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本編
026 デートだよ!
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再び移動しながら、オリエルは先ほどの既視感を自分の中で探っていた。
思い出したのは、オリエルはかつて、戦場で銀髪の少女に助けられたことがあったということ。
「……っ、似ている……」
それは月の光が一際強い夜だった。国境を守る隊にいたオリエルには印象的な夜となった。
夜襲を掛けて来た隣国との激しい戦いの折、血と泥にまみれ、敵味方入り乱れての絶望的な乱戦の最中、その少女は突然舞い降りた。
数人の黒装束の者達と共に、五百は下らない敵国の者達を的確に無力化していったのだ。
その時、一際目立つ戦いをする少女に目をやれば、月明かりに照らされた髪が銀に輝いているように見えた。あり得ないと思ったのだ。銀髪は神に祝福された色とされており、その色は亡くなった王妃が持っていた。そして、その息子である第一王子に受け継がれた。
祝福を得た第一王子が王になるならば、この国は安泰。そう言われていたのだが、信心深くない者というのが貴族には多かった。悪徳貴族と言えるような者、金しか価値を見出せない者。そんな者達によって、第一王子は亡き者にされたと言われている。
隣国も、この国が神の祝福を受けるとなれば、敵対する自分たちも危ないと思ったのだろう。これに関わっていたと考えられている。その予想は外れてはいないだろう。
そんな銀を持つ少女。見間違いかもしれないとは思いつつも、オリエルはそれを忘れることができなかった。
そして今、陽の光に反射してキラキラと輝くように見えるアルティナの髪を見て、その笑顔と共に過去の記憶にピタリとハマった。
「アルティナ嬢……三年前に隣国の戦場に行ったことは……」
呆然としながらそうオリエルは前を行く銀狼に乗ったアルティナに問いかける。
これにアルティナは少し振り向きながら、あっけらかんとした様子で答えた。
「三年前? ああ、夜襲かけてきてたやつかな? 行ったよ? あいつらのせいで商業ルートが二つも潰されて、お母様がブチ切れてたから、お母様が出て行って大事になる前に私が出たの」
《ああ、アレか。お主が戦闘狂に目覚めた時だな》
「そんなだった?」
アルティナは可愛らしく首を傾げていた。しかし、銀狼は目を細めていた。
《笑っておったろ。敵の血を振り撒きながら。自分はちっとも汚さんで……部下の者らも、何も言わんかったが、明らかに異質なものを見る様な目で見ておったぞ。今はもう慣れたようだが》
「それ、お母様の奥義だね。確かあの時は、はじめて上手くいったから嬉しくて~」
《あの女も物騒な呼び名を持っておるしな》
「『血の舞い姫』ってのでしょ? それ私が受け継ぎたいやつよ」
《お主は既に『略奪姫』と言われておろうに》
「明らかに良い意味じゃないでしょ? 酷い人みたい」
《やっておることは酷いわい》
これを聞いて、口を挟んだのは兄のセランだ。
「お姉さん……りゃくだつするの……?」
「寧ろ賊からの奪還なんだけどね?」
「だっかん……取られたものを、うばいかえす?」
「それ」
「なら、ティナ姉ちゃん良いことしてるんじゃないの?」
弟のミランが不思議そうにする。これにアルティナも不思議だと首を捻る。
「良いよね? 賊も倒してお仕置きしてるし。良いでしょう?」
「「うん」」
「そうよねっ」
「「「っ……うん」」」
振り向いて笑顔で同意を求めるアルティナに、思わずオリエルもドキリとしながら頷いた。
しかし、銀狼は違う。
《賊よりも賊っぽく吊し上げるから心象が良くないのだろう。お主の強さでは、相手がどれだけの人数になろうとも、蹂躙になるでなあ》
「あ~、技を試したりするからかな?」
「技を……試す……」
これにオリエルが反応する。そして、思い出したのだ。過去に楽しそうに剣を振るっていたことを。
「……確かに……楽しそうだった……」
《羨ましかったか?》
「ええ……っ、あ」
「まあ、楽しかったよね~。だって、相手は奪いに来た奴らだもん。やられ返されても文句言える立場にないしねっ。近々また、来そうだから、どう?」
「っ……それは……どんな……」
どういうことだと困惑するオリエルに、セランとサランがオリエルの方を振り向いて、期待したような顔をした。
「これ、知ってる! デートだよ!」
「けっこんするんでしょ? デートはだいじだってきいたことある!」
「でっ!」
《戦場で確かめ合うものもまあ……あるのではないか? 番になるならば、強さの確認は必須であろう》
「そ、そういう……いや、え? 近々また来そうって……」
「あの国も諦め悪いよね~。あ、主に王弟派ね。帝国に倣ったとか言って、自分の国の王位は要らないから、奪ったこの国は自分のものにするってやつ。そろそろ決めないとダメかな~」
「え? は!?」
色々と大問題な情報を聞き、オリエルはその後しばらく沈黙していた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
思い出したのは、オリエルはかつて、戦場で銀髪の少女に助けられたことがあったということ。
「……っ、似ている……」
それは月の光が一際強い夜だった。国境を守る隊にいたオリエルには印象的な夜となった。
夜襲を掛けて来た隣国との激しい戦いの折、血と泥にまみれ、敵味方入り乱れての絶望的な乱戦の最中、その少女は突然舞い降りた。
数人の黒装束の者達と共に、五百は下らない敵国の者達を的確に無力化していったのだ。
その時、一際目立つ戦いをする少女に目をやれば、月明かりに照らされた髪が銀に輝いているように見えた。あり得ないと思ったのだ。銀髪は神に祝福された色とされており、その色は亡くなった王妃が持っていた。そして、その息子である第一王子に受け継がれた。
祝福を得た第一王子が王になるならば、この国は安泰。そう言われていたのだが、信心深くない者というのが貴族には多かった。悪徳貴族と言えるような者、金しか価値を見出せない者。そんな者達によって、第一王子は亡き者にされたと言われている。
隣国も、この国が神の祝福を受けるとなれば、敵対する自分たちも危ないと思ったのだろう。これに関わっていたと考えられている。その予想は外れてはいないだろう。
そんな銀を持つ少女。見間違いかもしれないとは思いつつも、オリエルはそれを忘れることができなかった。
そして今、陽の光に反射してキラキラと輝くように見えるアルティナの髪を見て、その笑顔と共に過去の記憶にピタリとハマった。
「アルティナ嬢……三年前に隣国の戦場に行ったことは……」
呆然としながらそうオリエルは前を行く銀狼に乗ったアルティナに問いかける。
これにアルティナは少し振り向きながら、あっけらかんとした様子で答えた。
「三年前? ああ、夜襲かけてきてたやつかな? 行ったよ? あいつらのせいで商業ルートが二つも潰されて、お母様がブチ切れてたから、お母様が出て行って大事になる前に私が出たの」
《ああ、アレか。お主が戦闘狂に目覚めた時だな》
「そんなだった?」
アルティナは可愛らしく首を傾げていた。しかし、銀狼は目を細めていた。
《笑っておったろ。敵の血を振り撒きながら。自分はちっとも汚さんで……部下の者らも、何も言わんかったが、明らかに異質なものを見る様な目で見ておったぞ。今はもう慣れたようだが》
「それ、お母様の奥義だね。確かあの時は、はじめて上手くいったから嬉しくて~」
《あの女も物騒な呼び名を持っておるしな》
「『血の舞い姫』ってのでしょ? それ私が受け継ぎたいやつよ」
《お主は既に『略奪姫』と言われておろうに》
「明らかに良い意味じゃないでしょ? 酷い人みたい」
《やっておることは酷いわい》
これを聞いて、口を挟んだのは兄のセランだ。
「お姉さん……りゃくだつするの……?」
「寧ろ賊からの奪還なんだけどね?」
「だっかん……取られたものを、うばいかえす?」
「それ」
「なら、ティナ姉ちゃん良いことしてるんじゃないの?」
弟のミランが不思議そうにする。これにアルティナも不思議だと首を捻る。
「良いよね? 賊も倒してお仕置きしてるし。良いでしょう?」
「「うん」」
「そうよねっ」
「「「っ……うん」」」
振り向いて笑顔で同意を求めるアルティナに、思わずオリエルもドキリとしながら頷いた。
しかし、銀狼は違う。
《賊よりも賊っぽく吊し上げるから心象が良くないのだろう。お主の強さでは、相手がどれだけの人数になろうとも、蹂躙になるでなあ》
「あ~、技を試したりするからかな?」
「技を……試す……」
これにオリエルが反応する。そして、思い出したのだ。過去に楽しそうに剣を振るっていたことを。
「……確かに……楽しそうだった……」
《羨ましかったか?》
「ええ……っ、あ」
「まあ、楽しかったよね~。だって、相手は奪いに来た奴らだもん。やられ返されても文句言える立場にないしねっ。近々また、来そうだから、どう?」
「っ……それは……どんな……」
どういうことだと困惑するオリエルに、セランとサランがオリエルの方を振り向いて、期待したような顔をした。
「これ、知ってる! デートだよ!」
「けっこんするんでしょ? デートはだいじだってきいたことある!」
「でっ!」
《戦場で確かめ合うものもまあ……あるのではないか? 番になるならば、強さの確認は必須であろう》
「そ、そういう……いや、え? 近々また来そうって……」
「あの国も諦め悪いよね~。あ、主に王弟派ね。帝国に倣ったとか言って、自分の国の王位は要らないから、奪ったこの国は自分のものにするってやつ。そろそろ決めないとダメかな~」
「え? は!?」
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