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本編
025 余裕だろうて
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翌日、セイグラル領に向けて移動を始めた。子ども達の名も聞いている。弟の方が七才でミラン。兄が十才でセラン。こちらも薬の影響なのかやはり実年齢よりも幼く見えた。
「ティナ姉ちゃん。この道……大丈夫なの?」
「す、すごい森の中なんだけど……」
子ども達は、痛みを感じないということで、銀狼に乗せての移動となった。それも一番前にアルティナ。その後ろに二人。腰を帯で縛って落ちないようにして乗せている。
そんな銀狼の後ろを、オリエルを乗せたクイルが賢くついてきていた。
そして、そんなアルティナ達一向が進むのが深い森の中。
「これって、道なき道って言うんだよね……」
「森の奥って、怖い魔物が沢山居るんじゃないの?」
「群島には居た?」
「うん。人喰い虎っいうやつ!」
「へえ~。それならここにも居るよ。肉食のは、肉が硬かったりするから食べないけど、毛皮が綺麗で気持ちいいの」
「そうなの? どんなやつ?」
「ねえっ、兄ちゃんっ。ここにも居るって言ったよ? だ、大丈夫なの?」
どうも弟のミランの方は怖がりのようだ。しかし、きちんと人の話を聞いていることには感心した。
「ミランは偉いねえ。聞き逃さないんだ?」
「っ、だって! 怖いよ!」
「あははっ。大丈夫。襲って来たら勝てば良い」
「……え……?」
「お姉さん。それ、脳筋なセリフ……」
《コレは脳筋で合っておるぞ。考えるより先に直感で動く。襲って来たら者は敵。そして、負けた者の持ち物は勝った者の物。賊なんてのは改心させるより心を折ったもん勝ち。どうだ? ヤバかろう?》
「「うん……」」
「えー。賊相手に考えるのは面倒だし、魔獣は襲ってきたら倒すのが自然の摂理に反しない。それでいいじゃん?」
「お姉さん……その顔で詐欺だって言われない?」
「よく言われるね」
「……そうなんだ……」
子ども達は、早くもアルティナの性質を見抜いた。これに、ついてきているオリエルへと銀狼が声をかける。
《ほれ。我の言った通りだろう。会って間もない子どもらの方が本質を理解しておるわ》
「……ど、どう言ったら良いのか……」
《番うのはやめるか》
「いっ、いえ! ひ、人としては、その……好感は持てますので……私も脳筋寄りですし……」
《目が泳いでおるぞ》
「だ、大丈夫です! 慣れてみせます!」
《険しい道ほど、というやつか? 難儀なものだ》
はっきり言って、今のアルティナには女性としての魅力はない。しかし、媚びることしか知らず、人を貶めることばかりする醜い女性達を見て来たことで、オリエルにとってはアルティナは好ましく映るようだ。
そして、何よりも予想しなかった行動ばかりする。それが少し、オリエルは楽しくなってきていた。
「あ、噂をすれば。ほら、アレがこの大陸の人喰い虎だよ」
「ひっ!」
「く、黒いっ……あんなのっ、普通見つからないっ」
艶々とした濡れ羽のような美しい黒い毛並みの虎。普通にアルティナやオリエルを一飲みできそうな大きさだ。
「丁度良いや。お父様の誕生日プレゼント、迷ってたんだよね~。アレをコートにしたら絶対に似合うっ」
「あ、アレが似合うって、どんなお父さん!?」
《魔王のようで、人々を魅了して陥落させる絶世の美女のようでもある……化け物だ》
「「……っ……」」
この銀狼が化け物という、それを子ども達は想像できなかった。
「あははっ。化け物かあ。まあ、慣れないと雰囲気に呑まれるんだよね~。鬼みたいな仮面してるし」
「「かめん?」」
不思議がる子ども達とつながっている帯を解き、銀狼から飛び降りる。
「じゃあ、アレ狩ってくるから、銀の君はここに居るか、先に行ってて」
そっちもと言って、オリエルの方を見る。
「っ、そ、そんなっ。あんなのを一人で!?」
「場所も悪くないし、余裕だよ」
《森の中ならば、余裕だろうて》
「……余裕……?」
「それじゃね!」
「あっ」
オリエルが詳しく聞く前に、アルティナは向かって来ている人喰い虎へと飛びかかっていた。
そして、ものの数分でその命を刈り取っていたのだ。双剣を使うその戦いぶりを見て、オリエルは既視感を覚えていた。
そんな中、綺麗に皮を剥いでいくアルティナ。その傍で、子ども達は銀狼と地面に穴を掘っていた。遺骸を埋めるのだ。
「出来た!」
綺麗に皮を剥いだアルティナが、そのたっぷりな毛皮を掲上げ、満々の笑みを見せる。差し込んだ日の光に反射したアルティナの髪が、きらりと光る。その光を見たことがあった。
「っ、まさか……あの時の……っ」
そこで、オリエルはある過去の光景を思い出していた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「ティナ姉ちゃん。この道……大丈夫なの?」
「す、すごい森の中なんだけど……」
子ども達は、痛みを感じないということで、銀狼に乗せての移動となった。それも一番前にアルティナ。その後ろに二人。腰を帯で縛って落ちないようにして乗せている。
そんな銀狼の後ろを、オリエルを乗せたクイルが賢くついてきていた。
そして、そんなアルティナ達一向が進むのが深い森の中。
「これって、道なき道って言うんだよね……」
「森の奥って、怖い魔物が沢山居るんじゃないの?」
「群島には居た?」
「うん。人喰い虎っいうやつ!」
「へえ~。それならここにも居るよ。肉食のは、肉が硬かったりするから食べないけど、毛皮が綺麗で気持ちいいの」
「そうなの? どんなやつ?」
「ねえっ、兄ちゃんっ。ここにも居るって言ったよ? だ、大丈夫なの?」
どうも弟のミランの方は怖がりのようだ。しかし、きちんと人の話を聞いていることには感心した。
「ミランは偉いねえ。聞き逃さないんだ?」
「っ、だって! 怖いよ!」
「あははっ。大丈夫。襲って来たら勝てば良い」
「……え……?」
「お姉さん。それ、脳筋なセリフ……」
《コレは脳筋で合っておるぞ。考えるより先に直感で動く。襲って来たら者は敵。そして、負けた者の持ち物は勝った者の物。賊なんてのは改心させるより心を折ったもん勝ち。どうだ? ヤバかろう?》
「「うん……」」
「えー。賊相手に考えるのは面倒だし、魔獣は襲ってきたら倒すのが自然の摂理に反しない。それでいいじゃん?」
「お姉さん……その顔で詐欺だって言われない?」
「よく言われるね」
「……そうなんだ……」
子ども達は、早くもアルティナの性質を見抜いた。これに、ついてきているオリエルへと銀狼が声をかける。
《ほれ。我の言った通りだろう。会って間もない子どもらの方が本質を理解しておるわ》
「……ど、どう言ったら良いのか……」
《番うのはやめるか》
「いっ、いえ! ひ、人としては、その……好感は持てますので……私も脳筋寄りですし……」
《目が泳いでおるぞ》
「だ、大丈夫です! 慣れてみせます!」
《険しい道ほど、というやつか? 難儀なものだ》
はっきり言って、今のアルティナには女性としての魅力はない。しかし、媚びることしか知らず、人を貶めることばかりする醜い女性達を見て来たことで、オリエルにとってはアルティナは好ましく映るようだ。
そして、何よりも予想しなかった行動ばかりする。それが少し、オリエルは楽しくなってきていた。
「あ、噂をすれば。ほら、アレがこの大陸の人喰い虎だよ」
「ひっ!」
「く、黒いっ……あんなのっ、普通見つからないっ」
艶々とした濡れ羽のような美しい黒い毛並みの虎。普通にアルティナやオリエルを一飲みできそうな大きさだ。
「丁度良いや。お父様の誕生日プレゼント、迷ってたんだよね~。アレをコートにしたら絶対に似合うっ」
「あ、アレが似合うって、どんなお父さん!?」
《魔王のようで、人々を魅了して陥落させる絶世の美女のようでもある……化け物だ》
「「……っ……」」
この銀狼が化け物という、それを子ども達は想像できなかった。
「あははっ。化け物かあ。まあ、慣れないと雰囲気に呑まれるんだよね~。鬼みたいな仮面してるし」
「「かめん?」」
不思議がる子ども達とつながっている帯を解き、銀狼から飛び降りる。
「じゃあ、アレ狩ってくるから、銀の君はここに居るか、先に行ってて」
そっちもと言って、オリエルの方を見る。
「っ、そ、そんなっ。あんなのを一人で!?」
「場所も悪くないし、余裕だよ」
《森の中ならば、余裕だろうて》
「……余裕……?」
「それじゃね!」
「あっ」
オリエルが詳しく聞く前に、アルティナは向かって来ている人喰い虎へと飛びかかっていた。
そして、ものの数分でその命を刈り取っていたのだ。双剣を使うその戦いぶりを見て、オリエルは既視感を覚えていた。
そんな中、綺麗に皮を剥いでいくアルティナ。その傍で、子ども達は銀狼と地面に穴を掘っていた。遺骸を埋めるのだ。
「出来た!」
綺麗に皮を剥いだアルティナが、そのたっぷりな毛皮を掲上げ、満々の笑みを見せる。差し込んだ日の光に反射したアルティナの髪が、きらりと光る。その光を見たことがあった。
「っ、まさか……あの時の……っ」
そこで、オリエルはある過去の光景を思い出していた。
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