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本編
015 私たちは囮に?
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アルティナはいつまでもオリエルと睨み合っているわけにもいかないとすぐに判断する。何か言いたそうにするオリエルからあっさり視線を外し、乗っていた馬の首を撫でた。
「いい子ね。クイル。見える? あの先、コイツらの馬が居る。脅して従えてくれる? あなたならできるよね」
《ヒヒィィンっ!》
「ありがと。期待してる。行って」
《ヒヒィィン!》
了解する嘶きと同時に、アルティナはクイルの背から飛び降りていた。
「え? ちょっ!」
クイルがオリエルの制止しようとする手をすり抜けて、前方の森の奥に居る盗賊達の馬が集まっている所へと駆けていく。それは、他の商隊の馬と一緒にだ。
クイルはこの短い時間の中で群れを作っていた。それを率いて、盗賊達の馬を下すのだ。
「いい馬ね。度胸もあるわ。戦場でも先頭を切れる個体ね」
「っ……」
アルティナはそれだけオリエルに伝えて、盗賊達へと飛び掛かる。
「なっ、アルティッ」
オリエルがクイルを止めようとした時と同様に手を伸ばし掛けた時には、アルティナは手にした二本の短剣で盗賊を三人、切り伏せていた。
そして、アルティナは周囲を見回しながら、手近な盗賊を蹴り倒し、揃いの制服を着た者達に指示を出す。
「後方のが逃げる! 一気に叩き伏せなさい!」
「「「「「おう!」」」」」
「逃したらただじゃおかない」
「「「「「っ、はい!!」」」」」
素早く前方から左右に抜けて後方に人員が動く。半数が動いたことで、後方の方がやや応援の人数が多くなった。
しかし、盗賊達は森に逃げ込もうとしており、それを追って、逃げていく者を捕まえようと、その多くなった人数は森へと入っていく。
そして、一人の男性が森から駆け出してきた。その男に、アルティナが問いかける。
「バッカス。どう?」
バッカスと呼ばれた男は、チラリとオリエルを確認してから答えた。
「こちらに割り振られた盗賊は今居るだけで間違いないようです!」
「そう。なら、さっさと終わらせるわよ。次があるんだから。巻きで」
「はっ! 仕上げだ! 縛り上げろ!」
「「「「「はっ!!」」」」」
僅かの時間で、半数の盗賊は既に縛り上げられており、残りも対処されていく。
「すげえ……」
「あの制服……っ、ガディーラか!」
「あのガディーラ!?」
商人や護衛達は目を輝かせ、憧れの人を見つめるような熱を帯びた目でバッカス達を見ていた。
「くっ。この辺にガディーラの支部があればっ」
「本当にすごいんだな……」
「侯爵家が毛嫌いしてるんだよな……迷惑な話だぜ。ガディーラを入れたくないって言うなら、こういう盗賊とかどうにかしろってんだよ」
この周辺の貴族は、現王妃派ばかり。ここ侯爵家は現王妃の実家だ。さすがにガディーラがセイグラル家に関係があると知っており、成り上がりのセイグラルを嫌っているため、ガディーラの支店を置くことを嫌がった。
「セイグラル家が後見なんだろ? あそこは良いよな。隣国との国境があるが、治安も良いし、商売もやりやすい」
「偉ぶらないしな」
「寧ろ、気を遣ってくれるよ。街道の安全も保証してくれるし」
オリエルは、盗賊達を警戒しながらもそんな話を意外に思いながら聞いていた。護衛達はもう戦う必要がないと判断し、馬車の傍で待機している。オリエルもガディーラの者達と共闘する自信がなかった。実力の違いがわかったのだ。
「っ……強い……」
それは、ガディーラの者達だけでなく、飛ぶように駆け回り、確実に盗賊を切り伏せていくアルティナにも言えることだった。
「ははっ。ガディーラは、元傭兵とか兵士とからしいが、訓練内容が違うんだろうな……」
「待遇も良いって聞くぜ? 俺ら護衛の奴らからしたら、あっちはエリートって感じだ。話しか知らなかった内は、僻みもしたが、実際に見てしまえば格が違うと分かる」
森から戻ってきたガディーラの者達は、縛り上げた盗賊達を引き摺って戻ってきている。馬車の周りに居た盗賊は、既に片付いていた。
そんな中、オリエルを護衛に誘って来た商人が、声を落として囁く。
「なあ。お兄さん知ってるか? ここで盗賊達がここまで幅利かせてるのは、侯爵が裏に居るからだって」
「っ……」
「ガディーラが支店を出さないようにしてるのは、それがバレないようになんだろうって、商人の中では有名なんだよ」
「そんな……」
盗賊と貴族の癒着など、許せるものではない。
「お兄さんは、盗賊を本気で倒してたし、侯爵の関係者じゃないって思ってさ」
「ああ……侯爵家とは関係ない。寧ろ……っ、許せないな……」
それと同時に、これの裏を取れたなら、現王妃の実家だからと勝手をする目障りな侯爵家を落とすことができそうだと思った。
その時、バッカスと呼ばれていた者が近付いてきた。
「ここの代表はどちらだろうか」
「あ、私です!」
商人が手を上げた。近くに居るオリエルに軽く頭を下げながら、バッカスは商人に声をかける。
「三人ほどこちらで人を付けます。盗賊の心配はほぼありませんが、念のため。もちろん、お代はいただきません。こちらの盗賊達を捕まえることが我々の目的ですので」
「そうですか……私たちは囮に?」
「必ず守る気ではおりました。不服でしょうか」
「いえ。盗賊のこと。よろしくお願いします!」
「はい。お任せください。この街道を今より確実に良い状態にさせていただきます」
「是非!」
「では」
この後、ガディーラから護衛が付き、再び馬車が動き出した。
その少し前。オリエルは商人に断りを入れ、この場に、ガディーラについていくことにした。ガディーラというより、アルティナにだ。
アルティナは報告にどこからともなくやってくるガディーラの者達の話を聞きながら、クイルが下した盗賊の馬達に水を飲ませていた。
オリエルが近付くと、アルティナは顔を上げた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「いい子ね。クイル。見える? あの先、コイツらの馬が居る。脅して従えてくれる? あなたならできるよね」
《ヒヒィィンっ!》
「ありがと。期待してる。行って」
《ヒヒィィン!》
了解する嘶きと同時に、アルティナはクイルの背から飛び降りていた。
「え? ちょっ!」
クイルがオリエルの制止しようとする手をすり抜けて、前方の森の奥に居る盗賊達の馬が集まっている所へと駆けていく。それは、他の商隊の馬と一緒にだ。
クイルはこの短い時間の中で群れを作っていた。それを率いて、盗賊達の馬を下すのだ。
「いい馬ね。度胸もあるわ。戦場でも先頭を切れる個体ね」
「っ……」
アルティナはそれだけオリエルに伝えて、盗賊達へと飛び掛かる。
「なっ、アルティッ」
オリエルがクイルを止めようとした時と同様に手を伸ばし掛けた時には、アルティナは手にした二本の短剣で盗賊を三人、切り伏せていた。
そして、アルティナは周囲を見回しながら、手近な盗賊を蹴り倒し、揃いの制服を着た者達に指示を出す。
「後方のが逃げる! 一気に叩き伏せなさい!」
「「「「「おう!」」」」」
「逃したらただじゃおかない」
「「「「「っ、はい!!」」」」」
素早く前方から左右に抜けて後方に人員が動く。半数が動いたことで、後方の方がやや応援の人数が多くなった。
しかし、盗賊達は森に逃げ込もうとしており、それを追って、逃げていく者を捕まえようと、その多くなった人数は森へと入っていく。
そして、一人の男性が森から駆け出してきた。その男に、アルティナが問いかける。
「バッカス。どう?」
バッカスと呼ばれた男は、チラリとオリエルを確認してから答えた。
「こちらに割り振られた盗賊は今居るだけで間違いないようです!」
「そう。なら、さっさと終わらせるわよ。次があるんだから。巻きで」
「はっ! 仕上げだ! 縛り上げろ!」
「「「「「はっ!!」」」」」
僅かの時間で、半数の盗賊は既に縛り上げられており、残りも対処されていく。
「すげえ……」
「あの制服……っ、ガディーラか!」
「あのガディーラ!?」
商人や護衛達は目を輝かせ、憧れの人を見つめるような熱を帯びた目でバッカス達を見ていた。
「くっ。この辺にガディーラの支部があればっ」
「本当にすごいんだな……」
「侯爵家が毛嫌いしてるんだよな……迷惑な話だぜ。ガディーラを入れたくないって言うなら、こういう盗賊とかどうにかしろってんだよ」
この周辺の貴族は、現王妃派ばかり。ここ侯爵家は現王妃の実家だ。さすがにガディーラがセイグラル家に関係があると知っており、成り上がりのセイグラルを嫌っているため、ガディーラの支店を置くことを嫌がった。
「セイグラル家が後見なんだろ? あそこは良いよな。隣国との国境があるが、治安も良いし、商売もやりやすい」
「偉ぶらないしな」
「寧ろ、気を遣ってくれるよ。街道の安全も保証してくれるし」
オリエルは、盗賊達を警戒しながらもそんな話を意外に思いながら聞いていた。護衛達はもう戦う必要がないと判断し、馬車の傍で待機している。オリエルもガディーラの者達と共闘する自信がなかった。実力の違いがわかったのだ。
「っ……強い……」
それは、ガディーラの者達だけでなく、飛ぶように駆け回り、確実に盗賊を切り伏せていくアルティナにも言えることだった。
「ははっ。ガディーラは、元傭兵とか兵士とからしいが、訓練内容が違うんだろうな……」
「待遇も良いって聞くぜ? 俺ら護衛の奴らからしたら、あっちはエリートって感じだ。話しか知らなかった内は、僻みもしたが、実際に見てしまえば格が違うと分かる」
森から戻ってきたガディーラの者達は、縛り上げた盗賊達を引き摺って戻ってきている。馬車の周りに居た盗賊は、既に片付いていた。
そんな中、オリエルを護衛に誘って来た商人が、声を落として囁く。
「なあ。お兄さん知ってるか? ここで盗賊達がここまで幅利かせてるのは、侯爵が裏に居るからだって」
「っ……」
「ガディーラが支店を出さないようにしてるのは、それがバレないようになんだろうって、商人の中では有名なんだよ」
「そんな……」
盗賊と貴族の癒着など、許せるものではない。
「お兄さんは、盗賊を本気で倒してたし、侯爵の関係者じゃないって思ってさ」
「ああ……侯爵家とは関係ない。寧ろ……っ、許せないな……」
それと同時に、これの裏を取れたなら、現王妃の実家だからと勝手をする目障りな侯爵家を落とすことができそうだと思った。
その時、バッカスと呼ばれていた者が近付いてきた。
「ここの代表はどちらだろうか」
「あ、私です!」
商人が手を上げた。近くに居るオリエルに軽く頭を下げながら、バッカスは商人に声をかける。
「三人ほどこちらで人を付けます。盗賊の心配はほぼありませんが、念のため。もちろん、お代はいただきません。こちらの盗賊達を捕まえることが我々の目的ですので」
「そうですか……私たちは囮に?」
「必ず守る気ではおりました。不服でしょうか」
「いえ。盗賊のこと。よろしくお願いします!」
「はい。お任せください。この街道を今より確実に良い状態にさせていただきます」
「是非!」
「では」
この後、ガディーラから護衛が付き、再び馬車が動き出した。
その少し前。オリエルは商人に断りを入れ、この場に、ガディーラについていくことにした。ガディーラというより、アルティナにだ。
アルティナは報告にどこからともなくやってくるガディーラの者達の話を聞きながら、クイルが下した盗賊の馬達に水を飲ませていた。
オリエルが近付くと、アルティナは顔を上げた。
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