そんなに儚く見えますか?

紫南

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本編

032 謁見室……ね?

王妃は独り、王宮にあるキラキラしい部屋で、動揺を隠すことなくテーブルに肘を突き、長い親指の爪を無意識に噛む。それは幼い頃についた癖で、みっともないからと矯正されたはずだったのだが、今は無意識に出てしまっていた。そちらに意識が行かないほど動揺は大きい。

「っ、どういうことよっ! お義母様が倒れたなら、もっと権限がこちらにくるはずっ。お金だってっ……っ」

どの国でも、国のトップになる女性は優遇される。そう彼女は思っていた。

「なぜ! 私が部屋から出られなくなるのっ!!」

ただ、彼女は自由に生きたいだけ。王女よりもマシなのは、ドレスや宝石、パーティを開くのにもお金が必要で、それは湯水のようにどこかから湧き出るものではないと分かっていることだろうか。

「っ、本当に上手くいかないっ。あの子もあの傷物のクラール家の息子と婚約を続けていれば、あの家の弱みを握ってやれたのにっ」

王妃となってからは、そうした誰かの弱みを知る手段は多くなった。手駒にできる者はその辺にいくらでもいる。そして、王妃という立場上、逆らわれることもない。

それでも弱みを握るのは、嫌々従う様子が好きだからだ。絶対に逆らえないのに、悔しそうに了承する様が楽しくて、興奮する。ただそれだけの事に過ぎない。

「捨てるのなんていつでもできると教えてやったはずだと言うのに……っ、本当に出来の悪い娘だわっ。やはり、野蛮な国の血がいけないのかしら」

自分の血のせいではないと、都合の悪い事は全部他人のせいにする。

「あの子も……さっさと王になればいいのにっ。最近反抗的だし、いつまでもぐずぐずとっ。あの父親に似たのかしらっ……死んでも邪魔をするなんて忌々しいっ」

全ては自分のため。別に、誰も逆らわない存在になれるなら、王妃にならなくても良かった。ただ、この立場が一番であっただけだ。

そんなことしか考えていない。

それではいずれ破綻するとさえ思いもよらないのだ。

部屋の外から彼女を呼ぶ声が響く。

「王妃殿下……謁見室へお越しください。王后様のことなど、お話があるそうです」
「っ、そうっ。分かったわ。行きます。謁見室……謁見室ね……?」
「はい。ご案内いたします」
「待ってちょうだい。着替えるわ」
「いえ……そのままでとのことです。急ぎとのことで……」
「っ、そう。仕方ないわね……死んだのかしら」

王后が亡くなったことで、急いで次の王后の地位を用意する必要が出て来たのではないかと王妃は勝手に想像した。

部屋を出て、案内する者の後をいつもの様子で堂々と歩く王妃。しかし、謁見室に近付くにつれて、首を捻ることになる。

「ちょっと? 謁見室に行くのでしょう?」
「はい。謁見室です」
「……」

彼女が不審に思う理由は、謁見室へと向かうルートが違うからだ。

王妃は、良くないことを自分がしているという自覚はある。だから、案内の者から逃げようとした。他に訴えた。

「誰か! この者を捕えなさい! わたくしをどこかに連れて行こうとしています!」
「……はい?」

案内する者には意味がわからない。大声に驚いて集まって来る騎士達。それに気を良くして王妃は説明する。

「この男は、わたくしを謁見室に案内するはずなのです!」

集まって来た騎士達に得意げに、こいつは怪しいと伝える。だが、騎士達からすれば、何言ってんだと思ってしまう。

「……あの……謁見室でしたら、間違っておりませんが……」
「そんなわけないでしょう! 謁見室に行くのに、この通路を通ったことはないわ!」

王妃が言っているのは、王妃や王族が使う謁見室への入り口へ向かう通路のこと。今まではそうだった。しかし、今回は違うのだ。

「いえ。間違いありません。今回はこちらから謁見室に入っていただく事になっております」
「は?」
「どうぞ。我々も共に参りますので」
「え? ちょっ、どういうことよ!」

王妃は知らないのだ。長年毒を盛っていた王が回復していることを。

弱みを握り、思うままに操ってきた大臣達が、それらを告発して集まっていることを。

その場に、国中の貴族達が集結していることを。

何よりも彼女の勝手がこの日最後になるのだということを彼女は知らない。







**********
読んでくださりありがとうございます◎



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