世界の東の端っこのフットボール・チルドレン

遊佐東吾

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スピンオフ

extra3 もうひとつの夏〈4〉

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 後半のスタートからジュリオに出番がやってきた。
 ただし彼の入るポジションがいつもと違う。フォーメーションはいつもの4―2―1―3なのだが、本来ジュリオがいるはずの左ウイングの位置に兵藤が、そして兵藤がいるはずのトップ下にジュリオが構えている。

「前後左右、周囲のすべてに敵がいる中央より必ずマークが緩くなる。左サイドからゲームを作れ」

 それが相良から兵藤に授けられた作戦だった。
 一方のジュリオの役割は兵藤のフォローと前線の撹乱。たとえ本調子でなく不慣れなポジションであろうとも、ジュリオの能力なら要求に応えるはずと考えた相良の判断に、キャプテンである吉野は異議を唱えることなく従った。
 加えて、石蕗とマッチアップしているせいで自陣に釘づけとなっている末広、それと最終ライン前のケアで手いっぱいの吉野にも機を見て攻め上がるよう指示が出されている。

「おまえらは勇気のさじ加減を少し濃いめにしてみようか」

 ただ単に「勇気を出して攻めろ」というのではなく、独特な言い回しによって吉野と末広、二人の意識に修正を求めてきた。
 大阪リベルタスの圧力をまともに受け続けた前半、巽らに背後を突かれる恐怖から吉野としてもほとんど前に出られずにいた。結果として兵藤をフォローできず孤立させてしまい、チームとしても防戦一方になるしかなかった。

 リスクを負わねば勝てない。そのことは吉野だって百も承知だ。問題はどこまでリスクを許容するか。その部分でもう一歩、二歩踏みこんでいけと相良は言う。そして勝負師ぶりをみせる相良の読みは驚くほど的確だった。
 吉野が細心の注意を払って攻撃に軸足を移すことで、巽としても長い距離を走って守備に戻らざるを得ない場面が増えてきた。末広と石蕗がやりあっている右サイドにしても同じことがいえる。攻撃の意志をはっきりと示すことで、むしろ守備にもいい影響を及ぼしているわけだ。
 優勝候補を相手にどこか委縮していた前半と大きく異なり、後半は本来の攻守のバランスを取り戻しつつある姫ヶ瀬FCが流れをつかみかけていた。

 そうなってくると俄然兵藤が輝きを放ちはじめる。味方には心地よいリズムを、敵には混乱をもたらして。相良の意図したとおり、左サイドへと主戦場を変えた彼へのマークは前半ほどの厳しさではない。たとえ囲まれそうになっても、危険を察知したジュリオがすぐにヘルプにやってくる。
 以前のジュリオなら個人技で仕掛けていきそうな局面でも、このゲームでは淡泊ともとれるほどワンタッチないしツータッチでボールをさばく黒子役に徹している。だが意外にもその表情には吹っ切れたような笑顔が浮かんでいた。
 いったいどんな魔法を使ったんだか、と吉野は相良の手腕に舌を巻く。ともかく、まずはこのいい流れのうちに1点を返しておきたい。

 後半10分にさしかかろうとする頃、待望の得点シーンがようやく姫ヶ瀬FCに訪れた。
 ジュリオとのパス交換から左サイドの兵藤がペナルティエリアに近づいていく。目線でのフェイク、小刻みなボールタッチで二人のマーカーを一瞬外し、腰をひねった左足でのミドルシュートでゴールを狙う。

 いささか強引なように吉野には見受けられたが、理詰めなだけでなくときには力ずくで攻めるのも兵藤の特徴だ。彼のプレーの選択肢は非常に広い。それでもファーサイドに飛んだこのシュートはさすがにキーパーによって弾かれてしまう。
 だがゴール前には抜け目なく久我が詰めていた。浮いたこぼれ球に対して彼の体は即座に反応する。左足を頭より高い位置に跳ね上げ、その反動を使って今度は右足を鞭のようにしならせてシュートを打ちにいく。

「バイシクルか!」

 思わず吉野の口から驚きの言葉が漏れた。
 逆向きに自転車を漕ぐ動作に似ていることからバイシクルシュートと名づけられているが、その難度の高さゆえに試合の中で目にする機会は多くない。
 そんなシュートをゴールセンスの塊のような久我はあっさりとやってのけた。ジャストミートしたボールは懸命に出されたキーパーの手をかいくぐってネットへと勢いよく突き刺さる。

 久我にとって大会4点目となるゴールは敵味方双方の度肝を抜いた。
 倒れこんだ久我はすぐに起き上がる。

「おらぁッ!」

 握り拳で強く胸を叩き、ひときわ大きな声で吠えた。

「何てやつだよ……」

 このスーパープレーに観客席はどよめいていたが、それは日々ともに練習している吉野にしても同じだった。一足飛びに階段を駆けあがっていくような彼の成長ぶりには畏怖の念すら覚えるほどだ。
 スコアではまだ1点のビハインドのため、早く再開させようとひったくるようにしてボールを抱えて走ってきた久我に率直な賛辞を送る。

「たまげたぞ。まさかバイシクルにいくとはな」

 なぜか少し不思議そうに首を傾げ、殊勲の久我は言った。

「いや、あれは延髄斬りっす。昔よくやってたんで」

 これには吉野も「プロレスかよ」と苦笑いで応じるしかない。
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