泡影の異世界勇者《アウトサイダー》

吉銅ガト

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第2章 王都フレンテと魔王の影

35話 裁きの火

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 小雨の降り続く王都の中央。雨と土、そして血の匂いが漂い今なお絶叫と轟音が響く竜と人との戦場に、純白のギャンベゾンの上に磨き抜かれた銅の鎧、そして再び純白のマントを身に纏う集団がやって来た。

 十数人の純白の集団の先頭に立つ人物が、先ほどまで死闘を繰り広げていたのであろう竜の亡骸とその正面に転がる少年に近寄る。心身ともに激しく消耗しているためか近づいても反応するそぶりを見せないが、その疲弊した瞳には満足げな光がかすかに、だが確かに宿っているように見えた。ふと目線を動かせばすぐそばには大穴の空いた建物があり、建物の中から大勢の人々が不安げな様子でこちらを見ている。どうやらこの少年はあの人々を守り抜いてみせたらしい。純白の防具が汚れるのも気にせず少年の横にひざまづくと、称賛の意を込めて言葉をかける。
「よくぞ今まで持ち堪えてくれた。貴殿の気高き行いに感謝と称賛を。あとは我々、聖火隊に任せろ」
 今にも崩れ落ちそうな少年のぼろぼろの手をしっかりと握ってからその人物は立ち上がる。
「残りの黒竜二体の討伐はお前たちに任せる。私はあの巨竜を殺す」
 そう言葉少なに残りの白装束たちに指示を出して、自分は純白のマントを翻して黄金の巨竜の元へ歩いていく。すでに交戦中のマナーゼンたちは壊滅寸前。辛うじて生き残った者たちで何とか竜たちの進撃を防いではいるものの、あと数分もしないうちにこの竜たちに打ち滅ぼされてしまうだろう。しかし、そんな状況に持ち込ませない、ドラゴンどもから民の安寧を勝ち取るのが彼らの使命であり矜持であるのだ。

 ゆっくりと近づいてきた白い姿を、マナーゼンの死体をまるでおもちゃかのように引き裂いていた金色のドラゴンが見下ろす。常人ならばそれだけで呼吸すらできなくなるほどの巨竜のプレッシャーも、この白と銅の狩人の前ではまったくその意味を介さない。
ドラゴントカゲ風情が、あまり人間をなめるなよ……」
 途端にその場の空気が何倍にも張り詰める。鉛色の雨雲の下、粘度を格段に増した空気の中で銅の兜の中に佇む瞳だけが激しく輝いていた。燃えているかのようなその赤い瞳は、目の前の敵を焼き尽くさんという人間の怒りを体現しているようだ。突如として現れた危険因子を蹴散らすために巨竜はそれだけでも人間よりはるかに大きな腕を振り上げる。同時に標的となる紅の瞳の白装束も左腰のケースから一枚のカードを抜いて掲げ、右腰の袋から黒い粉末を取り出すと滑らかに魔法を唱え始める。
インプ:カルド導入:刻印札アズ:カノン呼出句:カノンイグノ火よエメルゲ顕現せよタグ:カノン既定造形:カノンを成してレウス:トレイソーザント上昇温度:三千ルーン魔法実行!」
 魔法が発動された瞬間、左手で掲げていたカードが不可視の火に当てられたように燃え尽きていく。矢継ぎ早に激しい光を放つ魔法陣に向かって右手の粉を思い切り投げつけた。黒い粉末──正確には黒色と、身にまとう鎧に似た銅色が混じり合う粉末は魔法陣の先へ飛び出した途端に瞬く間に赤熱し、夥しい火炎を帯びる。黒い粉から変化した火球は次第にその色を赤色から鮮やかな青緑色へ変化していき、限界までその爆発力が高まった瞬間、見えない撃鉄を叩きつけられたかのように緑炎が吹き出した。吹き上がる緑の業火は急速に迫る太い腕を軽々と消滅させ、そのままの勢いで竜の上半身を飲み込んでいく。
 数瞬後、巨竜の背後から緑の火炎が吹きあがり上空に上っていった。ついに民を恐怖のどん底に叩き落とした黄金の巨竜は、その身に翡翠色の残り火を宿しながらゆっくりと崩れ落ちた。業火によって焼かれた地面は先ほどまで小雨に濡れていたにも関わらず、今ではカラカラに乾き切っている。

 巨竜の狩り手は降り抜いた右腕を戻すと、籠手部分についた仕掛けを動かして小雨を瞬時に消失させるほど高温の装甲に彫り抜かれた空冷用の溝を開く。その動作が此度の戦いが終幕を迎えたことを知らしめていた。背後を振り返ればすでに黒焦げに焼かれた黒竜の下が二体転がっている。部下たちに撤退の指示が下され、白と銅の竜狩りたちは彼らの本部を目指して歩き去っていった。その場には呆然とした表情のマナーゼンたちと住民たちのみが残されていた。

 彼らの名は聖火隊。王国直属の部隊にして竜狩りを専門とする火属性魔法使いの集団。少数精鋭のその隊を束ねる隊長を務め、さらに確認されている全火属性魔法使いの中の頂点に君臨するその人物は、繰り出す劫火の色から畏敬の念を込めて”緑炎のフラム”と呼ばれていた。
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