世界の東の端っこのフットボール・チルドレン

遊佐東吾

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スピンオフ

extra3 もうひとつの夏〈2〉

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 全48チームが参加するクラブユースサッカー選手権では、まず4チームごとのグループに割り振られて総当たりの1次ラウンドが行われる。各グループの上位2チーム、それに各グループ3位のなかから勝ち点が高かった8チームを加えた合計32チームが決勝トーナメントに進出できる。

 姫ヶ瀬FCは二戦連続で引き分けという、どうにも煮え切らないスタートとなった。グループリーグ最終戦に勝利できなければ敗退の可能性が高い状況でチームを救ったのはフォワードの久我だった。彼の2得点により、姫ヶ瀬FCはグループリーグをどうにか2位通過で突破する。
 吉野の目から見ても久我のプレーは格段に凄みを増していた。ゴールへの嗅覚という点において、大会に参加している選手のなかでも彼ほど研ぎ澄まされた感覚の持ち主はそうはいないはずだ。
 10番を背負う兵藤は相変わらず切れていたし、三試合とも途中出場を果たしここまで1ゴールをあげているフォワード牧瀬龍も調子がいい。吉野を含めた他の選手たちにも特に問題はなかった。だからこそ逆にジュリオのブレーキぶりが際立つ。

 しかし吉野としてもキャプテンとしてチームを束ねていく役目がある以上、彼のことばかりを気にかけてはいられない。おまけに決勝トーナメントの初戦、姫ヶ瀬FCの対戦相手はグループリーグを危なげなく三連勝で通過してきた優勝候補の大阪リベルタスと決まった。戦力の整った格上に、前年度は決勝トーナメント1回戦敗退の地方のユースチームが挑む。誰の目にもそう映る組み合わせなのは明らかだった。
 大阪リベルタスにはキーマンとなる選手が二人いる。トップ下の巽祐作とサイドアタッカーの石蕗忍。ともにU―15代表における攻撃の中核を担っている、いわば世代のトップランナーだ。

 カードが決まったあとの夕食時に姫ヶ瀬FCの全員が集まって、休息日を挟んだ翌々日に行われる大阪リベルタス戦に向けた簡単な方針の確認が行われた。
 そのときに相良監督が発した「残念ながら顔ではおまえらの惨敗だ」という言葉には、吉野をはじめ何人もの選手が思わず吹きだしてしまう。

「雑誌の写真とかで見たことあるだろ。巽は昭和の香りを感じさせる古いタイプの男前、石蕗はいかにも今風でさわやかなイケメンだ。それでいてやつらはサッカーの才能にも恵まれてるときていやがる。まったく不公平ったらありゃしねえよな」

 だがな、と相良は不敵に笑う。

「おまえらがサッカーで劣っているとはおれは思ってねえよ。明後日のゲームでそれを証明してくれ。自陣のゴール前にバスを止めちまうような腰の引けた戦い方をするつもりはない、真っ向勝負だ。いつも通りにやればおまえらの力ならきっと勝利をもぎとれる。──今日のところはおれからは以上だ」

 いかにも大雑把そうな風貌なのに監督はチームを乗せるのが上手い、と吉野も相良のモチベーターぶりに感心する。仲間たちの顔が「いっちょ番狂わせを起こしてやろう」という気概に満ちているのが頼もしい。吉野からすれば充分な面構えだ。
 食事を終えて解散となったあと、キャプテンである吉野は相良から手招きで呼ばれた。その厳しい表情から吉野にはぴんとくるものがあった。
 唾を飲みこんでから「何でしょうか」と訊ねる彼に、相良が抑揚のない口調で決定事項を告げてきた。

「次のゲーム、ジュリオをスタメンから外す」

 覚悟はしていたため、吉野も黙って頷く。

「けれども間違いなくあいつの力は必要だ。おそらくはどうしても点が欲しい時間帯というのが出てくる展開になる。そのとき、起爆剤としての役割をおれはジュリオに期待している」

「ですが監督、今の彼にそこまで求められるでしょうか」

「おいおい吉野、いちばんあいつと長く接しているおまえが信じてやらんでどうする。これはひとつの賭けになるだろうが、スタートからベンチに座っておまえたちの戦いぶりを見ることで何かしらのポジティブな変化が出てくるとおれはにらんでいるよ」

 言外にある相良の思惑をすぐに吉野は理解する。「おまえたちのプレーでジュリオの心を揺さぶれ」、つまりはそういうことなのだろう。

「わかりました。スタメン落ちの件、ジュリオにはおれから伝えておきます」

 明後日の試合で絶対に走り負けだけはすまいとの腹を決め、吉野はその場を辞した。
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