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第1章 はじめての異世界
2話 影繰りの加護
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異世界の神だという少女メトシスに無理やり世界を救う勇者に任命され、手を入れた者が英雄になるために最も適切なものを選び出すという英雄願望の壺なる壺に手を突っ込んだ、というわけがわからない状況の俺こと上木壮真は一片の薄汚れた紙を掴み出した。
俺の右手に収まる紙を見てメトシスは驚きといった表情を作る。
「意外です、この壺がそれを彼に選ぶなんて。まあでも、最善の選択肢を選び出した結果ですから、納得せざるを得ないでしょう」
何も理解していない俺をよそにメトシスは一人ぶつぶつとつぶやいている。この結果が何か彼女にとって想定外なのだろうか。
「結局これは何なんですか?」
妙に右手にしっくりとくるそのカードを観察しながら俺はメトシスに尋ねた。よく見るとカードには見たこともない文字で何かびっしりと書いてある。例えるならプログラムの命令文、といった感じだ。
「これは対象者への魔法的保護及び拘束の契約書、簡単に言うと”祝福のチケット”です。私の管理する世界において、基本的に魔法というのは、式句と呼ばれる単語を使って命令文を発声し、その瞬間にリソース、私の世界ではマナと呼ばれているんですが、マナを消費することによって発動します。しかし祝福というのは、所有者の魂に直接式句を刻むことによって、命令を必要とせずにその効果を発動させることができるというものなんです」
情報の洪水に全く頭がついていかない。つまりは、俺が引いたのは祝福の獲得券であり、その祝福とやらはマナなるリソースを常に使う代わりに、魔法的な効果を自動で発動させることができる代物らしい。なんだかゲームみたいな概念だ。
「なるほど……、それでこの祝福の内容は何なんですか?」
ここで優秀な祝福を手に入れられればブラック企業的所業も少しは楽になるのではないだろうか。
仄かな期待を込めた俺の質問に、メトシスは俺の手から紙を抜き取って式句らしい文字の羅列を一瞥して答えた。
「えっと、もともとの祝福に固有名詞というのは存在しないのですが、この祝福は私の世界においては主に”影繰りの加護”と呼ばれていて、対象者の魔力の残量が既定の量、もとい魔魂臨界面まで減少した時に、対象者の強い感情をブーストさせ、代替リソースとして魔法に使用するというものです。すなわち自身の”影”ともいえる心や感情を”繰り”出す、ということで影繰りの加護と呼ばれているそうですよ」
どうだと言わんばかりに俺の顔を見つめるメトシスだが、突然未知の単語群の爆撃を受けた俺は、それこそ鳩が豆鉄砲を食らったような顔で彼女を見つめ返すことしかできない。そんな俺の様子に、メトシスはできの悪い生徒を諭す教師のような目線で補足を入れる。なんというか、誠に遺憾だ。
「すごくざっくり言うと、魔法の行使には人間の魂を構成するエネルギーを消費するんですけど、普通なら魂が取り返しのつかないところまで破損しないようにリミットがかかるようになっているんです。ですがこの祝福はそのリミットを取っ払っちゃうんですね。ゆえに精神の崩壊の危険性というデメリットはありますが、魂の中心により近い高密度なエネルギーを使って大火力の魔法が使える!って感じです」
これで分かっただろうというドヤ顔を見せつけるメトシスを見ながら俺はハハハ……と乾いた苦笑いをするほかなかった。
しかし何ともさらっと話していたが、内容を噛み砕いてみるとこの女神とんでもないことを言っていないか。限度を超えると精神が崩壊? そんなリスキーな祝福を発動させる気にもなれないし、必ずしも使いたいときに強い感情を抱いているとは限らないだろう。
しかし件の壺が俺にこれを選び出したのならばこれが俺にとって最も適したものなのだ。壺氏は俺を情緒不安定だとでも言いたいのか。まあ、わがままを言えない以上、甘んじてこれを受け入れるしかない。
「……なんとなくわかりました。ありがたく受け取らせていただきますよ……」
しぶしぶ祝福を受け取ったところで、ふと一番大事なことを聞くのを忘れていたことに気がついた。
「そういえば世界を救うっていう話でしたけど、具体的に何をすればいいんですか?」
RPGなんかでよく目にする流れはやはり魔王の討伐とか、お姫様の救出とかだろうか。どちらにせよ命の危険のつきまとう行為のように思われるが、果たして……。
メトシスはギクリとばかりに肩を跳ねさせる。この反応を見るにメトシスはわざと内容に触れないように話し、俺に具体的なことを教えまいとしていたのだろう。やはり危険すぎて聞いたら俺が逃げ出すと思っているから、とかだろうか。
「別に聞いても投げ出したりしないと思いますから大丈夫ですよ。というか現状逃げようもないし」
夢だか何だか分からない状況だしまあいいだろうと楽観視してそう口にする俺を、メトシスはどこか罪悪感をにじませたような青い瞳で見上げる。どこまでも人間臭いというか、神らしさを感じさせない女神様なことだ。
「ほ、本当ですか……? 本当にお願いを聞いてくれますか?」
「よほど無理のある事じゃなければ、まあ」
それが女神であろうと人間であろうと、困っているのならば助けたいのが俺の信条だ。俺の返答にやや不安げな色を残しながらも何かを決心したような目になった彼女はゆっくりを口を開いた。
「あなたには迫りくる魔王の軍勢を退け、そして魔王を打倒していただきます」
俺の右手に収まる紙を見てメトシスは驚きといった表情を作る。
「意外です、この壺がそれを彼に選ぶなんて。まあでも、最善の選択肢を選び出した結果ですから、納得せざるを得ないでしょう」
何も理解していない俺をよそにメトシスは一人ぶつぶつとつぶやいている。この結果が何か彼女にとって想定外なのだろうか。
「結局これは何なんですか?」
妙に右手にしっくりとくるそのカードを観察しながら俺はメトシスに尋ねた。よく見るとカードには見たこともない文字で何かびっしりと書いてある。例えるならプログラムの命令文、といった感じだ。
「これは対象者への魔法的保護及び拘束の契約書、簡単に言うと”祝福のチケット”です。私の管理する世界において、基本的に魔法というのは、式句と呼ばれる単語を使って命令文を発声し、その瞬間にリソース、私の世界ではマナと呼ばれているんですが、マナを消費することによって発動します。しかし祝福というのは、所有者の魂に直接式句を刻むことによって、命令を必要とせずにその効果を発動させることができるというものなんです」
情報の洪水に全く頭がついていかない。つまりは、俺が引いたのは祝福の獲得券であり、その祝福とやらはマナなるリソースを常に使う代わりに、魔法的な効果を自動で発動させることができる代物らしい。なんだかゲームみたいな概念だ。
「なるほど……、それでこの祝福の内容は何なんですか?」
ここで優秀な祝福を手に入れられればブラック企業的所業も少しは楽になるのではないだろうか。
仄かな期待を込めた俺の質問に、メトシスは俺の手から紙を抜き取って式句らしい文字の羅列を一瞥して答えた。
「えっと、もともとの祝福に固有名詞というのは存在しないのですが、この祝福は私の世界においては主に”影繰りの加護”と呼ばれていて、対象者の魔力の残量が既定の量、もとい魔魂臨界面まで減少した時に、対象者の強い感情をブーストさせ、代替リソースとして魔法に使用するというものです。すなわち自身の”影”ともいえる心や感情を”繰り”出す、ということで影繰りの加護と呼ばれているそうですよ」
どうだと言わんばかりに俺の顔を見つめるメトシスだが、突然未知の単語群の爆撃を受けた俺は、それこそ鳩が豆鉄砲を食らったような顔で彼女を見つめ返すことしかできない。そんな俺の様子に、メトシスはできの悪い生徒を諭す教師のような目線で補足を入れる。なんというか、誠に遺憾だ。
「すごくざっくり言うと、魔法の行使には人間の魂を構成するエネルギーを消費するんですけど、普通なら魂が取り返しのつかないところまで破損しないようにリミットがかかるようになっているんです。ですがこの祝福はそのリミットを取っ払っちゃうんですね。ゆえに精神の崩壊の危険性というデメリットはありますが、魂の中心により近い高密度なエネルギーを使って大火力の魔法が使える!って感じです」
これで分かっただろうというドヤ顔を見せつけるメトシスを見ながら俺はハハハ……と乾いた苦笑いをするほかなかった。
しかし何ともさらっと話していたが、内容を噛み砕いてみるとこの女神とんでもないことを言っていないか。限度を超えると精神が崩壊? そんなリスキーな祝福を発動させる気にもなれないし、必ずしも使いたいときに強い感情を抱いているとは限らないだろう。
しかし件の壺が俺にこれを選び出したのならばこれが俺にとって最も適したものなのだ。壺氏は俺を情緒不安定だとでも言いたいのか。まあ、わがままを言えない以上、甘んじてこれを受け入れるしかない。
「……なんとなくわかりました。ありがたく受け取らせていただきますよ……」
しぶしぶ祝福を受け取ったところで、ふと一番大事なことを聞くのを忘れていたことに気がついた。
「そういえば世界を救うっていう話でしたけど、具体的に何をすればいいんですか?」
RPGなんかでよく目にする流れはやはり魔王の討伐とか、お姫様の救出とかだろうか。どちらにせよ命の危険のつきまとう行為のように思われるが、果たして……。
メトシスはギクリとばかりに肩を跳ねさせる。この反応を見るにメトシスはわざと内容に触れないように話し、俺に具体的なことを教えまいとしていたのだろう。やはり危険すぎて聞いたら俺が逃げ出すと思っているから、とかだろうか。
「別に聞いても投げ出したりしないと思いますから大丈夫ですよ。というか現状逃げようもないし」
夢だか何だか分からない状況だしまあいいだろうと楽観視してそう口にする俺を、メトシスはどこか罪悪感をにじませたような青い瞳で見上げる。どこまでも人間臭いというか、神らしさを感じさせない女神様なことだ。
「ほ、本当ですか……? 本当にお願いを聞いてくれますか?」
「よほど無理のある事じゃなければ、まあ」
それが女神であろうと人間であろうと、困っているのならば助けたいのが俺の信条だ。俺の返答にやや不安げな色を残しながらも何かを決心したような目になった彼女はゆっくりを口を開いた。
「あなたには迫りくる魔王の軍勢を退け、そして魔王を打倒していただきます」
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