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本編
猟犬乱入
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決戦の地である運動公園内のサッカー用グラウンドで、鬼島中学と姫ヶ瀬FCジュニアユース、両チームの選手たちが黙々とアップを行っている。
ただ、これまで戦ってきた公式戦とはまるで異質の緊張感が漂っていた。前回の両者の対決時みたいな騒ぎを警戒してか、あちらこちらに制服姿の警備員が配されており、およそ中学生の試合らしからぬ皮膚を突き刺すような空気が充満していた。
すでにひと悶着はあった。
熱心にもまた応援に駆けつけたケルベロスの連中が、先ほどまでピッチサイドで5メートルはあろうかという横断幕を掲げていたのだ。そこには白い生地に赤い文字で「鬼島のみなさん、姫ヶ瀬市にようこそ」と大書されていた。もちろん、警備員に促されてすぐに撤去の運びとなったわけだが。
そんな見え透いた手で煽られるほど暁平も単純ではない。挑発に乗らないよう部の全員に伝達し、あえていつもより淡々と試合前のルーティーンをこなす。
昨夜の雨も無事にあがり、ピッチの状態は良好といって差し支えなかった。この日の空によく似たスカイブルーのユニフォームを身にまとった鬼島中学は、最後の締めくくりとしてシュート練習に移っていく。
次々に選手たちがテンポよくシュートを放っていくのだが、その順番待ちの列にオレンジ色のユニフォームが一人、強引に割りこんできた。
「よいしょお!」
出されたパスをかっさらい、そのまま力いっぱい蹴りこんでネットを揺らす。
どうだ、という顔をしてその選手、久我健一朗は暁平たちのほうを向いた。
脱力するようなため息をついてから、暁平は久我へと近づいていく。
「はいはい、おじいちゃんのチームはあっちでしょ。お昼ごはんまでおとなしく待っててくださいねー」
相手にすることなく、彼の背中を押して冷ややかにお帰りを願う。
予想外の対応だったか久我は慌てて言った。
「え、あ、いや、宣戦布告のつもりなんだけど、一応」
「やかましい。ただでさえ不穏な空気が漂ってんだから、せめて試合が始まるまではじっとしてやがれ」
鬼島中学イレブンが笑いをこらえて眺めている中、手がかかるやつだとばかりに暁平は久我の背中をぐいぐい押していく。
一年前に喧嘩別れのような形で袂を分かったはずなのに、こうして以前と変わらないノリで会話を交わしているのは不思議な気がした。
そんなことを考えていた暁平の前で、久我が強制送還扱いに抵抗をみせる。
「待てキョウ、ちょっと待った。これだけは言わせろ」
「五文字以内で簡潔に頼む」
「少ねえよ! いいかよく聞け、おれは今日こそおまえの壁を超えるからな。おまえをぶち抜いて、そんでゴールを決めてやる」
「おれを抜いてもアツがいるけどな」
「うるせえ、だったらついでにあいつも倒す。それで文句ねえだろ」
相変わらずの短絡的な物言いに、思わず暁平は苦笑した。
「悪いが、今日はあまりおまえに構ってやれない。まあこれもチーム事情ってやつでね」
「はあ? それ、どういうことだよ」
「そう怒るな。おれの代わりにマサたちが稽古をつけてくれるさ。いっちょ軽く揉んでもらってこい」
言うだけ言って暁平はチームメイトの元へと戻っていく。
背中から「ふざけんな」だの「答えろバカ野郎」などと怒声が飛んできているが、すべて涼しい顔で受け流しつつ。
鬼島中学サッカー部はベンチの前で輪となって、すっかりサッカーの指導者らしさが板についてきた貝原が全員の顔を見回してから切りだした。
「これまででいちばん手強い相手に、いつもと違う戦い方で立ち向かう。不利な材料だらけなのになぜかぼくの胸は高鳴っているよ。きみたちならきっと勝てる、そう信じているからだ。新しい鬼島のサッカーで勝って、そしてみんなで衛田に報告して彼を大いに羨ましがらせてやろうじゃないか」
おおッ、と野太い叫びがあたりに轟く。
暁平もいつにない昂りを抑えきれず、ゲームの開始を今や遅しと待ちかねていた。
ただ、これまで戦ってきた公式戦とはまるで異質の緊張感が漂っていた。前回の両者の対決時みたいな騒ぎを警戒してか、あちらこちらに制服姿の警備員が配されており、およそ中学生の試合らしからぬ皮膚を突き刺すような空気が充満していた。
すでにひと悶着はあった。
熱心にもまた応援に駆けつけたケルベロスの連中が、先ほどまでピッチサイドで5メートルはあろうかという横断幕を掲げていたのだ。そこには白い生地に赤い文字で「鬼島のみなさん、姫ヶ瀬市にようこそ」と大書されていた。もちろん、警備員に促されてすぐに撤去の運びとなったわけだが。
そんな見え透いた手で煽られるほど暁平も単純ではない。挑発に乗らないよう部の全員に伝達し、あえていつもより淡々と試合前のルーティーンをこなす。
昨夜の雨も無事にあがり、ピッチの状態は良好といって差し支えなかった。この日の空によく似たスカイブルーのユニフォームを身にまとった鬼島中学は、最後の締めくくりとしてシュート練習に移っていく。
次々に選手たちがテンポよくシュートを放っていくのだが、その順番待ちの列にオレンジ色のユニフォームが一人、強引に割りこんできた。
「よいしょお!」
出されたパスをかっさらい、そのまま力いっぱい蹴りこんでネットを揺らす。
どうだ、という顔をしてその選手、久我健一朗は暁平たちのほうを向いた。
脱力するようなため息をついてから、暁平は久我へと近づいていく。
「はいはい、おじいちゃんのチームはあっちでしょ。お昼ごはんまでおとなしく待っててくださいねー」
相手にすることなく、彼の背中を押して冷ややかにお帰りを願う。
予想外の対応だったか久我は慌てて言った。
「え、あ、いや、宣戦布告のつもりなんだけど、一応」
「やかましい。ただでさえ不穏な空気が漂ってんだから、せめて試合が始まるまではじっとしてやがれ」
鬼島中学イレブンが笑いをこらえて眺めている中、手がかかるやつだとばかりに暁平は久我の背中をぐいぐい押していく。
一年前に喧嘩別れのような形で袂を分かったはずなのに、こうして以前と変わらないノリで会話を交わしているのは不思議な気がした。
そんなことを考えていた暁平の前で、久我が強制送還扱いに抵抗をみせる。
「待てキョウ、ちょっと待った。これだけは言わせろ」
「五文字以内で簡潔に頼む」
「少ねえよ! いいかよく聞け、おれは今日こそおまえの壁を超えるからな。おまえをぶち抜いて、そんでゴールを決めてやる」
「おれを抜いてもアツがいるけどな」
「うるせえ、だったらついでにあいつも倒す。それで文句ねえだろ」
相変わらずの短絡的な物言いに、思わず暁平は苦笑した。
「悪いが、今日はあまりおまえに構ってやれない。まあこれもチーム事情ってやつでね」
「はあ? それ、どういうことだよ」
「そう怒るな。おれの代わりにマサたちが稽古をつけてくれるさ。いっちょ軽く揉んでもらってこい」
言うだけ言って暁平はチームメイトの元へと戻っていく。
背中から「ふざけんな」だの「答えろバカ野郎」などと怒声が飛んできているが、すべて涼しい顔で受け流しつつ。
鬼島中学サッカー部はベンチの前で輪となって、すっかりサッカーの指導者らしさが板についてきた貝原が全員の顔を見回してから切りだした。
「これまででいちばん手強い相手に、いつもと違う戦い方で立ち向かう。不利な材料だらけなのになぜかぼくの胸は高鳴っているよ。きみたちならきっと勝てる、そう信じているからだ。新しい鬼島のサッカーで勝って、そしてみんなで衛田に報告して彼を大いに羨ましがらせてやろうじゃないか」
おおッ、と野太い叫びがあたりに轟く。
暁平もいつにない昂りを抑えきれず、ゲームの開始を今や遅しと待ちかねていた。
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