままずずっと沈み込ませていく。呆気に取られて見守る俺をよそに、彼女は荘厳な装飾が施された一振りの大剣を掴み出した。そして重さを感じさせない動きでまっすぐ上に右手だけで掲げると、一瞬の間の後、肉厚の研ぎ上げられた刃は凄まじい速度で何もない空間に振り下ろされる。その直後、剣が凪いだ方向に目も開けられていられないほどの閃光が煌めき、遅れて台風のような風切り音と、ガキンッ!という剣尖が地面に衝突した轟音が響き渡った。
 こともなげにとんでもないことをやってのけたメトシスはこちらを振り返り勝ち誇ったかのような笑みを浮かべる。
「これは私が生み出した神器の一つ、”何でも切り裂いちゃうよ君”です。見ていただいた通り、これには重量軽減と切れ味補正、そして光線射出の加護を付与しているんです、ってわかりませんよね。まあ、要するに強いんです」
 後半の説明は訳がわからなかったが、この”何でも切り裂いちゃうよ君クソダサい名前の大剣”が尋常ではないものであること、そしてそれを生み出したメトシスもまた尋常ではない存在だということははっきりとわかった。
「というわけで、一つしか差し上げることはできませんがご心配なさらず」
 そんなメトシスの言葉と詐欺師のように見える笑顔に、俺は首を縦に振ることしかできなかった。

 件の大剣を豆腐に包丁を入れるかのように滑らかに地面の中に収納し終え、メトシスは再び俺に向き直った。
「では、望みの品がないようなので、ここでは道具を使ってあなたに最も適切な”贈り物”を検索しますね」
 そう言って彼女はパチンと指を鳴らす。意図が理解できずきょろきょろとしていると、突如上空からなにか巨大な物体が落下して来ているのを目撃した。
「おわ!危な! ……ってなんだこれ?」
 金属的な衝突音を響かせ着地したのは、細かい模様が側面に施された、荘厳な、子供など丸々入ってしまえそうなほど巨大な壺だった。入り口の直径は一メートルほどあるだろうか、そこから三分の一くらいまでくびれており、そこから下はまた膨らんだ形状であり、大きささえ見なければいかにも壺といった風貌だ。壺の中は石油でも入っているのかという黒い何かが入っていて底までは見通せそうにない。
「これは”英雄願望の壺プライオリティ・オブ・トライアム”と言います。先ぱ……いえ、前任の世界の管理者が作ったものらしいんですけど、なかなかダサい名前してますよね。センスがない」
 いや、全く同じことをついさっき俺も君に対して感じたけどね!
 俺の心の中でのツッコミは当然届くわけもなく、メトシスは続ける。
「この壺には、手を入れた者が英雄になるために最も適切なものを手に引き寄せるという機能があるんです。引き寄せ先を私の所有する”贈り物”に設定しているので、そこから選び出されるというわけですね。ということで、手を入れてみてください」
 メトシスに促されるまま俺は壺の中に右手を突っ込んだ。気体とも液体ともつかないような独特の感触を探っているうちに、ふと右手に何かが当たるのを感じた。そのまま俺は右手に収まったそれをぎゅっと掴んで引き上げた。
「なんだこれ……? 紙きれ?」
壺から引き上げられた右手の中のものは、先刻の大剣やそれに類する武具などではなく、薄汚れたトランプほどの大きさの紙だった。
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